結婚を発表した、小泉進次郎と滝川クリステル

 小泉進次郎衆院議員(38)とフリーアナウンサーの滝川クリステルさん(41)の結婚は、永田町だけでなく、猛暑の日本列島の津々浦々まで届く大ニュースとなった。

 政界のトップスターの小泉氏と、東京五輪招致での「お・も・て・な・し」で注目を集めた才色兼備の女性タレントという組み合わせ。安倍晋三首相も「令和時代の幕開けにふさわしいカップル」と手放しで祝福した。

例のない首相官邸での結婚会見

 小泉氏自らが明かした滝川さんの妊娠も、「できちゃった婚」という負のイメージより、「人気が先行する政界の天才子役」(自民長老)とも揶揄されてきた小泉氏が「本物の大人の政治家・ニュー進次郎」(閣僚経験者)に脱皮する大きなきっかけになるとみられている。

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 また、小泉氏が自民党厚生労働部会長として取り組んでいる少子化対策でも、「夫と父親」になることで地に足がついた政策づくりも可能となる。さらに、英語とフランス語も操るトリリンガルの伴侶を得たことは、ポスト安倍をにらんでの国際社会へのデビューの足がかりともなる。「まさに一石三鳥の結婚話」(自民若手)というわけだ。

「令和のビッグカップル誕生」のニュースが飛び出したのは7日昼過ぎの首相官邸だった。滝川さんを伴って菅義偉官房長官と面会した小泉氏が官邸の記者団に「結婚します」と報告した瞬間、どよめきと歓声が広がった。テレビ各社は緊急速報として発信、民放テレビ各局はそろって番組を中断し、官邸からの実況中継に切り替える騒ぎとなった。

 首相官邸という日本政治の中枢で、純白のスーツを身にまとった滝川さんと並んで記者会見した小泉氏は「こういう官邸という場で、私ごとで大変恐縮ですけど、私もようやく結婚をすることになりました」と切り出した。そして、「今回、突然のことになったが、実は(滝川さんの)おなかの中には子どももいるので、どうかできる限り静かに、温かく見守っていただきたい」と付け加えた。

 官邸での首相への結婚報告としては、2006年に小泉チルドレンの代表格ともてはやされていた杉村太蔵衆院議員(当時)が、小泉純一郎首相(同)を官邸に訪ねた例がある。ただ、カップル2人そろっての結婚発表会見が官邸からライブで発信されたのは「過去に例がない」(民放幹部)という。

 注目されたのは官邸での結婚報告のタイミングだ。小泉氏は身重の滝川さんが安定期に入ったこと、6日の広島、9日の長崎という原爆の日の合い間で「この日しかない」と判断。菅長官に2人そろっての面会を申し入れたと説明した。

 前日にはプロゴルフの全英女子オープンで日本人選手として42年ぶりメジャー制覇を果たした渋野日向子選手の帰国と記者会見がテレビで生中継されたばかり。「まさに絶妙のタイミング。テレビ局の動きを熟知する小泉氏らしい」と政界関係者も舌を巻く。

したたかなメディア戦略か「政治の私物化」か

 しかも、すべてのメデイアが追っていた小泉氏の結婚話なのに、自ら公表するまでまったくスクープを許さなかったのも極めて異例で、完璧な情報管理にも成功した。「週刊誌に結婚をかぎつけられる前に、昼間のワイドショーの時間を狙って一斉に情報を発信したように見える」(有識者)だけに、小泉氏のメディア戦略のしたたかさも際立つ。各メディアが一斉に実施した街頭インタビューでも、ほとんどが「驚いたが、素晴らしいカップル」などと祝福する反応ばかりだったという。

 ただ、小泉氏の今回の手法については、辛辣な政権批判で知られる女性ブロガーが「自民党の議員になると首相官邸で結婚発表ができるのか。政治の私物化もこれに極まれりって感じ」と書き込むなど、批判も出ている。小泉氏は昨年9月の自民党総裁選の際、投票直前に「石破茂さんに投票します」と記者団に明かして「首相陣営と石破陣営の双方に配慮した八方美人の対応」(自民長老)と揶揄された過去もある。今回も「メデイアの使い方は抜群にうまいが、あざとさも目立つ」(自民幹部)と苦言を呈する向きも少なくない。

 小泉氏はこれまで、結婚観を聞かれると「古風なところがある」と亭主関白志向を口にし、「だから(結婚は)難しい」などと煙に巻いてきた。しかし、結婚した滝川さんは4学年上の「姉さん女房」で、しかも美貌と巧妙なトークでテレビ局などから引っ張りだこの「バリバリのキャリアウーマン」だ。

