デビュー20周年を迎えた11月3日、会見を開いた嵐のメンバー

 連休中の11月3日、この日でデビュー20周年を迎えた嵐が会見を開き、今後の活動について発表しました。会見では、「5つのSNSで公式アカウントを開設」「全シングル65曲を配信」「アジア4都市で緊急記者会見『JET STORM』を開催」「ツアー最終日の12月25日に全国の映画館328館520スクリーンでライブビューイングを開催」「来年5月15・16日に新国立競技場でアーティスト初のコンサート開催」が明らかになりました。

 つまり、20周年の記念日に「2020年12月31日の発動休止までに、彼らが何をするのか?」を発表したのですが、会見でのコメントには「何をしたいのか?」という思いも垣間見えたのです。

 先日、『日経トレンディ』が発表した「2020年ヒット予測ランキング」で、1位の「どこでも東京五輪&応援村」に次ぐ2位に「嵐ロス」がランクインしたように、社会的なムーブメントが予想される中、彼らはどんなことを考えているのでしょうか? 会見のコメントをベースに掘り下げていきます。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

「5人1アカウント」こそ嵐らしさ

 筆者は約4年前に、「嵐のファンではない」「ジャニーズ事務所に忖度しない」という中立の立場から、『嵐の愛され力~幸せな人生をつかむ36のポイント~』という本を書きました。この本は嵐のファンだけでなくビジネスパーソンも対象に入れた内容で、コンセプトは「5人やグループのスキルを身につけて幸せな人生を送ろう」というもの。

 たとえば、嵐というグループなら“軸足力”“ハコ推し力”“類友力”“控えめな野心力”“ポジネガ力”“年齢不詳力”、リーダーの大野智さんなら“ギャップ力”“ストイック力”“底知れない力”“ボーダーレス力”“リスク取り力”“ここぞの決定力”という特筆すべきスキルを挙げていきました。今回の会見でも、そのような嵐らしいスキルが感じられ、だからこそ「何を考えているのか」がうかがえたのです。

 まず会見の目玉と言える“デジタル解禁”について。彼らは自ら「SNSをやりたい」と申し出たことを明かしました。その理由について松本潤さんは、「今まで以上にファンのみなさんと近くなりたい」「僕らの活動をリアルタイムで届けていきたい」とコメント。他のメンバーも同様の理由を挙げていたことから、「活動休止までの1年間は、ファンとの一体感をこれまで以上に生み出していきたい」という意志が見えます。

 次に櫻井翔さんは、「5人で1つのアカウントなので、それぞれのパーソナルがわかるようなことを考えているので、楽しみにしていただければ」とコメントしました。個人の個性を生かすべく“1人1アカウント”にするのではなく、忙しさの合い間に5人が助け合いながら行う“5人1アカウント”にしたところが、嵐らしさを感じさせます。

 たとえば、彼らの先輩にあたる新しい地図(稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さん)がそれぞれのアカウントを持っているのとは真逆で、やはり「嵐は5人で1人」「個人の前にグループ」という彼らの軸足は一歩たりともブレていませんでした(前述した軸足力)。

 また、「SNSの期限は決まっていない」というだけに、2021年以降も5人それぞれが共有のアカウントに投稿することで、変わらない関係性を伝えることが可能。「嵐ロス」に襲われるファンを安心させるとともに、「嵐」という名前にふれられる貴重な場になるでしょう。

ラグビー日本代表にも通じるスタンス

「活動休止が1年あまりになった今こそファンとの絆をもっと深めたい」を感じさせるコメントもありました。

 特に嵐のコンサートで演出を務めることの多い松本潤さんは、これまでファンのツイートを見て参考にしていたことを明かしたうえで、「だから(SNSを)はじめられることがうれしいですし、一方的だったのが双方向になるのが楽しみ」と喜びを隠さなかったのです。

