世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
Matt

第3回 Matt

 タレント・Mattのテレビ初出演は、2017年の『櫻井・有吉THE夜会』(TBS系)でしたが、なかなかのインパクトでした。当時、ブライダルモデルをしていた彼は、髪を金髪に染め、顔の彫りを深く見せるなど、白人を意識しているかのようなメイクをしていたのです。Mattのお父さんは、元読売巨人軍の大投手・桑田真澄氏。似ても似つかぬルックスもさることながら、同番組で「お小遣いはもらっていないが、カードで月に100万円も使ってしまったことがある」「お父さんに怒られたことがない」というエピソードを披露したことから「桑田は子育てに失敗した」「お父さんは偉大なのに、息子はヤバい」という意見がネットに書き込まれました。

 私もMattに衝撃を受けたひとりですが、「こんな人を初めて見た」と言わせるヤバい人こそ、テレビ向きの人物ではないかとも思うのです。今でこそ、女装家のタレントをテレビでよく見かけますが、マツコ・デラックスが『5時に夢中!』(MXテレビ)に出だしたころも、衝撃的だったと記憶しています。キャラ飽和状態のテレビ界で、なぜか目が離せない彼はスター性を持っていると言っていいのではないでしょうか。

 芸能人がSNS用の画像を加工する場合、「脚が長く見える」とか「小顔にする」というように従来の美の基準にのっとって加工しつつも、バレないようにするものです。しかし、Mattはむしろ逆で、原形をとどめていないまでに加工をしている。読売新聞が運営する情報サイト『大手小町』のインタビューで、Mattは「きれいは不自然なもの」と話していましたが、彼の目指す“美”とは、ヤバいくらい不自然に加工したインスタの画像を指すのでしょう。

みちょぱの腹筋とMattの共通点

 美の方向性といえば、先日こんなことがありました。モデル・みちょぱが、ツイッターに水着姿をアップ。うっすらと割れた腹筋を披露したのでした。これに対して《男が思う『いい身体』を完全に間違えてるな、この人》というリプライがついたのですが(現在は削除)、みちょぱは《男にいい体と思われたくてこの体になってない グラビアもやらないから自己満です》と返し、4万件もの“いいね”がついたのでした(12月5日現在)。みちょぱも“いいね”をした人も「女性は男性にウケたいと思っている」という思い込みに異議を唱えたといえます。

 みちょぱが仕事に直接的に関係なくても身体を鍛えるのと同様に、Mattも自分だけの美を追求しているのでしょう。人に見られること、好かれることが仕事の芸能人であるのに、なぜ自己満足にも似た形で美を追求するのか不思議に思う人もいるでしょうが、これはSNSの影響ではないでしょうか。SNSでは自撮りをすることも多々あるでしょうから、自然と自分の姿形が目に入ります。こうなると、自分の容姿が気になる、自分の容姿を納得いくようしたいという気持ちになっても不思議ではありません。

人間でないものにたとえられても気にしない

 “Matt美容”の最大の利点は、嫉妬を買わないことだと思います。『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)によると、彼は週に1度、まつげエクステ、眉毛ケア、美容院、美容皮膚科での点滴に通っていることを明かしていました。正直なところ、これはお金がある人だからこそできる芸当であって、援助してくれる人のいない同世代の会社員の女性には無理な芸当でしょう。

 Mattはメイクに3時間かけているそうですが、出演した『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)で司会の松本人志に「外国人の子どもが遊ぶおもちゃ」、勝俣州和には「トイ・ストーリーみたい」と、人間でないものにたとえられてしまいます。

 お金と時間をふんだんにかけた結果、Mattが老若男女が認める美を手に入れたら、「やっぱりカネがあると有利」「有名人の子はトクだ」といった具合に反感を買ってしまうでしょう。しかし、実際は芸能界の大物に軽く笑われているわけです。彼のすごいところはそれでしょげることなく(一緒に笑っていました)、わが道を行くところ。それは「人の評価を気にしない、ブレない人」「美容知識が豊富で、本当に美容を愛している人」の証拠であると見ることもできるはず。

 男性にはピンとこない話でしょうが、実は美容の話というのはデリケートな部分があります。特に美容好きの女性たちの間では、どれだけ美容にお金をかけるかで懐事情がバレてしまうので明らかにしないほうがよかったり、投資金額が多いと「それだけお金かけてるのに、その程度?」と小バカにされることもあります。「きれいになって、早く彼氏見つけてね」と勝手に恋愛と結びつけてくる人がいないとも限りません。その点、Mattへの反応にそういう含みがあるものをあまり見たことがありません。他人を否定することなく、自分の世界も持っている彼は、極度の美容好きには付き合いやすい存在であり、『国民の女友達』と言っていいのではないでしょうか。

Mattがさらに売れるために必要なこと

 しかし、Mattには死角もあります。彼がテレビで公開する学生時代の写真は、女子の集団の中にいるものが多いのですが、芸能界においても女優の矢田亜希子やバイオリニストの高嶋ちさ子など年上の女性に可愛がられているようです。その一方で年上男性との関係は苦手な模様。

 2018年の『ペコジャニ∞!』(TBS系)で、食通として知られる堺正章がすすめるカレーを、Mattが「お腹いっぱい」と言って少ししか口をつけず、堺に「こらっ」「芸能界を知らなすぎ」と注意されていました。

 また、2017年に『バイキング』(フジテレビ系)でMattについて取り上げた際、坂上忍が「うーん、存じ上げているんですが……。知らないし、別に知りたくもない」と発言したことに対し、Mattは《坂上忍って人は何者なの? あなたに僕のこと知ってほしいなんて一言も言ってませんけどね。僕もあなたのこと知りたくないし、興味も全くないので会いたくないです。さようなら》と怒りにまかせたツイートをしています(現在は削除)。テレビ界有数の実力者に一方的に「興味がない」と言われたら、ショックでしょう。学校や職場なら、ハラスメントで問題になるでしょうが、かけだしの芸能人が否定的なコメントをされるのは、ある程度お仕事のようなもの。あの美空ひばりさんとて、少女時代に作家・サトウハチローさんに「ゲテモノの少女歌手」と言われています。

 とは言ってもこれらはテレビで放送されているわけですから、深刻な問題ではないのでしょう。しかし彼は新人なのですから、大御所にはそれなりの態度で接したほうがいいでしょう。

「自分が好きな人にだけ、好かれたい」「自分を傷つけた人は、許さない」というのは若い世代の考えかもしれませんが、いろいろな年代の人が見ているであろうテレビの世界で売れていこうとするのなら、「力のある人に、ほどほどに可愛がられる」能力も必要でしょう。

 父・桑田氏とMattはワイモバイルのCMで共演を果たします。桑田氏は「Matt、お前の道を行け」とCM内で語りかけますが、彼が自分の道を行くためには、美容に興味のない先輩男性芸能人にも「性格のいい子」だと思わせて、応援してくれる人を増やせるかがカギになってくるかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。