※写真はイメージです

 抽選で選ばれた一般市民6人が“裁判員”となって、3人の裁判官とともに刑事事件を裁く『裁判員制度』が2009年に施行されてから10年が経った。これまで9万人以上が1万2000件以上の事件を裁いてきたが、1年間で裁判員(と補充裁判員)に選ばれる確率は約1万1000分の1~1万3500分の1。これはゴルフでホールインワンが出る確率と同程度だ。

裁判員が選ばれるまで

 奇跡に近い確率で選ばれ、実際に裁判員として法廷に出た人たちの感想は、「非常によい経験と感じた」が59・9%、「よい経験と感じた」が36・8%、「良い経験とは感じなかった」が2・3%でその他が1%と、大多数がプラスの印象を抱いている。

 週刊女性では裁判員に選ばれた5人の方々に、選出時の心境や実際に裁判員を経験した、もしくは辞退したからこそみえたもの、気になった点などを直撃インタビュー。はたして彼・彼女たちは心に何を抱いていたのか──。

ケース1:裁判員に「参加」/佐伯理子さん(仮名)

【東京都・50歳・会社員 家族=夫と息子】

◆最初の通知は?
 “特別送達郵便”で裁判所から封筒が届いたので、「私、何かやっちゃった!?」と驚きました。「基本的に辞退できない」と聞いていたのですが、“育児や介護がある場合は辞退できる”とていねいな説明が書かれていました。

◆家族・職場には?
 家族の前に上司に相談しました。というのも、ぜひ参加したかったから。事前に上司と会社の承諾を取りました。

通知書類には上司向けの説明書類も

◆選任手続の様子&心境は?
 20人ほどの候補者と一緒に説明ビデオを見た後、係員から、「辞退したい方はアンケートに記入してください」と。「まだ辞退できるの!?」と驚きました。数名、別室に呼ばれた人がいたのですが、そこで辞退したのだと思います。残った人で裁判員6名と補充裁判員2名を選ぶ抽選。当選確率は3分の1くらい。担当事件が殺人事件ではなかったので、正直ホッとしましたね。被告人や証人と関係がないか聞かれた後、宣誓。「一生懸命やろう」と急に緊張感と責任感がわきました。

◆実際の裁判は?
 わかりやすかったです。法廷では裁判官と並んで座り、服は自由でしたが帽子やサングラスはダメ。「顔を覚えられたら嫌だな」と思ったので、着用可だといいな、と。

◆補充裁判員は何をするの?
 補充裁判員の2人は私たちの後ろに座って同じように出廷します。途中で交代が必要になったときに、公判の内容を裁判員と同じように知っておく必要があるからでしょう。発言は裁判官を通して。

◆証拠写真はスゴかった?
 殺人事件の裁判ではなかったこともあって、証拠写真は目を背けたくなるようなものはなかったですが、加工されたものもありましたね。

◆評議は素人でも大丈夫?
 裁判官と裁判員で評議して無罪か有罪か? 有罪の場合は刑の重さを決めます。最初に証拠や証人尋問の考え方をレクチャーしてもらい、刑罰の重さの考え方など、だんだん深いほうへ進む感じ。裁判官は、とても柔らかい雰囲気でした。裁判に関係する質問はもちろん、評議以外のときには、興味本位の質問にもちゃんと答えてくれましたし。

◆休憩時間&食事は?
 休憩時間は“私語厳禁”なんてことはなく、スマホの使用もOKで電話やLINEも制限なし。裁判所内の撮影だけNGでした。昼食は自分持ち。お弁当持参でもいいし、裁判所で500円くらいの仕出し弁当も頼めました。評議室の冷蔵庫内の水とお茶は飲み放題。裁判官の方々とランチもしました。霞ヶ関にある省庁の食堂へみんなで歩いて行って。めったに来ない場所へ案内してもらえて、裁判官の方々と話ができて。裁判官も「普通の人だな」と(笑)。