 彼らは個人よりもグループとして、ファンとの絆を最優先に考えているからこそ、負担やリスクを承知で、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、TikTok、Weiboと、いきなり5つものSNSをはじめたのでしょう。こんな生まじめさや一生懸命さがファンの「応援したい」という気持ちを促しているのですが(前述したハコ推し力)、徐々に活動休止が近づいてきた今、そんな思いが高まっていることを感じます。

「ファンとの絆を最優先に考える」という姿勢はSNSだけでなく、シングル全65曲のデジタル配信に対しても同じ。松本さんは、「いつでも自分たちの音楽を楽しんでいただきたい」「活動休止している間も寂しい思いをせずに楽しんでいただきたい」と、2021年以降に活性化するであろう個人活動より、あくまで嵐としてファンに寄り添うことを第一に考えているのです。

 アイドルには、「個人をベースにしてグループに生かす」「グループをベースにして個人に生かす」という2つのアプローチがあり、どちらかを選んで活動することになりますが、嵐は明らかに後者。とかく個人の尊重が叫ばれる世の中になりましたが、ラグビー日本代表が選手やスタッフにファンを加えた「ONE TEAM」を掲げて支持を得たように、人々の心を打つのは嵐のような「(ファンを含めた)グループをベースにして個人に生かす」というスタンスなのです。

 このスタンスはビジネスシーンにおいても同様。組織に属しているのなら、たとえリーダーであるとしても、「グループをベースにして個人に生かす」というスタンスを見せなければ、どんなに個人スキルが優れている人でも、社内外において支持を集めることは難しいものです。

「活動休止」の新たなパターンを見せる

「SNSについてジャニーズ事務所の他グループへの波及は?」と聞かれたときの回答も、示唆に富んでいました。

 まず櫻井さんは、「『波及がない』とは言い切れないと思いますけど、各グループの思いもあると思いますし、『われわれがやったから他の全グループがやる』というものでもないと思います。それぞれの思いと判断だと思うので、『少しドアを開いておく』という感じでしょうか」と、周囲に配慮しながら考えをまとめた“落としどころ力”を感じさせるコメント。

 一方、楽曲のデジタル配信について聞かれた松本さんは、「ジャニーズには素晴らしい先輩後輩がたくさんいます。僕らは期限が決まっています。だからこそできるチャレンジもあると思っています。僕たちがやってみることで得る経験をジャニーズに還元すること。それが、僕らができる恩返しだと思っています」と熱っぽく語りました。謙虚でありながら、力強い言葉で人々の心を動かそうとする“メッセージ力”が松本さんの持ち味であり、実際に会見でも最も多くの言葉を話していたのです。

 さらに松本さんは、「『なるべく大きなムーブメントになるように精一杯やっていけたら』というところですね。自分たちとしてもやったことがないですし、ジャニーズ事務所としてもやったことがないことが多々あって。やりながら軌道修正して『何がベストか?』を探りながら楽しんでいけたら。何より楽しんでいくことを、この5人だったら……“チーム嵐”だったら、楽しんでできると思っています」とコメントしました。

 この言葉から推察されるのは、「アイドルグループとして1つのあり方を見せたい」「活動休止する際の1つの方法を確立したい」という思い。近年、ジャニーズ事務所のアイドルたちがアラフォー世代に入り、「自分が望む芸能活動との乖離」「結婚などプライベートの不自由」などの問題から、グループを抜けたり、退所したりなどの新たな道を選ぶケースが増えています。

 そうした背景を踏まえて松本さんの思いを深読みすると、「僕たちはグループ全員で楽しみながら活動休止する姿をファンに見せたいと思っています」「やったことがないからうまくいかないこともあると思うけど、そういう姿も含めて参考にしてもらって、自分のグループにとってのベストを見つけてほしい」。残りの時間をファンと近い距離感で盛り上がり、笑顔の中で見送られ、「いつかまた会える」と思わせる……そんな希望に満ちた活動休止の新パターンを作ろうとしているのではないでしょうか。

