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 いつの時代も、離婚につきまとうのはお金の問題。離婚に特化した行政書士事務所を開業、離婚サポーターの肩書も持つ露木幸彦さんが相談を受けたとあるケースを紹介してくれた。

「今度はボンテージ着てきてよ」

 愛人を囲い、金を貢ぐ夫。パチンコにふけって借金をつくる夫。大酒を飲み家で暴れる夫。そして、愛想を尽かして出ていく妻─昭和の時代、このような光景はけっして珍しいものではなかった。

 しかし、令和時代の女性は社会進出が進み、離婚の現場では今、男女逆転現象が起きはじめたようだ。

 例えば、夫が家事や育児を担当。女性は外で働いて、ほかの男性と心を通わせてしまったケース。夫に秘め事を知られ、修羅場に至ったとしても、妻側に経済的な不安はない。むしろ「人生をやり直すチャンス」とばかりに前向きにとらえ、子どもを夫に渡して離婚を躊躇しない……そんな新時代の離婚の形が増えている。

 新庄香織さん(36=仮名、会社員、年収350万円)もそのひとり。夫(36=会社員、年収350万円)が一時的に職を失っていたとき、香織さんが夫を養っていた名残で、9歳の息子、6歳の娘の育児や家事の大半は夫が担当している。

 きっかけは、香織さんが参加していた趣味のパワースポット愛好サークル。30人ほど男女が参加し、神社仏閣や滝、湖などのパワースポットを一緒に巡る、という活動内容だった。

 参加当初は「日帰りで出かけたい。神社にお参りに行きたい」と夫に伺いを立てていた香織さんだったが、夫が「気晴らしになれば」と快く送り出したのを機に、外出の回数は増え、2か月に1度から、ついには毎週出かけるようになった。

 次第に夫は「ちゃんとサークルに参加しているのだろうか。精神的に安定しているのは本当にパワースポットのおかげなのか?」と怪しむようになった。

 香織さんはスマホのデータをパソコンに保存していたが、パスワードを生年月日に設定したのは迂闊だった。夫はパソコンを開き、パスワードをすり抜け、バックアップを確認。そこにLINEのやりとりを目撃した。

「愛しているよ♪」「私も♪」「食事やデートはどうする?」「直接(ホテル)でいいよ」「今度はボンデージ着てきてよ」「え〜、恥ずかしいな♪」……その生々しい内容を夫にとがめられ、香織さんはすべてを白状せざるをえなかった。

親権はアッサリ夫に

 そもそも子どもは1日の大半を夫と接しており、香織さんより夫に懐いていた。香織さんは子どもに相手にされず家族と距離を感じていた。そのうち週末は香織さんが留守番、夫と子どもが遊びに行くように。

 ふてくされた香織さんは土日出勤の会社に転職し、ますます家庭内で孤立していった。その寂しさを紛らわすため参加したのが件のサークルで、優しくしてくれた男に気を許した……というのが不倫の経緯だった。

 香織さんが、

「あなたたちが好き勝手にして私をのけものにしてきたんじゃないの」

 と訴えかけても、夫は、

「一緒に出かけても、いつも不機嫌じゃないか」

 と返し、また、

「あなたが無視して、私は居場所がなかった」

 と吐露しても、

「居場所がなくなったのは香織のせいだろ?」

 と相手にされず、香織さんは、これ以上この家にいてもしかたがない、と感じた。

 とはいえ、夫も最初から離婚ありきではなかった。“きちんと謝り、心を入れ替え、2度と同じことをしないと誓えば結婚生活を続けてもいい”と譲歩したのだが、「夫や子どものせいで精神的に追い詰められたのに、なぜ自分のほうが頭を下げなければいけないのか」と、その申し出を退けた。

「今の家族とやり直すより、ゼロから新しく人生をやり直したい」と決意を固め、彼女のほうから別れを切り出したのだ。そして子どもの親権についても争うことなく夫に渡し、離婚が成立した。

 夫は子どもの養育費を請求しなかったので、香織さんは経済的にも独身時代に戻ったという。

 離婚が原因の父子世帯は増加傾向で「離婚したら子どもは母親に」という状況は、少しずつ変わりはじめている。


執筆/露木幸彦 離婚サポーター、行政書士、ファイナンシャルプランナー。1980年生まれ。離婚に特化した行政書士事務所を開業。著書に『イマドキの不倫事情と離婚』『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で!!!!!』など多数