令和初ドラマ『グランメゾン東京』が高評価を得ている木村拓哉(47)。これまで、『ロングバケーション』や『ビューティフルライフ』など数々のドラマを社会現象化させてきたが、今だから話せる、ドラマ『HERO』の現場での“撮影秘話”を取材してみると──。
木村拓哉

 身にまとうのは、くたびれたジーンズに、茶色のダウンジャケット。検事らしからぬ飄々とした人柄で、お決まりの挨拶は“よろしこ!”──。

 木村が型破りな検事を演じ、一躍話題となったのが、'01年に月9枠で放送された『HERO』(フジテレビ系/2001年)だ。

大胆な演出と細かい部分への「リアル」さ

「木村さんの演じる久利生公平検事と一緒に行動する事務官役に、松たか子さん。ほかにも八嶋智人さん、小日向文世さん、阿部寛さんなど、キャストは豪華でした。視聴率は全話30パーセント超えで、単発ドラマや映画版も製作されました。'14年には再び連ドラが放送され、新しいヒロインに北川景子さんを迎えたことでも話題となりました」(テレビ誌ライター)

 法律監修は、リーガルアドバイザーの落合洋司さんが行った。放送前は、従来の検事ドラマとはあまりにもかけ離れた設定のため、理解を得るのが難しかったという。

「このドラマの監修は当初、元検事の方に依頼していたそうなんです。しかし当時は、久利生公平のような、型破りな検事像というものが受け入れられず、断られてしまったそうです。それまでの検事ドラマはキッチリとスーツを着て、事件を解決するという話ばかりだったので“久利生のような検察官はありえない”“検事がネガティブなイメージになる”という懸念もあったようです」(落合さん)

 心配をよそに、当時、久利生が着ていたダウンジャケットが売り切れ状態になるなど、ドラマは大ヒットを記録。落合さんは、物語を面白くするために大胆な演出を入れたものの、細かい部分にウソがないように、リアルさを追求していたそう。

「劇中で、検察官がみんなで事務所の大テーブルを囲んでコーヒーを飲んだり、談笑するといったシーンがありますが、実際の検察庁でこのような光景は見られません。個人の部屋を持っており、それぞれがそこで仕事をしていますから。

 でもドラマの演出上、検事同士でコミュニケーションをとるシーンを入れたほうが、面白くなると思ったんです。一方で法廷での言葉遣いや言動など、細かい点はいっさいウソや違和感がないようにして、リアリティーを出すことを徹底していました」(落合さん)

 高視聴率を反映してか、ドラマの打ち上げもそうとう“型破り”なものだったようで……。

「ビンゴ大会の景品は、かなり豪華でしたね。第1シリーズのときは、当時だと30万円から40万円近くする液晶テレビが、スポンサーさんから提供されました。第2シリーズでは、ドラマ内で久利生が実際に着用していたロレックスが、そのまま景品として出されたんです。この時計を当てた美術スタッフは泣いて喜んでいたそうですよ(笑)」(制作会社関係者)

個性あふれる検察官たちが顔をそろえるシーンは、コミカルなやりとりも見どころだった(ドラマ『HERO』より)

脚本家と音信不通に

 華々しい成功の陰には、予期せぬトラブルもあった。

「今でこそ『HERO』といえば福田靖さんが脚本という認識ですが、当初、脚本を担当するはずだったのは大竹研さんという方でした。フジテレビのヤングシナリオ大賞を受賞して優秀な新人として期待されていたんですが、第1話の脚本を書いた直後に連絡がとれなくなり、失踪状態になってしまったんです」(同・制作会社関係者)

 そこで急きょ、3人の脚本家を選び、交代制で書いていくことになった。

「ものすごく短い期間で脚本を書かなければならないので、キャストに台本が届くのもいつもギリギリ。深夜の撮影が続く毎日で、かなり切羽詰まった現場でしたね」(同・制作会社関係者)

 彼が失踪状態に陥ったのは、“木村が出るドラマは、視聴率30パーセントが当たり前”という重圧に耐えきれなかった可能性があるという。

「当時のフジテレビは視聴率に厳しく、数字を取れないとテレビ制作とは無縁の部署に左遷されると言われていたほどです。ドラマスタッフをはじめ、脚本家にもそうとうプレッシャーはかかっていたでしょう」(フジテレビ関係者)

 人気ドラマは、今も昔もとてつもない緊張感のなかで作られているのだ。