◆日当や交通費は?
 7日間(うち2日間は半日)参加して、交通費込みで約5万4000円。書類にも〈日当は8000円以内〉と記載されています。面白かったのは交通費の計算。交通費は住んでいる場所の最寄り駅からの電車賃が支払われましたが、自宅から最寄り駅までの徒歩は、移動1キロにつき37円と細かく計算された金額が支払われました。

◆参加した感想は?
 やはり責任も大きくて大変でしたが、本当にいい経験でした。「もう1度やる?」と聞かれたら迷いますが(笑)。

ケース2:裁判員に「参加」/花村麻理絵さん(仮名)

【京都府・38歳・パート 家族=夫と7歳&5歳の娘】

◆なぜ辞退しなかったの?
 正直、「私にできるのかな……」と悩みました。2人の子育て中だったので。「子どもが小さいので」「義両親の体調が悪いので」と、辞退の言い訳を考えたりもしましたね(苦笑)。でも経験したら、「子どもたちに伝えられることがあるかも……」とも思って。参加を決意しました。

◆選任手続の様子は?
 解説DVDを見た後、担当する事件をそこで初めて知りました。その時点でも辞退の意思確認がされ、事件に関係する可能性のある人や精神的な負担が大きいと思う人は辞退できる、という話でした。その後のくじ引きで、いきなり当たってびっくり! 実際の裁判はその翌日からで「あぁもう、始まっちゃうんだ……」と。心の準備は正直そんなにできませんでした。

◆実際の雰囲気は?
 裁判員のプライバシーを守るために、名前ではなく番号で呼ばれて。「○番さんはどうですか?」とか。控室にはお茶とお菓子も用意されていて、リラックスできました。お菓子は裁判長のポケットマネーだそう(笑)。

◆素人でも大丈夫?
 私はどちらかというと、人前で意見を言うのは苦手。でも裁判官の方々は“上から目線”なんてことはなく、わかりやすく説明して、質問や意見も聞いてくださいました。

◆実際の法廷は?
正直、自分がなんだかドラマのワンシーンにいるような気がして(苦笑)。「人を裁く」実感がわかなかったのですが、証拠写真を見たり証人の証言を聞いているうちに、責任感がわきました。「私たちの評決で人の人生が決まるんだから、なんとなくの考えや意見では決められない」って。

◆難しかったことは?
 ニュースを見ているだけなら、「許せない」という感情論だけでいいけれど、裁判では証拠に基づいて意見を言って判断する必要があって。私には「なかなか難しいなぁ」というのが、正直な感想です。

◆経験して思うことは?
「自分とは関係ない」と思っていた事件について、これほどに真剣に必死に考えたことはない、くらい考える4日間でした。大変でしたが、貴重な経験で、やっぱりやってみてよかったと思います。

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ケース3:裁判員に「参加」したが辞退/佐藤貴美さん(仮名)

【千葉県・34歳・販売業 家族=父と母】

◆呼出状が2通同時に?
 最初の呼出状が来た1か月後、もう1通、別の裁判のが届いたんです(笑)。1通目は「あぁ来たか……」くらいでしたが、さすがに2通目は「こんなことあるの!?」と驚いて。思わず前例があるのか調べちゃいました(笑)。ちなみに、一方の選任手続きを進めると、もう一方は自動的に手続きから除外される仕組みになっていて、私も2通目の裁判は自動的に参加できなくなりました。

全候補者の中から裁判ごとに抽選されるため、呼出状が同時期に複数届くというレアケースも発生する

◆くじでハズレるとどうなる?
 辞退する気持ちはなかったです。理由がなかったのもあるのですが、興味があったので。手続き当日、候補者が座るイスは30席くらいあって。うち1席はおそらく事前に辞退をした人の分。事前辞退者の席まで一応用意されているんだな、と思って厳格さにびっくりしました。結局4、5人が当日欠席のようでした。

 男女はほぼ半々で20代前半の若い人から60代後半くらいまで幅広かったですね。「選ばれたのだからしっかりやろう」と覚悟していたのですが、最後の抽選でハズレちゃって(苦笑)。「3分の1の確率をハズした……」とがっかり。ハズレた人たちはその場で解散。裁判所見学もできました。ここまで全部で1時間くらいだったと思います

