眞島秀和 撮影/森田晃博

 第一次世界大戦中に起きたアルメニア人迫害の実話を基にした舞台『月の獣』は、1995年の初演から世界20か国以上で上演され、2001年にはフランス演劇界で最も権威のあるモリエール賞を受賞。2015年の日本初演は栗山民也氏の演出で好評を得た。

 笑いながら泣ける極上の会話劇が12月に再演。今作の主人公、迫害から生き延びアメリカに渡った若きアルメニア人夫婦を演じるのは、映画・ドラマに欠かせないバイプレーヤー、眞島秀和さんと若手実力派女優の岸井ゆきのさん。2月に上演された『チャイメリカ』に続き、2作目の栗山作品に挑む眞島さんに、今作への意気込みや舞台への思いを聞いた。

休憩40分ぐらい欲しいです(笑)

「日本を代表する演出家のひとりである栗山さんの作品に続けて参加できるのは、非常にありがたいことです。ここ数年、何度か舞台をやらせていただいていますが、まだまだ舞台経験の少ないなか、初めてここまでボリュームのある内容と役どころをいただいたので、今の自分にとって大切な作品なるのは間違いないと思っています」

 今年は栗山演出の舞台で始まって締めくくる1年になる。

「でも、僕はこの『月の獣』を乗り越えないと新年を迎えることができないってことですからね(笑)。いま怖いなと思っているのは出演者の人数です。4人で上演時間2時間半ですから。弱音を言うと休憩40分くらい欲しいです(笑)。

 まずは、膨大な台詞との戦いですね。そこがどうしようもなかったら始まりませんから。初演で僕の役を演じられた石橋徹郎さんにも、“苦しいよ。頑張ってね”と、すごく力強く抱きしめられました(笑)」

運命を共にしていくのが家族

 眞島さんが演じるのは、迫害によって家族を失い、ひとりアメリカへと亡命した青年・アラム。妻に迎えた同じアルメニア人孤児の少女・セタと、お互いの過去や違いに葛藤しながらも、真の夫婦、家族になっていく物語だ。

「この夫婦が生きている時代にどういうことがあったのか空気感も含めて知るために、アルメニア人の迫害をテーマにした2本の映画『THE PROMISE/君への誓い』と『消えた声が、その名を呼ぶ』は見ました。

 日本人にはあまりなじみがない題材かもしれませんが、今作は夫婦や家族という本当に普遍的なテーマを扱っているなと思います。役作りとしては、アラムの年齢が最初は19歳なので、見た目はそこまで変えられませんけれども、ひとりの男性の居住まいや考え方が、どう年齢を経て変化していくのかって部分の表現がいちばん興味のあるところです」

眞島秀和 撮影/森田晃博

 ご自身が夫婦や家族にとって大切だと思うことは。

「難しいですけど、いろんな障害があったり、もちろん考え方が違ったりしても、運命をともにしていくのが家族なのかなっていうことですかね。この作品にもそれは描かれていると思います」

 妻のセタ役は、ドラマでも共演経験のある岸井ゆきのさん。

「一見、華奢に見える方ですが、とても芯の強い女性という印象があるので、頼りにしています。ご自身の中できちんと消化して演技をなさっているという骨太なイメージがありますね。今回は、僕と岸井さんの夫婦の会話劇が、納まりがよすぎないゴツゴツした形のような会話になればいいなと思っていて。きっと稽古していく中で、お互いどんどん発見があると思うので楽しみです」

 演出家・栗山民也氏とその舞台の魅力について尋ねると、

「作品に対する情熱が誰よりもある方という印象ですね。栗山さんの情熱に僕らはついていくといいますか。たくさんの演出作品を抱えていらっしゃる中で、ひとつひとつにちゃんと情熱をもってやられているというのは、すごいことだと思います。

 栗山さんの演出作品は世界観にとても奥行きを感じます。どんな題材を描いても世界が決して小さくならないところに魅力を感じて。今まで相当な数の芝居を作ってこられて、相当な数の役者さんを演出されてきたその中に、自分も入っていきたいと思っていました。今年2本も栗山さんと舞台をご一緒することができて、こんなときが来るなんてって感じですね(笑)

舞台俳優を羨ましく思っていた  

 俳優生活20年のキャリアを考えると意外だが、舞台デビューは2014年と遅かった眞島さん。

「ずっと舞台に憧れはあって。役者を目指し始めたころに入った養成所の舞台にアンサンブルで何本が出してもらったことはあったのですが、映像のほうに進んでしまったので関わりがなくなってしまったんです。

 それからドラマや映画の撮影現場でいろんなタイプの役者と共演していくうちに、同年代でも後輩でも舞台経験が豊富な方たちと出会って。彼らと一緒に芝居をすると面白いんですよね。すごくアイデアもあるし。そこにコンプレックスじゃないですけど、うらやましい気持ちがずっとありました。

 だから、ここ数年、毎年、声をかけていただいて舞台をやれていることがすごくうれしいんです。1年に1本、舞台で鍛え直してもらって、映像でまたいろんな役柄を演じられるというのが、今とてもバランスがいいです

『月の獣』がどんな舞台になればいいと思いますか?

「少ない演者で作る、ある家族の限られた世界観の話ですが、そこにある普遍的なところをお客様に感じていただきたいと思います。

 座組としても、年末ですから最後に“すごくいい芝居になったね”って、キャストとスタッフみんなで美味しいお酒が飲めるような舞台にしたいです」


『月の獣』 (c)2019「月の獣」

『月の獣』
 第一次世界大戦時のオスマン帝国(現・トルコ)の迫害により家族を失い、アメリカへと亡命した青年・アラム(眞島秀和)は、写真だけで選んだ同じアルメニア人の孤児の少女・セタ(岸井ゆきの)を妻として呼び寄せる。

 理想の家族を強制するアラムだが、幼く心に深い闇を抱えるセタは期待に応えることができない……。お互いの過去を受け入れ真の夫婦になっていく愛の物語。作:リチャード・カリノスキー 演出:栗山民也 12月7日~23日@紀伊國屋ホール【公式サイト】https://www.tsukinokemono.com

ましま・ひでかず 1976年11月13日、山形県出身。1999年、映画『青 chong』で俳優の道をスタート。映画、テレビドラマ、CMなど幅広く活躍。主な出演舞台は、『海の夫人』、『鎌塚氏、腹におさめる』、『チャイメリカ』など。現在、映画『蜜蜂と遠雷』公開中。2020年には大河ドラマ『麒麟がくる』が控える。初の写真集『HM』(ワニブックス刊)発売中。

取材・文/井ノ口裕子 撮影/森田晃博 スタイリスト/momo ヘアメイク/遠山美和子(THYMON Inc.)