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 疲れが取れない、身体がだるい、という症状は、メンタルが原因の場合も多い。年々増えているといわれる「うつ病」。明確に診断できる疾病ではないため患者数の扱いには慎重を期するが、うつ病を含む気分障害患者数は、2008年には104万人以上(厚生労働省による患者調査)。たしかに、友人・知人、家族、職場で、うつ病患者はもはや珍しくもなんともない。

 とはいえ、疲労や身体のだるさから即、自分が「うつ病では?」とは疑いにくい。精神疾患に対する思い込みや偏見もいまだに多いので、すぐに精神科を受診する人は多くはない。

医師がうつ病かどうかを見極めるポイント

「あきらかに自分で心あたりのある人は別ですが、内科で診てもらって異常も疾患も見つからないから、と精神科に来る人も多いですね」(六番町メンタルクリニック・海老澤尚先生・以下同)

 疲労感やだるさが、うつ病によるものかどうか見極めるには次のような点が基準になるという。

うつ状態でもっとも特徴的なのは、気分の落ち込み、憂うつな気分が見られること。これがあるかどうかが、見極めのポイントとなります。わけもなく悲しくなったり、死にたくなったり、笑えない、自然と涙が出てくるなどの症状は、うつ状態特有のもの。きっかけとなる環境の変化や出来事が自覚できていれば診断はしやすいのですが、なかには自分がうつ状態であることを自覚できない人もいます」

 うつ病にかかりやすいのはまじめできちんとしている人が多く、決して心が弱い人がかかるわけではない。その性格ゆえに、仕事に打ち込みすぎたり、休みをとらなかったりして悪化させてしまうケースも多い。その場合は、家族や周囲の人間の助けも必要。次のページに記したチェックリストに当てはまる様子がうかがえたら、受診をすすめたい。

「うつ病と診断されたら、まずは休むこと。こうして環境改善をしながら、適切な投薬で徐々に回復していきます」

 休養と服薬が治療の基本となるが、うつ病になりやすいものの受け取り方や考え方を修正するのも効果的。せっかく回復しても、そこが変わらないと、再発の可能性も高くなってしまう。

「うつ病になりやすい人は、『自分のせいだ』とか『もっとやるべき』といったように、自責感が強い傾向があります。こうしたものの受け取り方、考え方を変えていく『認知行動療法』という治療法もあります」

 本人の希望や医師の判断で、一定のプログラムが組まれ、臨床心理士の面接、指導のもとに行われるのが一般的だ。

 ハードルが高く感じる精神科や心療内科だが、今は「メンタルクリニック」「心のクリニック」などといった名前で行きやすい工夫もされている。が、やっぱりデリケートな分野。人に気軽に「おすすめの病院ない?」とは聞きにくいので、なかなか情報が得にくい。いい病院はどうやって選ぶといいのだろう。

「医師と患者も人と人ですから、やっぱり相性があります。合わない医師に診てもらっても、満足はできないでしょう。自分に合う医師を探すには、病院のHPなどでその病院の診察方針や考え方を調べてみて、そこで好感を持てるかどうか。自宅からあまり遠くないところがいいでしょうね。メンタルの病気は、頻度は多くはなくても長期の通院が必要な場合が多い。つらいときほど病院に行きづらい、となってしまうと本末転倒です」

自分に合う病院を探す

 心療内科は行きやすいが精神科は行きにくい、という声も聞こえてくるが、この2つの診療科の違いはどこにあるのだろう。

 簡単に言うと、心療内科は「心因性の身体症状を診る科」。つまり、胃が痛いとか、身体が重いとか、頭が痛いなど、身体疾患がないのに症状があるケース。このほかにも、何か思い当たる心理的背景があって、身体症状が出ている場合もあてはまる。理由なく身体の不調が続いている場合もこちらの科だ。

 一方、「精神科」は「心(脳)の症状を診る科」。気分が落ち込む、人間関係で悩みがある、やる気が起きないなどといった症状はこちらといえる。

「両方の科を掲げている病院も多いので、自分で判断がつかない場合はどちらもカバーしてくれる病院を受診すると安心です」(海老澤先生)

【うつ病かも!? チェックリスト】
うつ状態にあるかどうかをチェック! 以下の項目に7個以上当てはまったら危険ゾーンです。
・身体がだるく疲れやすい
・わけもなく悲しい
・わけもなく涙が出る
・笑えない
・死にたくなる
・何もやる気が起きない
・何にも意味を見いだせない
・だるくて起き上がれない
・なんでもネガティブ
・眠れない、眠りが浅い
・自分を責める

