木村拓哉・山口智子 撮影/本誌写真班

 世の中を騒がせた事件やスキャンダル、はたまたちょっと気になることまで、各分野のエキスパート“セキララアナリスト”たちが分析(アナリティクス)! ニュースの裏側にある『心理』と『真理』を、解き明かしてご覧にいれます。

山口智子と木村拓哉、
かつての月9はどれだけスゴかった?

 “ミスター月9”といったら、キムタクこと木村拓哉がその筆頭格! 対をなす“ミス月9”を挙げるとしたら、山口智子かもしれない。その彼女が23年ぶりに7月クールの月9ドラマ『監察医 朝顔』(フジテレビ系)に出演していることが話題だ。その出演には、はたしてどのような背景があるのか? ドラマ評論家・成馬零一さんに聞いた。

「フジテレビとしては、’90年代にテレビドラマを見ていた当時のF1層(25〜35歳の女性)だった、現在40~50代の女性視聴者を取り込みたいのではないかと思います。男性では織田裕二、唐沢寿明、女性では鈴木保奈美、中山美穂、常盤貴子といった、かつての人気俳優が再ブレイクしているので、山口さんの起用も同じ流れなのではないでしょうか」(以下カッコ内は成馬さん)

 山口智子が女優としてブレイクしたのは、トレンディードラマブームが一段落した’90年代前半。『ダブル・キッチン』『スウィート・ホーム』(ともにTBS系)で主演、そのほか三谷幸喜脚本の『王様のレストラン』『古畑任三郎』(ともにフジテレビ系)といった作品に出演した。

代表作といってもおかしくない『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)で、山口さんは“恋と仕事に頑張るアラサーヒロイン像”を打ち出しました。1996年放送の『ロングバケーション』はその集大成で、完成形です。男女雇用機会均等法の適用以降に社会に出た女性でありながら、“強さ”を全面に打ち出さずに、ひょうきんでサバサバした明るさと、ちょっと自虐的なところが、男から見てもカッコいいと人気になりました」

 フジテレビのドラマ全盛期時代の盛り上がり方はすごかった。『ロンバケ』はアラサーの売れないモデル・葉山南(山口智子)と年下のイケメンピアニスト・瀬名秀俊(木村拓哉)の恋愛という構造が画期的で、当時は「30代の女性が若い男と恋愛関係になる」ということ自体が、攻めの姿勢のドラマに見えたとか。

華やかな恋愛ドラマというイメージが強い『ロンバケ』ですが、放送されたのは1996年という平成不況の始まりだったためか、物語のベースにあるのは冴(さ)えない男女の話。タイトルの『ロングバケーション』(長いお休み)は、バブル崩壊以降、経済が停滞していた日本そのもので、当時は“一時期のお休み”だと作り手が考えていたのがよくわかります。実際はその後も景気は回復せず、長い停滞が続いてしまうのですが、そういった時代の空気を体現していたからこそメガヒットドラマとなったのでしょう。

 また、当時まだアイドルというイメージが強かったSMAPの木村拓哉が相手役を演じたことも画期的でした。『ロンバケ』の成功以降、ジャニーズのアイドルが主演俳優に起用されることは当たり前となっていきます

 主演のキムタクが“王座”に君臨できたのも、そんな時代背景にうまく乗れたことがひとつの理由だといえるようだ。

月9枠は今後どうなっていくのか

 月日は流れ、「山口智子再び月9の大舞台にカムバック!」ーーというわけではないというのが成馬さんの分析。今回の出演も、“月9女優の復帰”ではなく“力のある女優”として呼ばれた可能性のほうが高いとか。

「結婚してブランクがあるかのように思われがちですが、是枝裕和監督の『ゴーイング マイ ホーム』(2012年)、大根仁監督の『ハロー張りネズミ』(2017年)の演技も素晴らしかったですし、宮崎駿監督のアニメ映画『崖の上のポニョ』(2008年)の声優も素晴らしかったです。最近では、朝ドラの『なつぞら』にも出演しているので、“カムバック”という感じではないと思っています」

 では、山口智子と木村拓哉、月9トップスターが同枠で共演する可能性についてはというと、「すでにテレビ朝日で放送された『BG~身辺警護人~』で離婚した奥さん役で共演しているので、難しいのでは?」というお見立て。

 ファンならぜひとも期待したいが、月9自体がここ数年パッとしないという点はドラマ好きにとって寂しいところ。しかし、ここに来て復調の兆しがあるのだとか。現に『監察医 朝顔』の第1話は視聴率13.7%という好発進だった。

近年の月9は、医者や弁護士を主人公にした職業ドラマに舵(かじ)を切ったことで、視聴率が10%を超えるようになってきました。ただ、それと引き換えに、かつてあった“月9らしさ”はなくなってしまったように思います。テレビ朝日の刑事モノや医療モノのドラマを見ている感覚に近く、破綻がなくて安心して楽しめるのですが、野島伸司や北川悦吏子がオリジナリティーの高い作品を書いていた時代に比べると、近作は脚本の“作家性”が薄く感じますね」

 総論として「せっかく視聴率が回復し視聴者の注目が集まっているので、そろそろ“脚本家の顔”がはっきりとわかる、月9ならではの作品が見たい」と成馬さん。

 あの手この手でテレビ業界はテコ入れを図っている最中、ありし日の“国民的ドラマ”はなかなか生まれにくいご時世でもある。新鮮な気持ちで見られるドラマ作品が、ドラマの王様枠である月9から再び登場することを期待したい!


<今回のセキララアナリスト>

成馬零一さん

成馬零一さん
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。テレビドラマの評論を中心に、マンガやアニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

 

<文/雛菊あんじ>