過去には仕事をする被害男性の至近距離で女が暴言を吐くことも(被害男性提供)

 兵庫県明石市で、隣人にしつこく暴言を吐いたなどとして県迷惑防止条例違反により女(64)が逮捕されたのは今年3月5日のこと。

「アホの建具屋やんけ」

「商売クビ〜商売倒産〜」

「お金の横領、お金の横領」

「お前あたまおかしいのんけ」

裁判を傍聴した被害者男性

 そんな耳を覆いたくなるような暴言の嵐が、約20年にわたり浴びせられていた。

 逮捕から半年。被害者である建具店の男性店主(54)は、

「昔は暴言でイライラしていたこともありましたが、今はそれもなくなり本当に平和です。うちに来ることも、道でバッタリ出会うこともありません。静かですよ」

 当たり前の日常を取り戻したと、穏やかに話す。

 5月には初公判が神戸地裁明石支部で開かれた。被害男性は裁判を傍聴したという。

全然反省していませんでした。(犯行の)理由についても“(建具屋の)音がうるさい”“気に食わんかった”と話すばかり。今後どう接していくのか尋ねられると、うちの前を通らないように遠回りすると述べるなど的はずれな答えばかり。よくわかってないんやろうなという感じです」

 しかし、勾留生活は相当こたえたようで、

「拘置所にはもう入りたくないと話していました。“朝ごはん食べて、昼ごはん食べて、おやつが出て、1日ずーっとやることがない”と言うんです。働くわけでもないし、楽やんかと思いましたが……」

口を開けば暴言ばかり。20年間も罵り続けた女性(被害男性提供)

口を開いた元・暴言おばさん

 裁判中に弁護士を通して10万円を支払いたいと連絡があったというが、

「断りました。親父も“そんなんけったくそ悪い、いらんわ”言うてました。それ以外の謝罪などは一切ありません」

 被害男性は母親が亡くなった際“バチがあたったから死んだんや”と暴言を吐かれ、悔しい思いをしたこともあるが、

「もう静かな状態がありがたいので、恨んだりするような気持ちはありません。これがずーっと続いてくれればいいんですが……」

 7月9日に懲役6か月、執行猶予2年の有罪判決が下った。

 自宅に戻った“元・暴言おばさん”は何を思うのか。

「弁護士さんにも言われとるんよ。次やったら刑務所だからねって。もう拘置所がしんどかった。2か月と2日もいてな、頭おかしくなるか思ったわ。また入るの嫌やから、今はな、家でじーっとしとる」

 そう話す口調は意外にも穏やかで、どこか愛らしい。

 なぜ暴言を吐き続けたのか。

「朝な、みんな出ていって、家で私ひとりになるんよ。するとキンキン音がして、私をいじめるんよ。建具屋も悪いんや。裁判では言いたいことがあったけど、弁護士に“言っちゃダメ”と言われたから黙っとったんよ」

 と恨み節も。ちなみに、市の騒音測定では基準範囲内だったから、この反論は苦しい。

 一方、事件が報道されたことで参っていることがあるという。

「長男はたまに来てくれるんやけど、事件があってから、次男がうちに来なくなってな。孫も遊びに来てくれない。前は2か月に1回は来ていたのに……。何度、電話しても出てくれんくて。寂しいんよ。夫はそのうち来るよと言うんやけど……」

 弱々しく話す声からは、後悔がにじみ出ていた。