体験コーナーで、南極で採取した貴重な氷を触ろう! 当然ながら徐々に解けていくので、お早めに 撮影/渡邉智裕

 「現在は周辺環境が整い、研究目的で南極観測が行われていますが、昔は生死をかけた冒険でした。知らない世界にワクワクする一方で、遭難しかけたこともありました」

 そう話すのは、南極観測隊員ОBで東京・立川市にある『南極・北極科学館』のナビゲーターを務める村石幸彦さん(83)。村石さんは、なんと第4次('59年~'61年)越冬隊員として南極観測船第1号「宗谷」に乗り込み、あの“タロとジロ”とも同じ時間を過ごした人物。

 つまりは、'83年に大ヒットした映画『南極物語』の、“真実の物語”をここ科学館で後世に語り継いでいるのだ。そんな“レジェンド”の案内にいささか恐縮するも、そこはものすごくやさしい方なのでご心配なく!

学生寮のような南極基地

 まずは南極と北極がどんなところかを知ろう。南極大陸の大きさは1388万キロ平方mで、日本の面積の約37倍。大陸の90%以上が氷でできていて、その厚さは平均して1860mもある。そして氷の下に、海の底に島のように点在しているのが大地だ。一方の北極はというと、流氷に代表されるように陸ではなく海。必然的に南極に観測所が建てられたというわけだ。

 その南極の端に位置する、東オングル島に昭和基地が設立されたのが'57年のこと。

「基地ができた当初は本当に掘っ立て小屋で、いかに寒さをしのぐかでした。現在の基地には床暖房が整い、室内では半袖のTシャツで過ごせます。もう御殿ですよ(笑)」(村石さん、以下同)

 隊員の部屋を再現した展示があるのだが、ベッドや机が取りそろえられた4畳半の個室は、まるで学生寮。過酷な南極のイメージを覆す快適空間だ。

貴重なオーロラで南極気分

 そもそも南極点の気温こそマイナス60℃と想像を絶するが、昭和基地周辺はというと北海道の冬くらいで、思ったよりも寒くはないそう。この日の現地の気温は「マイナス7℃」と表示されている。

 そんな昭和基地のライブ映像が見られるのだが……、モニターは真っ暗。故障?

 「南極は、日本と真逆で今は冬。しかも今は太陽が昇らない“極夜”(取材時)なので、ずっと夜だから暗いんです。でも、運がよければオーロラを見ることができますよ」

 そのオーロラを、ここ科学館では常時見ることができる。「TACHIHIオーロラシアター」では、直径4mのドーム型スクリーンに実際に南極や北極で観測された貴重なオーロラ映像を上映。幻想的に揺れるオーロラをゆったりと眺めれば、もう南極気分。

 そして館内でひときわ目を引くのが、ドドンと展示された雪上車「KD604」。'68年に、日本の観測隊が初めて南極点に到達したときに使用された実物だ。マイナス60℃の環境下で、標高4000m、5200kmの氷原走行に耐え、5か月かけて南極点までを往復したのだ。定員4名の狭い車内に揺られ、それでも11名の隊員が3台の雪上車に乗って命がけで目指したと考えると、当時の日本にとって南極点は歴史を変える場所だったのだろう。

車内は狭いながら、2段ベッドや調理台も 撮影/渡邉智裕

 そんな使命を引き継いできた今日、南極に関する研究分野は細分化。それぞれの専門家が第60次越冬隊員(31名、うち5名が女性)として滞在し、研究を重ねている。

 そのひとつ「氷床コア」研究は、深く氷を掘って調べることで、温度やCO2の量から氷河期などの正確な年代を測るのだが、その調査でも地球温暖化が顕著に報告されているという。

「学者によって意見が分かれますが、仮に温暖化が進んで南極の氷がすべて解けてしまうと、地球上の海面は約60m上がると言われています。世界の多くの都市が海に沈んでしまうかもしれません」

南極の氷で「オンザロック」

 温暖化はすでに他人事ではない。省エネなど、日々の生活でひとりひとりが意識を変える時期にあるのだろう。

 さて、怖い話で冷えた後は体験コーナーで実際にひんやりしよう。研究のために冷凍用コンテナに詰めて持ち帰られた、貴重な南極の氷に触ることができるのだ!

 キラキラと輝く氷の中には、通常よりも気泡が満ちているのがわかる。南極の氷は、降り積もった雪が固まってできているため、隙間には数万年前の空気と、それに伴う当時の情報が閉じ込められている。氷が解けると、パチパチと空気がはじける音が聞こえるのも特徴だ。ロマンあふれる南極の氷。これを─。

「隊員のころ、これでウイスキーをオンザロックで飲んだものです(笑)。感慨深かったですね。氷を体験したい? 観測隊の壮行会に参加できれば……、(かき氷にしたい)それは実際に南極に行くしかないね(笑)」

気泡の多さが特徴。パチパチと空気がはじける音が 撮影/渡邉智裕

 そう、今や南極さえも“ツアー”で行ける時代。成田空港から飛行機と耐氷船を乗り継げば、極上の南極かき氷が作れるのだ! ちなみに旅費は安くて100万円前後(編集部調べ)。うん、やっぱり、この夏は南極・北極科学館でひんやりしよう~。

国立極地研究所「南極・北極科学館」
東京都立川市緑町10-3 
TEL042-512-0910
開館日:毎週火~土10:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:日、月、祝日、年末年始、8月15日、16日入館料:無料

取材・文/山崎ますみ