「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
剛力彩芽

第34回 剛力彩芽

 女優・剛力彩芽が交際していたZOZOの創業者、前澤友作氏と破局したそうです。今どきの若い人らしく、セレブ的な交際をSNSで公開してネット民にひんしゅくを買い、それと関係があるかは不明ですが、CMなどのレギュラーも失っていった彼女。金に目がくらんだヤバいオンナ扱いされていた感がありました。

 今回の破局で、女優生命がピンチといったニュアンスのネットニュースがたくさん上がっていました。けれど、私はむしろ逆で、剛力は最高のネタを得たのではないかと思うのです。

 美貌や才能がキラキラ光る人がスカウトやオーディションを経て芸能界に入っていくわけですが、人の心をひきつけるにはキラキラだけではだめで、特に女性芸能人には“傷”も必要だと思うのです。

宮沢りえ、中森明菜がもつ“傷”に女性層の気持ちは動く

 例えば、宮沢りえは19歳の若さで貴花田(当時)こと花田光司氏との婚約を発表します。トップアイドルと角界の若きプリンスというゴールデンカップルの誕生に日本は沸きましたが、まもなく婚約を破棄することとなります。破談の原因は語られませんでしたが、会見で「悲劇のヒロインにはなりたくない」と語った気丈なりえを覚えている人は多いのではないでしょうか。

 家庭の問題も“傷”となりえます。1989年に、中森明菜が当時の交際相手、近藤真彦の家で自殺を図ったことがあります。明菜は『ザ・ベストテン』(TBS系)で結婚願望を明らかにしていたことから、当時のワイドショーや週刊誌では「結婚話が進まないことに悲観して、手首を切った」「重いオンナ」という意見が多くみられました。しかし、’95年に明菜は『マルコポーロ』(文藝春秋)のインタビューに答え、自殺未遂の原因として家族との確執をあげています。明菜のお金をあてに家族がビジネスを始めるもすぐにつぶしたり、明菜に内緒で事務所に借金をするなどたかられており、精神的に追い詰められていったようです。

 スターといえども人間ですから、破談や家族からの裏切りはつらいでしょう。スターとしての実績があったうえで、「それはつらいだろう」と共感できるようなエピソードがあると、特に女性層は「応援してあげたい」という気持ちが高まるのではないでしょうか。

 加えて、前回、立川志らくの回で書いたように(『グッとラック!』立川志らく、主婦層に受け入れられない「オジサン」の悪いヤバさ)、現代では情報元はテレビだけではありません。ネット、特にSNSの影響が強くなっています。誰もが簡単にコメンテーターになれる時代、芸能人は「憧れの存在」から「SNSのネタ」という側面も持つようになりました。そうなると、イジリやすい人、つまり「一般人と同じ」と思わせるネタを持つ芸能人に好感が集まるとも言えるでしょう。

破局と同時に元カレの女性トラブル報道

 以上のことから考えると、順調すぎる芸能人生活を送ってきたこれまでの剛力は傷もない、かつSNSウケもしない存在だったと言えるのではないでしょうか。彼女は小学生のころに、大手芸能事務所にスカウトされて芸能界入り。順調にキャリアを積み、ドラマやCMに多数出演していました。『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)で、彼女自身が家族円満であることを話していましたから、明菜のように家族に裏切られることはなさそうです。

 ところが、『ボクらの時代』(フジテレビ系)で「オスカー事務所には25歳まで恋愛禁止令がある」と明かしていた剛力が、恋愛禁止の年季が明けて選んだ相手が大金持ちの前澤氏だったわけですから、「一般人と同じ」を好むSNS民には大不評。昭和であれば、清純派女優と富豪の恋愛は王道としてもてはやされたかもしれませんが、今の時代には若干そぐわないところがあります。

 しかし、神は剛力を見捨ててはいません。元カレ・前澤氏の不祥事が破局後すぐに『週刊文春』(文藝春秋)に掲載されたのです。前澤氏とSNS上でやりとりをしていた既婚女性が、前澤氏の新会社『スタートトゥデイ』で秘書を募集していることを知り、履歴書を送ったそうです。オフィスに誘われた女性は採用面接だと思い出かけたところ、オフィスで関係を持ったそうですが、不採用。前澤氏は面接ではなく、個人的な興味で会ってみたかったと説明したそうで。怒った女性が『週刊文春』に売り込むと訴えると、前澤氏は警察に被害届を出すと応じて、トラブルになっているようです。

 いろいろツッコむところがありすぎる話ですが、有名企業の社長ともあろう人が、職場で人妻と何をやっているんだというのが大方の見方ではないでしょうか。大富豪・前澤氏のビジネスが順調で、人格も高潔という非の打ちどころがない人物であり、かつ本当に好きな人ができて剛力と別れたいというのなら、彼女にはなんとなく「捨てられたオンナ」のようなイメージがついてしまいます。しかし、こういう「しょうもないオトコ」的なエピソードがあると「そんなヤバいオトコとは別れてよかった」と潮目を変えることができますから、彼女には願ったりかなったりな告発でしょう。

SNSでいちばんウケる“ちょうどいい傷”をもらった

 剛力は前澤氏から慰謝料として金銭をもらったとかなんとかいう記事もあるようですが、事実はさておき、前澤氏からもらった最も価値あるものは、「ダメ男と交際した」という、SNSでいちばんウケる傷ではないでしょうか。また傷の程度もちょうどよい。もし二人の間で別れ話が煮詰まって刃傷ざたになったり、暴露合戦になったら重すぎて笑えないのです。仕組んだのかと疑いたくなるくらい、今回の別れは彼女にとってちょうどいい。すべてがプラスではないでしょうか。

 そうはいっても、剛力が前澤氏と交際する状態の前に、すぐに戻ることは難しいでしょう。単発のドラマや舞台で実績を重ねつつ、まずはバラエティー番組で、いじってもらったらどうでしょうか。宮沢りえが婚約破棄をしたとき、「傷ものになった」という人もいましたが、今は男性と別れたくらいで価値が落ちることはありません。むしろ、傷は財産と言っていいでしょう。

「ご存じのとおり、オトコを見る目がないもので」とか「飛行機はエコノミーで十分です」と自虐できたら、演技もキャラも立つ“ニュー剛力”が誕生するかもしれません。


仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。