◆参加して思ったことは?
 裁判員裁判で扱う事件そのものを見直したほうがいい気もしました。凄惨な事件だと法の素人には荷が重すぎて。呼出状が届いた時点では、自分がどんな事件を担当するのかわかりません。私が住んでいる近くでは、ニュースにもなった大量殺人事件が起きたところなので、「あの事件かもしれない……」という緊張感は、正直ありました。

 最初の時点で大まかに「どんな事件か」は教えてくれてもいいんじゃないかとは感じました。候補者によっては、「どんな事件を担当するかわからなくて不安だから辞退する」という人もいると思うので。

ケース4:裁判員を「辞退」/木村政義さん(仮名)

【東京都・37歳・会社役員 家族=父と母と弟】

◆最初はどう思った?
 最高裁からの登録通知は2017年の年末。実際に呼出状が届いたのはその1か月後くらいでした。特に驚きはなかったですが、「来たか!」とは思いました(笑)。

◆家族や職場に相談した?
 一緒に住んでいる父と母には「通知が来た」とは伝えましたが、特に相談はしませんでした。会社にも「こういう通知が来ました」という報告だけはしましたが、相談もしませんでしたし、「行ってこい」とも「行くな」とも言われなかったですね。

◆なぜ辞退したの?
 本当は、いい機会だったので参加したかったですね。学生時代に法律の勉強をしていたので、裁判員裁判そのものに以前から興味があったので。ただ、呼出状の封筒に入っていた公判のスケジュールを見て即、「無理」と。1週間全部ぶっ通しで裁判所に行かないといけない予定で、さすがにそんなに休めません。

◆個別に調整はムリ?
 それでもせっかく選ばれたのだから、「何とか参加できないか」と思って、裁判所の問い合わせセンターに質問の電話をしてみたんですよ。日程の変更や公判途中で休みの日を取れるのかとか、公判途中から参加できたりするのか、とか聞いてみました。結局、どれもダメだということで。それで辞退しました。

◆参加しやすくするには?
 参加の意思がある人でも、連続して長く仕事を休むというのは難しい。例えば、拘束される日が5日間連続とかではなくて、月・火・水……のようになっていれば、私も参加できたと思いますし、そういう人は多いと思います。

ケース5:裁判員を「辞退」/平井亜衣さん(仮名)

【東京都・44歳・専業主婦 家族=夫】

◆書類はわかりやすかった?
 身に覚えがないので最初は「誰かに訴えられた!?」って。それに、こういうニセの文書を送りつけてくる詐欺もあるじゃないですか? それかなとも思いました。内容を理解した瞬間に「断ろう!」と(笑)。引き受けようとは考えませんでした。

◆なぜ辞退したの?
 家族の看病。義母が病気で、毎日家に行ったり、病院に連れていったり大変で。それに、裁判所に行くまでどんな事件を担当するかわからないので、私が死刑を言い渡す可能性もあったわけで。私みたいな普通の人が、人の命を判断するのは……。

◆辞退はどう連絡するの?
 主人なんて、「それなら俺が代わりに裁判員になれないかな……?」って(笑)。でも無理なものは無理だったので。その後、呼出状が来たときに返送用書類に、辞退したい意思と理由をもう目いっぱい書き込みました(笑)。コレでダメなら、裁判所に行って、辞退理由を説明する気でした。

◆辞退以降、気持ちに変化は?
 ニュース番組やワイドショーの見方が変わった部分はあるかも。それまでは「自分に関係ない」って感じだったんですけど、通知が来てからは「こんな事件じゃなければいいな」とか「私だったら、こんな事件は裁判員できないな」とか、そう考えたり。

◆どうしたら参加しやすい?
 通知書類が仰々しくないほうがいい。内容はわかりやすいけれど、「重っ!!」って感じてしまったので(苦笑)。運転免許更新のお知らせハガキくらいサラッとしているほうが、「説明は聞きに行ってみようか」と思えるかも。