※写真はイメージ

 2018年、日本国内の死亡者は136万人を超え、戦後最多を記録した。超高齢社会を前にして、誰しもに訪れる死。そこに欠かせないのは葬儀である。その葬儀をDIYですると非常に安価ですむと提唱する『DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版)は、葬儀社を中心とした関係者に取材をした実用書だ。そこで著者の松本祐貴さんに、自身が体験したことを中心に、葬儀の知識や相場を整理してもらった。

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 父が長い闘病生活の末、がんで亡くなったのは2017年のことでした。医師に「長くて半年」と宣告されてから、11か月も生きてくれたので、ショックは和らいでいましたが、肉親の死はどんなときでも“突然”という思いがありました。

 そのときは葬儀の知識がまったくない一般人でしたが、喪主を経験してわかったこともあります。また今回、本のための取材を重ね、葬儀業界の裏表を知ることができました。これから葬儀をする人のために、葬儀の流れ、実際にかかるお金、どうすれば“よい葬儀”ができるのかを伝えたいと思います。

どんな葬儀をしたいのかを事前に相談しておく

 まず、父が亡くなる前、余命宣告から時間があったのに葬儀社を探しもせず、事前相談をしなかったことが私の後悔、反省のポイントです。これさえしておけば、ほとんどの問題は解決していたと思います。

 結局、亡くなったその日にインターネットで検索した葬儀社の代理店にひっかかりました。葬儀の打ち合わせは、喫茶店でたった1回のみでした。

 そのネット系葬儀社に言われるがまま仏式の花祭壇を選び、公営の斎場で、親戚、知人10数名ほどが参列する家族葬を行いました。費用は、通夜の後に会葬者に出す料理「通夜ぶるまい」、葬儀後に行う会食「精進落とし」は含まないセットプランで約50万円でした。

 最大の後悔は通夜、告別式にありました。父は生前、映像関係の仕事をしていて、その仲間も数名、式に参列していました。せめては父の生きた証(あかし)となる映像や写真を少しでも流してあげればよかったと思います。

 手の込んだ式は、しっかり葬儀社と打ち合わせするか、自らで映像などの素材を用意しないとできません。つまり、私自身が事前に葬儀のイメージができていなかったのです。

 一方、知識がなくても自身でできる部分はあります。前述したように葬儀社のセットプランには、食事代、食事の会場代は含まれません。内容にもよりますが、家族葬であれば食事代や会場代を含むと、20万〜30万円の追加料金がかかります。 

 私の場合は、「通夜ぶるまい」は懐石弁当を通夜の会場に自分で持ち込み、「精進落とし」は父の好きだったふぐ店で行いました。食事部分を自分で手配するメリットは金額が10万円ほどと安くすむこと、ゆっくりと参列者と思い出話ができることです。葬儀社が用意する精進落としだと1時間〜1時間半程度で会場を追い出されますが、自分で選んだ店なら時間を気にせず、思う存分話せます。デメリットはお店の予約の手間ぐらいです。

「完全DIY」3万円葬儀の内訳は

 この本を書いていると、今の葬儀がいかに故人を無視した流れ作業で行われ、高額でぼったくっているかかがわかりました。

 費用面でいうと、もし完全にDIYで葬儀ができるなら、3万円ほどの費用で行えます。東京23区の場合、最低限必要な棺(約3万円)、骨壷(約1万円)、火葬費用(約6万円 ※自治体で異なる)で計10万円。故人が国民健康保険もしくは後期高齢者医療制度に加入していれば、自治体に申請することにより「葬祭費」が支給されます(東京23区は7万円。金額は自治体によって異なり、だいたい1万〜7万円)。国保以外の健康保険の場合も、「埋葬料」という名目でおおむね5万円支給されます。支給金額を差し引くと、最低3万円で実現できるわけです。

 個人ではハードルの高い火葬場の予約ですが、公営の火葬場なら電話で相談に乗ってくれるでしょう。手間こそはかかりますが、そのほうがありきたりの葬儀ではなく、心から故人を見送れると思います。

お布施・戒名料の相場は最低でも40万円

 葬儀社のセットプランに入っていないのは食事代だけではありません。喪主を悩ませるのは、僧侶のお布施・戒名料です。

 これも難しい問題です。もし「お経なんていらない。お布施を払いたくない」というなら、菩提寺と縁を切らなければなりません。先祖代々のお墓があるなら自分の代で多額の費用がかかる墓じまいをしなければなりません。

 私の場合は、父の昔の実家近くのお寺に電話をしました。会ったこともない住職に経緯を説明し「お布施・戒名料すべて込みで25万円でお願いしたい」と頼み込みました。住職はしぶしぶといった感じでやっと首を縦にふってくれました。お墓は生前の父が公営の霊園に建てていたものを使っています。

 この本にも書きましたが、お布施・戒名料を合わせると40万〜100万円が相場です。そんな知識すらない自分だったので、強気に交渉しましたが、気の弱い方なら言われたままの額を払ってしまうでしょう。

 家族葬、直葬(通夜や告別式を行わず火葬のみを行う葬儀)が増え、お葬式の単価が下がってきたというデータがあるにしても、やはり通常の葬儀をして、お坊さんを呼ぶと100万〜200万円は必要なのです。

葬儀社のぼったくりを防ぐには交渉しかない

 今回、取材した葬儀関係者に聞くと、「葬儀社は9割がぼったくり」との証言が得られました。「遺体を安置するのに必要なドライアイス。定価は5000円〜1万円を5万円と要求する」「会場代は無料とうたっていても、別に親族控室代10万円を請求」など、その例は数多くあります。

 よい葬儀社を選ぶには、結局は葬儀社の人の質を見るしかありません。それには相見積もりと事前相談が重要です。また、葬儀社と交渉するには相場を知ることが武器になります。

「悪徳な葬儀商売を排除し、故人のためにきちんとお金を使って、読者には納得のいく葬儀をしてほしい。そのためにはDIYでもプロの手を借りてもいい」

 そんな私の願いと自ら喪主を務めた反省が込められた本です。これからあなたにも訪れるであろう近親者を見送る機会。納得できる葬儀ができるよう参考にしてもらえればと思います。

『DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版)松本祐貴=著 ※記事中の写真をクリックするとAmazonの紹介ページへにジャンプします

<プロフィール>
松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。ライター&フリー編集者。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)『DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版)。