雁須磨子さん プロフィールイラスト

 心身の変化にうろたえたり、介護や親の死に直面したり。そんな中高年ヒロインを描いたマンガがいま熱い! 例えば『すーちゃんの人生』(益田ミリ)の主人公は40歳、『ゆりあ先生の赤い糸』(入江喜和)では50歳。ひと筋縄ではいかない人生と不器用に格闘する姿が共感を呼ぶ。

 そんな中高年ヒロインのひとりが、雁須磨子さんが手がける最新作『あした死ぬには、』の主人公・本奈多子。42歳、独身で、映画宣伝会社でバリバリ働く彼女は、突然訪れた更年期障害に葛藤する。“40代のリアル”を描いた本作は幅広い年代の女性たちの間で話題となっている。

中高年の「あるある」が盛りだくさん

「冒頭で多子が突然、不整脈に襲われて“死ぬんじゃないか”と動揺しまくるエピソードは私の実体験。これってみんな経験しているんじゃないか、描いたらおもしろいんじゃないか。“あるある漫画”として描いてみたいな、と思ってスタートしました」

(c)雁須磨子/太田出版 今日の自分は昨日と地続きと思えば老化も受けいれやすく。

 更年期障害については若い女性でもうすうす知っているだろう。しかし、その実態はなってみるまでわからない。30代で経験する人もいるし、症状の出方も人それぞれだ。

「知識がなかったので最初は本当にびっくりしました。意外と同世代の友達と話題にのぼったことがなくて。読者には30代の方も多いので、こういう症状がくることもあると知っておけるといいかな、と」

 身体の変化に加え、心の戸惑いが描かれていることこそ本作の重要なポイント。ふと目に入った自分の顔のやつれっぷりに驚くなど、随所に「あるある」な瞬間が差し込まれていて、思わずひざを打つ。

「昔は鏡を見るのが好きだったのに、あるときから目をそらすようになる。こういうことが一気に押し寄せるのが40代。白髪は増えるし、目は悪くなるし、肩は痛いし」

 しかし「老い」を絶望の記号に結びつけないのが雁作品の考え方。身体の変化を多子が“新しい自分”ととらえることで落ち着きを取り戻す場面は、屈指の名シーンだ。

「初めは認めたくないし逆らおうとするけど、少しずつなじんでくるもので。顔のたるみにショックを受けた日はヒアルロン酸を塗りまくるけど、次の日には忘れてたり。これは私のことですけど(笑)

人生の正解はひとつじゃない!

 あきらめて「ま、いっか」と思う日もあれば、「若い日と同じように!」と躍起になる日もある。美容面に限らず、仕事のやり方や生き方もだ。

(c)雁須磨子/太田出版 おばさん扱いに傷つくも若者の言葉にときめく

「多子と同じく、私も好きな仕事に力を注いでいますが、しんどいのか楽しいのか、自分でも判別できない。あした死ぬほどキツくはないけど、“ちょっとペース落としたら?”っていう声も聞こえる。でも、人はなかなか変われない。変わるのがいいのか悪いのかもわからない。その戸惑いをそのまま描いています」

 雁さんの考え方の中心にあるのは「正解はひとつではない」ということ。大事なのは自分なりに考えて、ひとつひとつ、それぞれ小さな答えをいっぱい出していくことだと語る。

「ペースダウンして安心するならそれもいい。全速力のまま駆け抜けて死んだとしても、それが幸せな人もいる。この作品では、いろんなモデルケースを見せられたらいいなと」

 第2のヒロイン・塔子は多子の学生時代の友人だ。大学生のひとり娘を持つ専業主婦で、年のわりにはかわいいほうだと思っていたもののパート先の職場で「オバチャン」と呼ばれて傷つく……。これもまた40代「あるある」!?

1巻が出て、同年代の方には共感を得ましたが、30代の友達の感想はまっぷたつ。ちょっと先の未来を知って安心した”という意見と“こんなふうになるなんて怖い”と。ですので、2巻の収録分では“年をとっても楽しいこともあるんだよ”という部分を多めに発信しています(笑)」

 未体験の楽しいことはまだたくさんある。あきらめもあるぶん割り切ってフットワーク軽く行動できる。20〜30代の「未来を構築するため」の恋愛とは違う形で、恋する気持ちを楽しむことも──。

「つまり、総じてラクになると思ってください!」

 多子たちとともに、よりよいあしたを探していこう。

(取材・文/粟生こずえ)


《PROFILE》
雁須磨子さん ◎かり・すまこ。福岡県出身。少女漫画、BL、青年漫画など幅広いフィールドで活躍。『幾百星霜』、『つなぐと星座になるように』、『かよちゃんの荷物』など、著書多数。「Ohta Web Comic」にて好評連載中の『あした死ぬには、』(太田出版)は現在1巻が発売中!