イッセー尾形 撮影/齋藤周造

「見てくれた方からフカ先生へのうれしい感想をたくさんいただいて。口癖の“ええよぉ”は京都弁で、方言指導の先生からアクセントを教えてもらって、ひたすらコピーしました。

 絵付けの練習もしましたが難しいんですよ。筆の引き際でプロと素人の違いが出るんです。だから新聞紙で稽古しましたよ、喜美子(戸田恵梨香)みたいに(笑)

フカ先生を演じるときに思い出した“恩師”

 ひとり芝居の第一人者で、バイプレーヤーとして長年、活躍を続けるイッセー尾形(67)。現在、放送中の連続テレビ小説『スカーレット』では、ヒロイン・喜美子の師匠で絵付け師のフカ先生こと深野心仙を演じ話題を呼んでいる。

「僕も絵が好きなんですが、この役は自分の美術の先生とちょっとかぶるところがあって。その先生は、絵の自由さみたいなものを子どもたちに伝えようと苦労なされた方だったんです。なかなか自由って教えるの難しいじゃないですか。感じて見つけていく作業だから。そんなことを思い出しながら役に臨んでました」

 一方、公開中の主演映画『漫画誕生』では、明治から昭和にかけて活躍した北沢楽天役に挑戦。手塚治虫や長谷川町子らにも大きな影響を与えた日本初の漫画家で、その生涯が描かれる。

「漫画は好きでしたね。確か小学校3、4年のころに少年マガジンと少年サンデーが創刊されて毎週買ってた。ちばてつやさんの『紫電改のタカ』とか寺田ヒロオさんの『スポーツマン金太郎』とか好きだったな。鉄人28号はお得意で、よく教室の黒板に描いてました(笑)」

 絵は普段、こんなときも描くそう。

「ひとり芝居の新ネタを作るときにまず絵コンテを描くんです。頭でっかちな絵なんですが、こんな人物になりたいっていうのをちょっとデフォルメして描いて。何か見つけたいと思うときは絵から入るほうが多いかな」

「ただ面白いものをずっと作りたい」

 そのひとり芝居は、このようにして“誕生”した。

「'71年に演劇がやりたいと思って活動を始めて、最初は昼間に建築現場で働いて、夜に演劇学校に行っていたんです。

 だから最初からひとりではなくて、みんなで芝居をやっていたんですが、やがて次々とやめていって、ひとりになっちゃって。そんなときに、『お笑いスター誕生!!』って番組を見たら、ひとりで芝居をするスタイルがあることに気づいたんです」

 そこから今のスタイルが確立される。

「演出家と夜の公園や彼の家に行ってネタを作って“スタ誕”に出演したら、大阪の広告代理店の人が“これまでのネタをまとめて、大阪でやりません?”って声をかけてくれて、いまのひとりで何人かを演じるライブのスタイルができたんです。

 ここまでやってこれたのも、ただ面白いものをずっと作りたいとか、どうにかなるだろうって考えが最初からあったからだと思います。役者として食べていける、いけないは真剣に考えたことはなかったな(笑)

 そんな彼は、最近ある趣味に目覚めた。

「トランペットを始めたんです。役で吹くシーンがあったんで、先生に教えてもらって一生懸命、稽古して。昔からギターはやっていたんですが、吹く系の楽器は絶対向いてないと思っていたら意外や意外、いろんな音色が出てね。最近、プラスチックのトランペットを買ったので、昔の4ビートのジャズとか、それっぽいものを吹けたら楽しいだろうなって思います」

冬の恐怖体験

「初めてスキーをやったときは倒れられなくてビックリしたね。スキーって前に倒れれば止まると思い込んでいたんです(笑)。

 だけど、いざスピードが出てきて止まろうと思ったら板が邪魔して前に倒れられないし、焦って後ろに倒れても止まれずさらにスピードが上がって。最終的には横に倒れるのを思いついてなんとか止まりました。倒れないスキーは怖いね(笑)」


『漫画誕生』 (c)漫画誕生製作委員会

『漫画誕生』
ユーロスペースにて公開中。12月21日(土)から名古屋シネマテークにて公開。ほか全国順次公開。製作・配給:アースゲート