女性は人生に3度、うつ病の危険が

 うつ病の患者数は、女性が男性の2倍、という事実を教えてくれたのは、日本女性心身医学会理事で産婦人科医の甲村弘子先生。女性の健康を心身医学的な視点からサポートすることを信条としている。

「女性は一生を通じて女性ホルモンに左右されるうえ、人生のステージの変化が大きい。20歳前後の若年期、出産後、そして閉経をはさんだ更年期と、女性は一生のうちで3回、うつ病になりやすい時期があります」(甲村先生・以下同)

 20歳前後は将来に対する不安感があり、自立の時期で環境も激変する時期。産後はホルモン変動が激しく、子育ての不安や負担というメンタル面での負荷も高い。そして閉経をはさんだ前後10年の更年期も、女性ホルモンの減少と生活環境の変化により、心身の不調を起こしやすいのだ。

「更年期のうつ病に関しては、もともと持っている気質(素因)、女性ホルモンの影響、周りを取り巻く環境、この3つの状況が大きく関わり合っています。誰もがということではありませんが、3つの要因が重なってしまうと、うつ状態になりやすいと言えます」

 女性のうつには女性ホルモンの影響が大きいので、婦人科の治療で効果が期待できるケースは多い。

「本当に重篤な精神疾患が疑われる場合は精神科に紹介しますが、心身医学的な対応と適切な治療で、ずいぶんとよくなります。『必ずもとの自分に戻れますよ』と言うと、みなさん本当にホッとされますね」

 甲村先生が実践している心身医学的な対応とは、どのようなものなのだろう。

まずは患者さんの話を聴く。これは『傾聴』というもので、『ふむふむ。なるほど』と相手の話に耳を傾ける。そして、決めつけたり、否定したりせず、まずは『そうですね。そのように感じているのですね』と、相手をあるがままに中立的立場で受け入れるのです(受容)。さらに、『頑張っているのに、うまくいかないのですね』などと、相手の立場に立って、相手の気持ちや感じ方に共感して理解することが大切です」

 この後、診断にうつっていくわけだが、

「最後に要約と確認をします。『つまり○○ということですね』と、相手の話のポイントをまとめて返すのです。こうすることで、時間経過を持った患者自身の物語を、医師と患者が共有することになるのです」

 こんなふうに医師が自分の訴えをじっくりと聴いてくれたら、どれほど救われるだろう。

「誰かに話すという行為だけで、たとえ問題そのものは解決しなくてもずいぶんとラクになるものです。うつ病になる人は、いい母やいい妻を頑張ろうとするあまり、〇〇しなくてはならない、〇〇できない自分はダメだと考えがち。

 例えば、体調が悪いのに『夕飯を作らないと』と思い、できずにお惣菜を買うと『作れなかった』と自分を責める。そうではなく、『体調が悪いなか、お惣菜を買って夕飯を準備できてよかった』と、とらえることもできるわけです。ものごとのとらえ方をプラスに変えていくことが大切です」

 うつ状態などの更年期の心身の不調には、こういった対応に加えて、ホルモン補充療法も効果がある。

「更年期は女性ホルモンであるエストロゲンが減少するせいで、さまざまな不調が現れるので、このホルモンを少し補ってあげるのです。ぜひ知ってほしい治療法です」

ホルモン補充療法とは?

 女性ホルモンと言われるエストロゲンの低下をホルモン製剤によって補う治療法。「若いころと同じ水準にもどすのではなく少し補うだけで、症状は軽くなります」(甲村先生・以下同)

 飲み薬のほか、貼り薬、塗り薬もあり、ライフスタイルに合わせて補充方法を選択できるのも魅力だ。

「効果がとても高いのに、日本ではあまり普及していないのは残念。乳がんの発生率が上がると言われていますが、ほんとにわずかな数字で、定期的に乳がんをチェックしていれば問題ない程度です」

婦人科をもっと活用しよう

 月経不順や妊娠・出産分野が専門、というイメージがある産婦人科では、女性の心身の不調全般も診てくれる。就職や出産など人生の節目に、自分に合った産婦人科医を見つけて「かかりつけ医」としておくのはおすすめ。なんでも相談できるので心強い。「親子2代で通ってくれる患者さんも大勢います。家族関係や体質などの情報も把握でき、信頼関係も築きやすいですね」(甲村先生)


《識者PROFILE》
海老澤 尚先生 ◎六番町メンタルクリニック院長。精神科医。不安症、不眠症治療など、多岐にわたる診療経験があり、ひとりひとりの心の悩みに寄り添い職場での悩みやストレスにも理解が深い。

甲村弘子先生 ◎日本女性心身医学会理事。産婦人科医。メンタルを含めた女性の健康を一生を通じてサポートしてくれる心強い存在。こうむら女性クリニック院長。