成宮寛貴

ニュースにしていただいてありがたいなと思いながら、あれはフェイクニュースです》

 10月3日、自身のツイッターで芸能界復帰を否定した成宮寛貴氏。前日報じられた「『相棒』で俳優活動再開決定 水谷豊の働きかけも」というニュースが「フェイク」だとして、同ドラマを放送するテレビ朝日も「その予定はございません」とコメントした。

 しかし、この騒動でわかったフェイクではない「事実」がある。俳優・成宮への復帰待望論だ。ネットでは「一番好きな俳優さんだったから嬉しい」「相棒のカイトくんはあのまま終わらないと思ってた」「コナン実写化なら安室透役!」といった声があがり、その人気や評価の高さが改めて示されることに。

 '16年12月、コカインの使用疑惑などを写真誌に報じられたが、逮捕にはいたらず、そのままあっさり引退して、海外移住でほとぼりを冷ましたのも幸いしたのだろう。また、引退の理由も「クスリ」ではなかった。その件についてはあくまで潔白だとして、友人たちによる「罠(わな)」に落ちたと主張。むしろ「同性愛」疑惑を書き立てられたことにより、

《この仕事をする上で人には絶対知られたくないセクシャリティな部分もクローズアップされてしまい、このまま間違った情報が拡がり続ける事に言葉では言い表せないような不安と恐怖と絶望感に押しつぶされそうです》

 と、マスコミ向けファックスで告白した。こうした経緯が、同情を誘ったとも考えられる。

 というのも、暴行や不倫といったものに比べ、このようなケースに世間は優しい傾向が見られるからだ。

 1999年にはミュージシャンの槇原敬之が覚せい剤で逮捕され、同時に男性の恋人の存在が報じられた。素朴な好青年のイメージで売っていただけに、ガッカリしたファンもいたが、その4年後、SMAPに提供した『世界に一つだけの花』が大ヒット。ジャニー喜多川氏がプロデュースし、KABA.ちゃんが振り付けを担当したこの曲は、平成で最も売れたCDとなった。

 LGBT的な要素について、槇原本人が明確にカミングアウトしたわけではないものの、海外のエルトン・ジョンなどと同じように、今ではそういう系統のアーティストとして愛されている印象だ。

『相棒』の隠れた魅力とは

 成宮氏についても、イメージダウンにはつながらず、ファンはむしろ、そういうところも含めて魅力だと感じているのではないか。そもそも『相棒』(テレビ朝日系)という代表作自体、コアな視聴者にとっては、水谷豊ともうひとりの男性俳優が織りなすBL(ボーイズラブ)的構図が萌えにつながっている。

 初代の寺脇康文は大の水谷崇拝者だったし、2代目の及川光博は中性的なキャラ、3代目の成宮を挟んで、4代目の反町隆史についても水谷との仲よしぶりが盛んに喧伝(けんでん)されるのは、その手の話が求められているからだろう(そして何より、水谷自身がかつて『傷だらけの天使』(日本テレビ系)で萩原健一の相棒を演じ、ブレイクした人である)。

 また、成宮氏は声優としての代表作となったアニメ映画『あらしのよるに』で、中村獅童扮する狼と友情を育む羊を演じた。気弱で優しく、それでいて芯の強さもあるあのキャラは彼しかできないハマり役だったといえる。こうした役者としての得がたさが待望論を呼ぶわけだ。

 かといって、3年前の騒動では、引退を決めてしまうほど傷ついたのも現実だろう。だが、芸能界にはふてぶてしい人もいる。美川憲一だ。大麻で二度逮捕され、地方のキャバレーなどを回る日々を送りながらも、コロッケのものまねを機に復活。その後はおネエキャラを全開させ、以前を超える人気を得た。NHK紅白歌合戦にカムバックすると、そこから19年連続出場(通算では26回)を果たすのである。

 その原動力となった、豪華衣装について語った言葉がこれだ。

私はお客様に夢を売る商売でしょ。だけど、あるとき、現実での醜い部分を見せちゃったのね。だから、そのハンデを取り返すためにも、ぜいたくで華やかで夢のある私を見せたいの

 なんだか都合がよすぎる気もしないではないが、このポジティブな精神もまたスターの条件だ。成宮氏も、もしその気になれば芸能界に復帰して、ファンにまた夢を見せてもいいのではないか。俳優・成宮を待望する声、それはけっして「フェイク」ではないのだから。

以前よりワイルドな印象になった成宮寛貴(インスタグラムより)
PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。