 この点について小泉氏は「この政治バカの私が、クリステルさんといると政治という戦場から離れることができる。政治家・小泉進次郎から人間・小泉進次郎にさせてくれる」と説明。「決め手は何だったか」との問いには「理屈ではない。育った環境とか、おやじのこととか、家族の環境として育っていく中でいろいろあったので、『絶対結婚』という価値観とか考え方は、正直私にはなかった。だけど、その気持ちを解かしてくれた、自然とそういう決断をするに至ったことが、まさに理屈を超えている」と答えた。

 横でほほ笑みながらうなずいていた滝川さんは、2013年の東京五輪誘致の際、フランス語と英語で日本の「お・も・て・な・し」の心をアピールし、同年の新語・流行語大賞の年間大賞を受賞している。気の早い向きは今回の小泉氏の「理屈ではない」も有力な流行語大賞候補になるとはやし立てる。

トリリンガルのファーストレディ外交も

 滝川さんは父親がフランス人、母親が日本人で、フランス・パリ生まれ。青山学院大学時代にアナウンサーを目指すが、大手テレビ局の局アナ試験に落ち、努力を重ねてアナウンサーやキャスターとして人気者となった苦労人の側面も持つ。また、母方の祖父は元神戸市議会議員、曾祖母は日本の婦人運動の草分け的存在だったとされ、「だから政治家の妻にも違和感はなかったのでは」(政界関係者)との指摘もある。

 滝川さんは自身のインスタグラムに「私が今までイメージしてきた『政治家の妻はこうあるべき』という形に捉(とら)われず、私らしく、ありのままの生き方、スタイルを尊重してくれることを(小泉氏と)話し合う中で感じることができたことも心強く感じました。私はこれからも仕事を続けながら、滝川クリステル、小泉進次郎という個人を同志のような気持ちで高め合えるような夫婦関係を築いていきたいと思っています」と書き込んだ。

 小泉氏が将来、首相の座を射止めた際は「過去に例のない語学力を駆使したファーストレディ外交で国際社会を沸かす」(外務省幹部)ことを期待する声も相次ぐ。令和改元で皇后の雅子さまも語学力を生かして国際舞台での活躍に意欲的とされるだけに、仮に小泉進次郎首相が誕生した場合、天皇と首相の両夫人が国際舞台で脚光を浴びることも想定される。

「政治家ではなく人間・小泉進次郎をどう生きるか」が口癖の小泉氏だが、今回の結婚で「進次郎劇場の第2幕が開幕した」(自民長老)とみる向きも多い。年明けに子供が生まれれば、「夫で父親」となる。その時点で、第1幕で演じてきた天才子役を卒業し、本物の大人の政治家として第2幕でニュー進次郎を演じることになるからだ。

 安倍首相は9月中旬の党役員・内閣改造人事で安倍新体制を発足させる。当然、新人事では小泉氏の処遇が注目の的となる。すでに、「小泉厚生労働大臣」なども取り沙汰されているが、今回の結婚と、夫人の出産予定などを考慮すると、「現在の厚生労働部会長の続投が自然」(自民幹部)との声が強まりそうだ。「静かに出産を見守り夫人をサポートする」という小泉氏を閣僚に抜擢するという選択肢は安倍首相も取りにくいとみられる。

「内助の功」と異なる新しい政治家夫人像

 これまでも、人事のたびに小泉氏の入閣が話題となってきた。ただ、小泉氏はその時々の言動で婉曲に入閣を辞退する意思をにじませ、東日本大震災からの復興などの下働きに徹してきた。「あからさまな政権の人気取りに利用されたくないとの小泉流の哲学」(小泉氏周辺)からだ。ただ、首相周辺からは「何様だと思っているのか」などの不満も出ていた。しかし、今回は小泉氏自身が動かなくても、入閣辞退への批判は出そうもない。

 売名行為ともみられたイクメン宣言の揚げ句のスキャンダル発覚で、議員辞職に追い込まれた「魔の3回生」の例もあるが、小泉氏は少子化対策を進める「本物のイクメン議員」を目指しているようにも見える。

 一方、滝川さんも子育ての傍ら、これまで通りの多方面での活動に強い意欲を示す。従来の内助の功とはまったく違う政治家夫人像だ。もちろん、近い将来行われる次期衆院選では地元選挙区を守る大人気の妻になることは想像にかたくない。今から地元での夫婦そろい踏みの活動が話題になっている。

 小泉氏と滝川さんは8日、代理人を通じて横須賀市役所に婚姻届けを提出し、名実ともに夫婦となった。ネットには「お・も・て・な・し」をもじって「ご・け・っ・こ・ん」や「お・よ・め・い・り」という5文字があふれている。将来の首相候補の妻になっただけに、一部では「た・ま・の・こ・し」と揶揄した書き込みもある。

 小泉氏にとって「そうしたやっかみや雑音をどう乗り越え、一匹狼に徹した父親とは違う王道で、首相を目指す『進次郎劇場第3幕』の開幕につなげられるかどうか」(首相経験者)が今後の課題となりそうだ。


泉 宏(いずみ ひろし)◎政治ジャーナリスト 1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。