 また、嵐のネット解禁は、「これまで写真や動画をネットにアップしない」という方針を徹底してきたジャニーズ事務所にとって、そのイメージを変える大チャンス。世間の人々にも、メディアにも、「ジャニーズ事務所はネットを有効活用しますよ」という格好のアピールになったのは間違いありません。今後、若手グループを中心にした世界戦略を考えるうえでもSNSは欠かせないツールであり、その意味でも1つの分岐点になりそうです。

グループのバランスを整える二宮

 会見でのコメントは、松本さんと櫻井さんが大半で、大野智さん、相葉雅紀さん、二宮和也さんの3人は、それほど多くを語りませんでした。

 しかし、大野さんはリーダーらしく、誰よりも先に「嵐、今日で丸20年、みなさん、おめでとうございます」とファンを祝福するという姿勢を見せました。相葉さんは、「SNSどころかネット全般に弱い」というキャラクターを前面に押し出して、会見に笑顔をもたらしました。二宮さんは、その相葉さんだけでなく司会者にもツッコミを入れるなど、バラエティ番組のMCのような役割を果たしていました。5人が適材適所で役割を果たしていたのです。

 とりわけビジネスパーソンの参考になりそうだったのは、二宮さんの振る舞い。接着剤のように5人の会話をつないだほか、「先に他のメンバーに話させる」「そのうえで誰も言っていないことにふれる」という気の利いた振る舞いをしていたのです。

 たとえば、「残りの約1年間でどうしてもこれだけはやってみたいことは?」と聞かれたとき、二宮さんは5番目に回答。「僕らは、東京五輪・パラも 、NHKさんのほうでガッツリやらせていただくので、『世界中の人たちとコミュニケーションを取りながらやっていけたらな』と思っています。またユーチューブやインスタグラムなど、『どこの地域や国で認知していただけるのか?』もやってみないとわからないことなので、『歓迎されているところにはご挨拶に行けたらな』と思っています」とコメントしました。

 この日の会見では、11月9日から11日までアジア4都市をまわる緊急記者会見「JET STORM」や、来春の北京コンサートが発表されたほか、ツイッターが日本語・英語のダブル表記であるなど、「世界」は重要なキーワードの1つ。それを最後にしっかり伝えることで、グループとしてのコメントバランスを整えるとともに、4人のコメント内容をフォローしていたのです。

 ビジネスパーソンのみなさんも、「自分はグループの何番目で、『前の人が何を言っていたか』をどれだけ踏まえられるか」を意識してコメントしてみてはいかがでしょうか。

 会見の最後に松本さんは、「2020年の12月31日や12月がどういう空気になるのか? 自分がそのとき、どういう思いになるのか? 正直想像がついていないんです」と本音を漏らしました。

 東京オリンピック・パラリンピックが終わったあとに、日本中を覆いはじめるであろう「嵐ロス」のムードはどんなものなのか? 彼ら自身もまったく想像できていないのでしょう。事実、この日の会見は、いつも通りの自然体で、和気あいあいとしたムードに終始。その牧歌的なムードに、「彼らはラスト1年を特別視していないのでは?」という声もあがるほどでしたが、今後は心境が変わってきたとき、SNSにアップすることは十分考えられます。

「いつか活動再開してもらいたい」ファンの姿勢

 コンサートに通うヘビー層だけでなく、テレビを見ているだけのライト層も含めたファンたちは、これまで以上の応援と感謝の声を送り続けるでしょう。また、現段階では、「『いつか活動再開してもらうために、気持ちよく送り出そう』と考えているファンが多い」と予想されています。

 そんなファンたちの姿を見て、嵐の5人は何を思い、どんな形で表現していくのか? SNSでは、彼らとファンの思いが飛び交い、ホットワードを嵐関連のフレーズが埋め尽くすかもしれません。

 ビジネスの側面で見れば、「活動休止に関わる一連の経済効果は3249億円」という推計もあるなど、どこまで盛り上がるのでしょうか? 20周年の会見は、単なる新プロジェクトのPRでなく、そんな1年後のフィーバーをリアルに予感させるものだったのです。


木村 隆志(きむら たかし)コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。