(左から)坂口憲二、山口百恵

『医龍-Team Medical Dragon-』(フジテレビ系)シリーズなどのドラマや映画で活躍した元・俳優、坂口憲二さんのセカンドキャリアが話題を集めた。7年ほど前から国指定の難病『特発性大腿骨頭壊死症』を患い、昨年春に芸能活動を休止。新たな仕事に選んだのは、コーヒービジネスだった。

 以前、米国を訪れた際、生活にコーヒーが根ざした文化に感動、また、妻と3人の子のためにも「手に職をつけたい」と考えたことがきっかけだという。バリスタ・ロースター(焙煎士)のプライベートレッスンを受け、昨年夏に千葉の九十九里で焙煎所を開設した。商品第1号となった『アフターサーフ』は、海上がりに飲むコーヒーがコンセプト。趣味でもあるサーフィンを活かして独自性を出す企業努力だ。

 今年の春には、都内に販売店もオープンさせた。収支のやりくりやスタッフへの指導など、慣れない作業にも奮闘中だが『ハフポスト日本版』の取材にはこんな発言を。

《たとえ失敗してしまったとしても、次の機会にその失敗を活かしていけばいいんです》

 そんな坂口さんのように、華やかなスポットライトを浴びたあと、別の新たな世界で結果を出そうとしている人は少なくない。ただ、何をやるにせよ、簡単な仕事は世の中に存在しないから、それまでにない苦労も味わうことに。広く知られた名前は宣伝になるぶん、誰かに利用されるだけで終わって、経済的精神的な損害をこうむることもある。むしろ、過去の栄光を捨て、元・芸能人の肩書にすがらないほうが成功につながるようだ。

 なかでも、試行錯誤しながら頑張っているのが『NHK紅白歌合戦』にも出場した元・歌手の香田晋さんだ。『クイズ!ヘキサゴンII』(フジテレビ系)では、おバカタレントとして再ブレイク。だが、'12年に芸能界を引退したのは、その再ブレイクが原因だった。

 '15年に週刊女性がインタビューした際、

《バラエティー番組に出ているとき“なんで、自分はここにいなくちゃいけないのかな”って思いながら座ってるんですよ。(一部省略)そのうち、歌もなかなか思いどおりに歌えなくなってきてしまった》

 と、激白。精神科にも通ったものの、心の不調は回復せず「芸能界から逃げ出した」という香田さんは当時、福岡県で自ら板前をこなす飲食店を切り盛りしながら、腹式呼吸で健康な身体づくりを目指す教室を経営していた。

 しかし、現在は福井県の寺で僧侶になっている。「真の理解者」「こころの支えだった」という義理の祖母が昨年亡くなり、供養したいと思ったのだという。得度して「徹心香雲(てっしん・こううん)」を名乗り、書家としても活動中だ。

『福井新聞』の取材には、

《書や仏教と出合うことができ、毎日がとても充実している。これも若狭地域との縁のおかげ》

 と語り、気持ちもふっきれたのか、地域イベントでは久々に歌も披露した。

菊間千乃アナの現在は……

 女子アナから弁護士へという転身を遂げたのは、菊間千乃さんだ。フジテレビアナウンサー時代の'05年春にロースクール・大宮法科大学院大学に通い始めたが、司法試験合格へはイバラの道だった。同年夏、NEWSの未成年メンバーとの飲酒が発覚。バッシングのなかで、勉強に手がつかなくなってしまった。

菊間千乃

 1年後、仕事には復帰したが、司法試験の受験勉強に専念するために'07年いっぱいでフジテレビを退社した。のちに『週刊文春』では当時をこう振り返っている。

《この先アナウンサーとして5年後、10年後があるかと考えると、あまり明るい未来が見えなかった。それより、長い将来を考えたとき、弁護士として生きる方向に進もうかなと》

 とはいえ、一度目の受験は失敗で、無職として生きる不安にさいなまれることに。それでも猛勉強を続けられたのは、'98年に負った重傷による「ケガの功名」のおかげでもあった。『めざましテレビ』(フジテレビ系)で生中継をしていてビルの5階から転落。死んでいてもおかしくない事故から生還した喜びを思い出し、気持ちを奮い立たせたという。

 二度目の挑戦で司法試験を突破し、'12年から弁護士活動を開始。元・女子アナらしい聞きやすくて明快な解説で、テレビでも活躍中だ。

 そんな有名人のセカンドキャリアを考えるうえで、伝説ともいうべきケースが三浦百恵さんだろう。“山口百恵”として芸能界のトップに君臨していた'80年に、結婚して21歳で引退。今年、キルトの作品集『時間(とき)の花束 Bouquet du temps [幸せな出逢いに包まれて]』(日本ヴォーグ社)を出版して話題になったが、本業はあくまで専業主婦で、その立場を40年近く貫いてきた。

 ただ、仕事を辞めて家庭に入るという決断は当時、批判にもさらされた。「あなたのおかげで、女性の地位は十年前に逆戻りしちゃったのよ」などという声も出たのだ。しかし、百恵さんは引退直前に出版した自伝『蒼い時』のなかで「世間に出て、活躍してゆくばかりが『自立』だとは決して思えない」と書き、こんな持論を語った。

《女にとっての自立を私は、こう考える。生きている中で、何が大切なのかをよく知っている女性。それが仕事であっても、家庭であっても、恋人であってもいいと思う》

 これは女性に限ったことでもないだろう。生きるうえで何が大切なのかを考えるからこそ、次のステージを目指し、それを知ることが新たな自立につながる。有名人のセカンドキャリア挑戦は、そんなことを教えてくれる。

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。