左上から時計回りに、丸川珠代氏、市井紗耶香氏、塩村文夏氏、水野素子氏、吉良佳子氏

 東京選挙区は改選数6に20人が立候補し、うち6人が女性候補という戦い。前回選挙より議席は1つ増えたものの、首都バトルを勝ち抜くのは容易ではない。

女性候補者たちの舌戦!

 立憲民主党の新人で元都議の塩村文夏氏(41)は「参院の約8割、衆院の約9割が男性議員。男女のバランスが悪すぎます」と指摘する。

「しかも当事者意識のない政治家が多い。麻生財務相のように年金をもらっているかどうかさえわからない政治家もいます。こういう人たちに政治をまかせていたら生活は変わりません。私は違う。年金は将来設計の柱になる」

 と庶民目線で語った。

 塩村氏は都議時代、議場で男性都議から「早く結婚したほうがいい」などとセクハラやじを浴びた。それでも待機児童問題や動物虐待防止などに取り組み、結果を出した。街頭演説では、就職氷河期に社会に出た“ロスジェネ世代”として雇用問題に言及する。

「短大を卒業後、非正規で働き、年金を払いながら奨学金を返す苦しい20代を過ごしました。非正規雇用は低賃金で企業に使われ、この賃金の安さなどに引っ張られて正社員の実質賃金も上がっていないといわれています。非正規雇用で受け取れる年金は月5万〜6万円にしかなりません。安心して年をとれないのに、この国は武器・防衛装備品を爆買いしている。このままでいいのでしょうか」(4日、JR品川駅前)

 熱のこもった演説のスタミナ源は、母親お手製のキュウリのだし漬けだ。

 国民民主党の新人で宇宙航空研究開発機構(JAXA)職員の水野素子氏(49)は2児を育てるシングルマザー。子どもを学校に送り出した後、電車で約1時間かけて出勤するビジネスウーマンだ。

「宇宙開発は生活の安全を守る技術でもある。例えば人工衛星を使い、土砂災害を避ける安心な都市計画を行う。お年寄りの交通事故が多発しているが、人工衛星のレーダーを使った自動ブレーキ装置で事故を未然に防ぐことができる。みなさんの生活を安全に守りたい」(4日、JR高田馬場駅前)

 街頭でマイクを握るのは慣れていないせいか、やや緊張しながらも、

「宇宙航空の技術で世界の1番を目指す」と宣言した。

 共産党の現職で党中央委員の吉良佳子氏(36)は、ブラック企業対策の実績をアピール。国会でこの問題を追及し、厚労省に悪質な企業名を公表させることに成功した。労働基準法違反の企業は400社以上にのぼり、一定の歯止めをかけることができた。

 街頭演説では性的少数者(LGBTなど)問題に触れて、自民党への怒りを爆発させた。

自民党議員が『LGBTは生産性がない』などと差別発言をしましたが、子どもを産むとか、誰を好きになるとかは個人の問題。政治家に口出しされる筋合いはない。自分の人生は自分で決める、それぞれの人生を支える政治こそが必要。夫婦別姓や同性婚を認める法律を野党は国会に提出しています。反対しているのは安倍首相、自民党、公明党。多様な生き方を認めようとしない政権に日本の未来を託すわけにはいかない」(5日、京成上野駅近く)

 自身は3歳児の母親だが、「誰でも幸せに暮らせる社会を願っていこうではありませんか」と訴えた。

菅官房長官がクギを刺す理由

 自民党の現職で元五輪相の丸川珠代氏(48)は公示日の4日、建設中の新国立競技場近くに構えた選挙事務所前で出陣式。陣営スタッフとそろえた赤いポロシャツ姿で選挙カーの上に立ち、集まった支持者に向けてマイクを握った。

丸川珠代氏自民

「オリンピック・パラリンピックは、子どもたちにとっても誇りを持て、日本人でよかった、日本って素晴らしいと思ってもらえる大会にしたい。高齢化が進んでもなお安定した社会を築き、文化が豊かで平和を愛する国だということを、大会を通じて世界の国に伝えたい」

 応援に駆けつけた菅義偉官房長官は「過去12年間の数々の実績、知名度で優位な戦いをしている。そんなときほど気を引き締めて戦わなければいけない」とクギを刺した。

 それもそのはず。この東京選挙区の情勢は読みにくいとされているからだ。もともと投票行動の読めない無党派層が多いうえ、れいわ新選組代表の現職・山本太郎氏(44)が想定外の“爆弾”を見舞った。

 山本氏は前回2013年選挙で組織票もなく5議席中4位の得票でサプライズ当選しながら、今回は東京選挙区をあっさり後進に譲って比例代表で出馬。そこでも優先的に当選する「特定枠」に重度障害者の2候補を立て、一気に党勢拡大を狙う。カンパで2億3000万円以上集めるなど追い風は強烈だ。

 東京選挙区を戦うのは、れいわの新人で沖縄創価学会の現役学会員・野原善正氏(59)だ。昨年の沖縄県知事選に続いて同学会が支持する公明党に歯向かい、山口那津男党代表(67)と直接対決する。

「辺野古新基地建設で都民にもっと強い問題意識を持ってもらいたくて立候補した。米軍基地の受け入れを沖縄以外の都道府県に平等に負担してもらうための議論がそろそろ出てきてもいいのではないか」(4日、JR秋葉原駅前)

 応援する山本氏が「ふつう、ありえない話ですよ。公明党の代表が立つ選挙区に異を唱える創価学会員が立候補! 大人のケンカをしようじゃないか。聞いているか、山口なっちゃん!」と叫ぶと、徐々に数を増やしていった聴衆は大いに盛り上がり、熱気ムンムンだった。

 さて、今回の参院選は、各政党に候補者をできるかぎり男女同数にするよう求める「候補者男女均等法」施行後、最初の国政選挙。主な政党別にみると、女性候補者比率の高い順に共産55%(女性22人)、立憲45%(同19人)、国民36%(同10人)などとなっており、与党は自民15%(12人)、公明8%(2人)とまったく届かず当落以前の問題。本当に女性を活躍させる気があるのだろうか。

 政治家は口先の商売と揶揄されるけど、こうしたところに政党の本気度が出る。

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市井紗耶香氏立憲・比例代表

「政治の道に行きたいと決意したのは子育ての当事者が少なすぎるからです」
 
 立憲民主党から比例代表で出馬したタレントの市井紗耶香氏(35)は、14歳、12歳、6歳、2歳の4児を育てるママさん候補。街頭演説ではMCから「あらためてご紹介するまでもないと思いますけど」と紹介されるなど元モーニング娘。の知名度を生かす。 

「はじめてわが子を抱いたとき、この子のことは何があっても絶対に守ると誓いました。子育ては本当にたいへんですが、子どもたちの笑顔を見ていると疲れが吹っ飛ぶ。ただ、いまの日本の子育ては本当に温かいものなのか、疑問に思うことがたくさんあります。例えば、病児保育。ここ東京はものすごく少ない」 

 仕事と育児を両立させている母親にとって、急な預かり先を見つけるだけでもひと苦労で、見つけても交通の便が悪いなど疲労困憊しているのが実情という。 

 より現実的な話も……。「どんなに節約しても子育てにはお金がかかります。毎月のミルク代、オムツ代、食費、洋服代、数えだしたらキリがありません。児童手当をいただいており感謝しています。ですが正直、手当だけでは十分ではない。子育て家族は誰もがそう思っています」 

 実感のこもる演説だった。