「あざとい女」の代表格のような田中みな実。しかし、彼女はバラエティー界で生き抜くしたたかも持ち合わせていた

「あざとい女」をテーマにしたバラエティー番組の企画は珍しくない。多くの女性視聴者が興味を持ち、共感しやすい話題なのだろう。女性タレントが自分の身の回りにいる「あざとい女」の言動を紹介して、それがいかにイライラすることなのかを解説する、というのがお決まりのパターンだ。

 この手の企画は、ターゲット層にとっては面白いのかもしれないが、恋愛にも女性の生態にもとくに興味のない平均的なアラフォー男性の私には退屈に感じられることが多い。あざとい女性を見ても感情を揺さぶられないので、「別にどうでもいい」以外の感想が浮かばないのだ。

 そんな自分が見ても「これは面白い」と思える貴重な番組があった。9月27日に放送された「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日系)である。

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「あざとい女」をテーマにした番組

 元TBSアナウンサーの田中みな実とテレビ朝日アナウンサーの弘中綾香の共演で話題になっていた番組だ。「あざとい」と言われることの多い2人が「あざとい女」をテーマにした番組でどのような化学反応を起こすのかが注目されていた。

 番組冒頭、弘中が「ずっとテレビで見てました」と切り出すと、田中はすかさず「ずっと?」と返した。年齢もキャリアもそれほど変わらないのに、田中がずっと年上の先輩であるかのような言葉遣いをした弘中に引っかかりを感じたのだという。これを見ながらMCの山里亮太は「いやあ、第1ラウンドは激しいジャブの打ち合いになりました」と笑顔を見せた。

 番組内容は、視聴者からアンケートをとった「あざといと思った・思われた言動」を再現したVTRを見て、至高のあざとさについて語り合うというもの。番組本編が始まると、田中と弘中のキャラクターの違いがすぐに浮き彫りになった。

 弘中は現役の局のアナウンサーの割には発言に抑制がなく、自由に思ったことを言っている感じがあるものの、あざとい女性をあくまでも客観的に見て分析しているようなところがあった。

 一方の田中は、VTRで紹介されるあざとい言動を自分もやっていると告白しつつ、それをやってしまう女性の深層心理にまで分け入った解説をしていた。

 例えば、合コンの途中で上着を脱いでノースリーブになる女性に対しては「ただただちやほやされて合コンの中で1番になりたい子なんだと思う」とバッサリ。「あざとい女は嫌だ」と突き放すだけでなく、あざとい女側の立場からも物が言える田中は、この分野で最強の解説者だった。

 バラエティー番組ではいつも堂々としている弘中ですら、田中に対してはやや畏縮しているようなところもうかがえた。あざとい女について語る田中の放っている「覇気」がそれだけすさまじいものだったのだ。

田中と弘中の「あざとさ」の違い

 そもそも田中と弘中は、どちらも「あざとい」と言われることがあるが、女性としての種類が違う。田中は、自他共に認める「あざとさの絶対王者」である。意識的にも無意識的にもそれを貫いているタイプだ。

 一方、弘中は見た目と声質が幼いため、必要以上にあざといと思われやすい。そのイメージを覆すようなストレートな物言いが面白がられているところを見ると、自覚的にあざとく振る舞うところは少ないように見える。普通にしているだけであざといと思われてしまうので、自らそこに向かう必要がない、という感じだろうか。田中のような確信犯的なところはあまりない。

 田中自身が普段やっているあざといテクニックを紹介するコーナーでは、彼女の本領が発揮されていた。飲み会の設定で、隣に座った山里を落とすためにテクニックを駆使していた。

「さりげないボディタッチ」「上目遣い」「小声でささやく」「意味なく笑う」と技を連発。さらに、相手の飲み物を「おいしそう」と言って一口もらった後、返すときに「間接キスになっちゃうんで気をつけてください」と付け加えて意識させるという高等テクニックまで披露した。

 だが、田中が本当に恐ろしいのはここからだった。田中のテクニックを見て「学ぶところが多いです」と感心する弘中に対して、田中はこう言い放ったのだ。

「違うの、これ、ずっとやってるじゃん。見て、今の私。なんにも実ってないの」

 誰もがうらやむ容姿を持ち、あざといテクニックを駆使する田中は32歳で独身。結婚という地点にはいまだ到達していない。あざとさ一筋を貫いた田中を待ち受けていたのは「好きでもない人にモテてもしょうがない」という真理だった。ここで田中は「あざといは付け焼き刃」という名言を残した。

 田中がまさかの自虐ネタを切り出したのが、この番組のクライマックスだった。これを見て私は背筋が凍った。この人はどこまで欲深いんだろう、と思ったのだ。

「あざとさの向こう側」を見た

 テレビ業界という男性社会で評価され、たくましく生きのびるために、田中は「ぶりっ子キャラ」で世に出てきた。この時期には同性からの支持が少なく、「嫌いな女子アナ」ランキングの常連だった。いわゆる「あざとい女」の代表格のように思われていたのだ。

 ところが、フリーになってからは女性人気が高まってきた。美容へのこだわりが明かされ、肌のきれいさや体型の美しさも相まって、憧れの存在として認識されるようになった。女性誌や美容雑誌の表紙を飾るようになり、新しい支持層を確立した。

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 ぶりっ子キャラで男性人気を取り、美容キャラで女性人気を取る。さらに、自虐ネタでバラエティー番組を楽しんで見ている層も取り込もうとしている。

 いわば、「なんにも実ってない」とアピールすることで、自分が器用だからあざといキャラを演じてきたわけではなく、不器用だからこそあざとさにすがるしかなかった、というふうに自らの過去を再解釈してみせたのだ。上から目線と思われがちな自分を強引に下に突き落とす、恐るべきバラエティー対応力である。

『あざとくて何が悪いの?』は、田中みな実という人間のしたたかさを改めて浮き彫りにした。

 あざとさをここまで突き詰めた人はほかにいないし、ここまで語れる人もいないだろう。田中は「あざとさの向こう側」にある人知を超えた世界を見せてくれた。人間ドキュメントとしてこれほど面白いものはない。


ラリー遠田(らりーとおだ)◎作家・ライター、お笑い評論家 主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数。