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 大阪府や和歌山県、長崎県だけでなく横浜市の“参戦”で、国内にもカジノができる日が一気に現実味を帯びてきた。期待する人、反対する人それぞれの声を聞いてみると……。

雇用増で就職先が増える?

 横浜市の林文子市長は8月22日、同市へのIR(カジノを含む統合リゾート)誘致を正式に決定。「白紙」から一転推進へ。カジノ誘致の賛否をめぐる議論が再燃している。

 IRはカジノのほか国際会議場やホテル、アミューズメント施設などをあわせ、家族全体で楽しめる新たな観光地として地域経済の活性化や雇用増として期待されている。

「カジノでは女性の管理職が多い。女性の活躍や社会進出にも貢献しているんです」

 と話すのはカジノディーラーを養成する日本カジノスクールの大岩根成悦校長。

 カジノが24時間営業となった場合、1か所につきディーラーだけで2000~3000人、IR全体では1万人規模の雇用が生まれるという。

 カジノ誘致に手を挙げる和歌山県でも、就職先が増えることで人材流出の歯止めやUターンへの期待を込める。

 しかし、カジノを研究する静岡大学の鳥畑与一教授(国際金融論)はそれに反論する。

「カジノに人手が取られ、しわ寄せがくるのは地域の企業。企業が廃業すれば税収は減り、負担は市民にかかる」

 カジノを利用すれば買い物、食事、宿泊が割引されるなどのシステムでは客は地域観光に出ない可能性もある。鳥畑教授によると、米国・アトランタではカジノが原因で廃業した老舗レストランや空き地だらけの街並みの事例があるという。

 地元の商店街はどのように考えているのか。横浜洪福寺松原商店街の商店主は、

「カジノの地元への影響は一長一短と考える。私たちの商店は地元客がメインなのでそこまで強い関心はありません」

 同市のみなとみらい地区に10月末の開業が予定されている複合施設の関係者は、

“カジノに客を取られたらしゃく”“おこぼれをもらえるのでは”という両方の考えがある。ただ開業は2025年以降だし、カジノが来なくてもいいとなるよう、新たな施設と地域を盛り上げたい」

近くに学校が。治安は大丈夫?

「横浜市が誘致候補地とする山下ふ頭の近くには雙葉小学校やフェリス女学院などの名門私立学校があります。そんな近くに博打場ができたら親は通わせたくなくなるし、治安悪化も心配します」

 と訴えるのは横浜市のカジノ誘致に反対する一般社団法人横浜港ハーバーリゾート協会会長で“ハマのドン”とも呼ばれる藤木幸夫氏。さらに、

「海外では富裕層がカジノで負け、ホームレスになり何年も帰国できず、付近にたまるという話も聞きます。カジノの資金確保や借金返済のため得体の知れない人物が子どもたちにお金をせびったらどうですか。特に女の子はひとりでは歩かせられない」

藤木幸夫会長は「子どもたちのための横浜にしたい」と訴える

 和歌山県の「和歌山カジノに反対する海南の会」の担当者も危惧する。

「候補地までのルートは海南市の住民が普段利用する生活道路。カジノができ、観光客が増加すれば渋滞も増え、子どもたちの送り迎えや出勤など、日常生活に影響があるのではないか」

 前出・大岩根校長は、

「懸念される治安悪化の原因はカジノではなく、雇用などで人口が増加したことに起因すると考えられる。犯罪が増え、治安が悪化すれば客は来なくなり収益が落ちるため行政や事業者にはマイナス。そのため治安維持、健全化にあたっては厳しく取り組むのでは」

 千葉県でIR誘致に取り組む「千葉の未来を考える女性の会」の代表・田中結加氏も、

「治安に関して親はもっとも心配します。ただラスベガスなど海外のカジノに行き、そこでの治安も見て、犯罪が多いわけではないと安心したからこそ賛同する人もいます」

ママがハマって家庭崩壊?

「いちばんの懸念はカジノでのギャンブル依存症です。実はわれわれも最初はカジノの誘致に賛成でした。しかし、いろいろ調べていくと深刻な依存症問題が背景にあることを知り、反対の姿勢をとるようになったのです」(前出・藤木会長)

 前出・鳥畑教授によるとカジノはほかのギャンブルに比べ依存症になる可能性が高いという。

「負けたぶんを取り返そう、とするうちに破滅する。統合型リゾートの恐ろしいところは、家族で利用できることで小さいころから子どもたちのカジノに対するハードルも下がることです。両親がカジノにハマれば家庭が壊される」

 依存症になれば家の金を使い込み、知人らからも借金を重ねるなど、周囲も巻き込まれるおそれがある。多重債務や罪悪感から自殺するパターンも考えられるという。

 特に深刻なのは女性だ。

「女性の場合は家庭や日々のストレスの癒しや居場所がカジノになる可能性がある」

 家庭を顧みず、育児放棄に発展する場合もあると鳥畑教授は指摘する。

「調査でラスベガスに行ったとき、同地区では合法の売春の広告を掲示したトラックが昼間から街中を走っているのを見ました」(鳥畑教授)

 依存症を水際で食い止めようとの案もあるという。

「行政などと連携し、地域住民が声かけなど来場者に寄り添い、サポートするネットワークを構築する考えもあります。そのボランティアをしたい、と住民からの申し出もありました」(前出・田中代表)

 お金も失い、家族の絆も壊す依存症の恐怖。逃れるすべはあるのだろうか。

田中結加氏(中央)。活動は地域女性の草の根運動で広がる

カジノではない別案は?

