お寿司を買い、自宅に持ち帰って食べれば消費税は8%

  10月1日から新たに消費税が10%に引き上げられ、それに伴い軽減税率という新制度も導入された。徐々に上がりゆく消費税と、混乱しそうな軽減税率の仕組みに世間はどう対処しているのだろうか。漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんとともに考える。

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──10月から消費増税が10%に引き上げられましたね。

「増税の前日は大変な混雑になっているに違いない、とアパレル店などをいくつか回ってみたのですが、意外なことに閑散としていました。ファッション業界の盛り下がりをみたような気がしますが、私はたくさん買いまくってしまいました。店員さんに“増税前なので”と話しかけてみたところ、“そうですか……”と流されてショックでしたね。あまり世間は増税を気にしていないのかも、というのが最初の実感です」

『テイクアウト納税』

──飲食店でもをテイクアウトをしたら軽減税率が適用されて8%、イートインだと外食扱いで10%といったようにいろいろとややこしい仕組みも導入されましたね。

「この前、大宮のデパートに立ち寄った際、地下に立派なソファーがあったのでお弁当でも買って食べようかなと思っていたら“ここは10月1日から飲食ができなくなりました”と張り紙がされていました。いろいろと面倒だからか、一律でイートインをできなくしてしまったようです……。

 また、これは聞いた話なのですが、コンビニのイートインスペースを憩いの場としていたご老人の集団がいなくなってしまったということもあったみたいです。これから寒い季節なのに、店を追われて公園などに集まるようにでもなったのかもしれません。でも、これからは意外と携帯用のイスとかレジャーシートなどが売れるようになりそうです

 私自身も、コンビニで食べ物をテイクアウトで購入したあと、少し店内に居残っていたところ、店員さんの鋭い視線を感じたこともありました

──コンビニが殺伐とした場所になってしまいそうですね。しかし、テイクアウトで購入したのにイートインスペースで食べる人もいるらしく、SNSではそういった行為を指して『イートイン脱税』と呼んでいるみたいです。

「そのようですね。私も一旦テイクアウトしてから、やっぱりここで、と気が変わることがよくあったので、そういうことが許されないという息苦しさはありますよね。この前も、カフェで飲み物をテイクアウトして店の前にテーブルがあったので、つい、そこに座って口をつけてしまいそうになりましたが、ギリギリのところで“脱税だ!”と気づき、店員さんの視界に入らない場所まで走りました

──日常生活とて、一瞬たりとも気が抜けませんね……。また、そういった『イートイン脱税』をする人を見つけては指摘したり、店員に告げたりする人のことを『正義マン』と呼ぶらしいです。

「テレビで増税特集をやっていたとき、良識派っぽいおばあさんが“ひとり1円の脱税でも日本国民全員がやると1億円になりますよ”と言っているのをみると、そういった『正義マン』が活発化してきそうな気はしますね。実際には見たことがないので、どんな感じの方なのか見てみたいです。

 それにしても軽減税率が適用されるようになってからというもの、イートインコーナーで食べている人をみると、なんだかお金持ちに見えてしまい、テイクアウトの自分は貧乏人に見えてしまうから不思議です。逆にイートインの料金で払ってそのまま出て行く『テイクアウト納税』があってもいいのかもしれません。ひっそりと世のためにあえて多く払う人がいたらかっこいいですよね

試食だけして……

──さすらいの『テイクアウト納税者』に出会ってみたいものです。あと軽減税率で話題なのは、おまけ付きの菓子が軽減税率の対象にならないなどといった複雑さで、駄菓子業界に影響が出ているみたいです。なんでもおまけには資産価値が生まれるとか。

「駄菓子のおまけひとつで資産というのもなんだか大げさな気がしますね。子どもは数百円程度のお小遣いでやりくりしていると思うので、その差は大きな打撃ですね……。

 でも世界でもいろいろなルールがあるようで、たとえばカナダは日本と同じ税率ですが、ドーナツを6つ以上買うと軽減税率が適用される(0%)みたいです。なんでも、6つ以上だと“この量は持ち帰りだな”と判断されるのだとか。

 でも、それなら5個買おうとした人もみんなひとつ足しますよね。ドーナツの食べすぎで健康を害してしまわないか心配ですし、ドーナツ店と政府のつながりも疑ってしまいます。イギリスではポテトチップスは20%で、ケーキやビスケットは0%なんだそうです

──そういった細かさもあり、なんだかいろいろややこしくてトータルで損をしているような気がしてなりません……。

これはもうキャッシュレスに対応したり、ポイントを貯めるなどして個々のやりかたで税率ぶんを取り返すしかなさそうですね。ローソンのPontaポイントを貯めるためにミニゲームに励んだりとか。そういった細々としたお得感を楽しむのがいいかもしれません。

 “損した感”が世の中にはびこっている感はありますね。この間もパン屋にいったら上品な感じの女性が、パンの試食を4〜5個くらいしてなにも買わずに帰る姿を目撃しました。みんなそれぞれ税金が上がったぶん、何かで取り返そうとしているのかも。それこそ脱税した芸能人に怒りをぶつけてみたりだとか……。チュートリアル徳井さんの人徳が試される場面なのかもしれませんね」


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。