「カジノ事業が狙うのは外国人観光客ではなく日本人。特に横浜市という大都市で人口密集地、首都圏からのアクセスも利便性もいい場所にカジノができれば、地域住民は巻き込まれる」(前出・鳥畑教授)

 鳥畑教授は、海外では遠方からカジノにわざわざ足を運ぶ住民もいるため誰でも巻き込まれる可能性はあると指摘。

 そしてカジノに頼らず地域活性化を提案する動きもある。

「横浜港ハーバーリゾート協会では国際展示場、コンサートホール、F1などの招致、ディズニークルーズのアジア拠点などを計画しています。特に女性やファミリー層に人気のディズニーは子どもたちに夢を与えるいい要素です」

 と藤木会長は強調する。しかしディズニーはカジノ施設に批判的なため、カジノの可能性がある地域を候補地からはずす場合もあるという。

「山下ふ頭に25ヘクタール規模の国際展示場を設置するだけで年間約2兆円、800億円の税収増を試算しています。ほかのコンテンツと合わせるともっと上がります。カジノを含めたIR事業を展開するより健全で儲かるんですよ」(藤木会長)

 山本太郎氏が代表のれいわ新選組の大西つねき氏は、既存の代替案に対しても異論を唱える。

既存の経済成長、発展を基に反対するのではなく、子どもたちの将来を考え、ビジョンを示すことが必要ではないでしょうか。特に若い世代が期待できる魅力的なアイデアがなければなにも変わらない。

 それに正直、今、カジノをやっている場合ではないと思います。震災や災害の支援、貧困対策など、労力も時間もお金もかけなければならない課題はたくさんあります

住民の本音を聞いてみると

 横浜市の誘致表明後の8月28日、市民らの有志グループ「横浜にカジノってどうなの?」はJR横浜駅西口でシール投票を実施した。

「横浜にカジノってどうなの?」のシール投票の結果(同団体提供)

「投票した人で反対は50~60代の女性、賛成は若い男性が多かった。意見が分かれた夫婦もいた」(団体の担当者)

 と、その傾向を明かす。

 同29日には大西氏が呼びかけた意見交換会が行われ、誘致に反対する横浜市民ら約100人が参加。住民投票実施などの案が挙げられていた。

 横浜市に住む主婦は、

「子どもたちはカジノはただのゲームだと思っている。大人が考えるよりギャンブルへのハードルがずっと低い」

 と誘致反対の意思を示す。「カジノ問題を知らないママたちも多い。誘致よりも子ども手当や子どもの将来の心配をする声のほうが多い」

 と話す女性も。少子高齢化が進む和歌山県などの地域では、IRによる活性化を期待する住民も少なくないという。

 前出・千葉県の田中代表は、

「私たちが目指すIRは地域住民の声を取り入れ、障がい者の雇用先の創出や新たな街づくり、リゾート開発による活性化です。カジノは必須ではありません。起爆剤としてなら賛同するという立ち位置。ただしカジノという日本人の新しい生き方、概念はあってもいいと思います」

 前出・大岩根校長は、

「サッカーくじもカラオケも最初は猛反対がありましたが実施してみるとそこまでの問題は起きていません。カジノも今はかつてのマイナスイメージと全く違います。危惧するだけでなく、正しい知識を」

 と訴える。しかし、

「カジノに頼らない観光立国にすることが大切です。カジノでギャンブル漬けになれば貧困、格差はさらに拡大するでしょう」(前出・鳥畑教授)

 地域の未来をかけるIR。この先、国民はどんな結末を選ぶのだろうか。

すでに日本に!
沖縄県の「ミニカジノ」に行ってみると……

 実はすでに日本にも「カジノ」がある。沖縄県うるま市の「TAIYO GOLF CLUB」。米軍人のための娯楽施設で、ゴルフ場内の建物の一角にスロットマシーンが53台設置されている。内容、規模的にはミニカジノというところだろう。

 施設は米軍基地内にあり、厳密に言うと「アメリカ」だが特例で日本人の利用も可能。パスポートも必要なければ入国審査もなく誰でも入れる。

「近くに住む人はわりと知っていると思いますよ。観光客で来る人もいます」(近隣住民)

 同県内の話題などを紹介する情報ポータルサイト『DEE okinawa』のライター、manabuさんは以前、このカジノを取材した。

「私が取材したときは平日の昼間にもかかわらず席は半分以上、埋まっていました」

 利用客のほとんどが地元の高齢者で、女性もいた。アメリカ人はほんの数人だったそう。

「暇つぶしに来ている、という感じでしたがみんな楽しそうに遊んでいましたよ。悲壮感はなく、パチンコに近い感覚でした」

 利用客の多くは常連で、中には米軍基地内に土地を持っている人もいたという。

「高齢で時間もお金もあり、仲間もいる。ハマったらぬけられないかもしれません」

 料金はすべてドル。一攫千金を目指したmanabuさんだったが、約30分で24ドル(約2500円)がなくなったという。

 従業員は外国人だけでなく、地元の人や日本語の話せるスタッフも雇用されている。

 IRに比べると規模も小さく、気軽に遊べる地元密着の沖縄のカジノ。賛否を問うなんらかのヒントとなるかもしれない。