GACKT

 令和初、年またぎのシーズンがやってきた。年末年始でテレビ業界も“特番”がお茶の間を賑わせるシーズンになったが、今や元日恒例番組ともいっていいのが『芸能人格付けチェック』(テレビ朝日系)である。今年の放送では番組歴代最高視聴率となる19.7%を叩き出した長寿&超人気番組。

「高級ワインと安価なテーブルワインの飲み比べ」や「最高級の楽器と店で普通に売っている一般楽器を聴き比べ」などを題材に、“一流芸能人のあなたたちなら違いがわかりますよね?”といった趣旨で、真贋(しんがん)を見分けられるかどうかで出演者たちを格付けしていくといった内容だ。その目玉はなんといっても、特番時代からあわせて「58連勝」という圧倒的“審美眼”を持ち合わせているGACKTその人である。

「連続正解」へのストレス

 そんな彼が12月18日に映画賞の会見に出席し、爆弾発言をキメた。数日後に控えた『格付けチェック』への収録に触れ、

《正直に言わせていただくと、やめたいです。ストレスでしかない》(『デイリースポーツ』)と発言。さらに、《勉強してるんですよ。盆栽協会からも資料が届いたので、いろいろ調べました》とぶっちゃけ、ネットニュースに大きく取り上げられた。

 確かにこの『格付け』の醍醐味は「志村けんがワイングラス片手にウーンと首をひねる」姿ではなく、「GACKTが連続正解する」ドヤ顔とハラハラ感であることはいうまでもない。しかし、当然というべきかネットニュースのコメント欄ではその“偉業”に懐疑的な目を向けるものも少なくなく、

《本当にやらせなしでこれだけ正解したのなら本当にすごいとしか言いようがないんですけど、、、ありえない記録でしょこれ》

《連続記録に違和感を感じる。正直、視聴者が信じるのも限界が来ていると思う》

  といった声が飛び交っているのも事実だ。

 視聴者もこれだけ疑問を抱いているのだから、週刊誌メディアもご多分に漏れず、その背景を報じていないわけがない。テレビ関係者の発言を引用したいと思う。

誰が勝つか、あらかじめシナリオがあるんですよ。(中略)直接、答えを教えているということはないんでしょうけど、問題の傾向を教えていると聞いたことがあります。例えば、次回は盆栽の問題が出るといったようなことです》(『週刊新潮』'18年1月18日号)

 先の会見でのGACKTの発言とこの記事を照らし合わせると、彼が「勉強のストレスにやられている」というのはガチである可能性が高そうだ……。テスト範囲だけ教えてもらい、あとはテキストをもとに受験勉強をしている学生といった感じだろうか。あらかじめ正解を教えてしまうと表情からリアリティーが失われちゃうとか、テレビ的な事情もあるのかもしれない。

テレビ業界にはびこる“タレハラ”の実情

 しかし、これまで彼のキャラクターといえば、「テレビで大豪邸を披露するけれども収入源は謎」であったり、「肉体管理に余念がなく、1日1食、炭水化物を抜いた食事を専属シェフに作らせている」という逸話を持っていたりと、ミステリアスさに包まれ続けてきた。だからこそ“58連勝”もなんだか板についていたわけで。芸能界でここまで“ミスターパーフェクト”な感じが務まる男はGACKTしかいないってほど唯一無二の存在の彼が、実は「クラスで1番の成績を取るために猛勉強しているマジメな生徒」だと知ったらどうだろう。視聴者の見方も変わってしまわないだろうか。

 確かに彼の勉強家(?)な一面は、過去の雑誌のインタビューからも垣間見えていた。

iPhoneには説明書が入ってないだろ? あのときにはやっぱり衝撃を受けたよ。ボクは基本的にドコモフリークだったから、新しい商品が出るたびにドコモの説明書を端から端まで読んでいたんだ。でも今はもう、説明書が不要な時代》(『SPA!』'15年6月16日号)

 新商品とてまるっきり使い方が変わってしまうこともないだろうに、“端から端まで”読んでいるのである。ドコモ側もまさか全部読む客を想定していなかっただろう。GACKTの“知への欲求”がほとばしりすぎている。 

 話は戻る。そんなストイックさでこれまで頑張ってきた彼が『格付け』から「勝って当たり前のプレッシャー」を与えられて、「やめたい、ストレスでしかない」と言っているのだから、素直に辞めさせてあげればいいと思う。『働き方改革』が叫ばれる昨今において、「盆栽の勉強をせざるをえない状況に追い込む」というのはもはやハラスメントの一種なのではないだろうか。高視聴率を叩き出す人気番組だからといってタレントに必要以上の努力を求めすぎてはいないか。

 もし「58連勝」というのがものすごい重圧なのだとしたら、「一度負けさせる」ことでプレッシャーから解放させてあげるという手段もあるかもしれない。かつて『女性自身』に掲載されていた彼の自伝的連載で苦手なものについてこう語っている。

《父親の車は、いつも非常にキツイ香水の匂いがして、車酔いのひどかった僕には拷問のようだった。必ず酔う。酔って気持ちの悪いときに流れてくるのが演歌だった。早く車から降りたい。僕は耳を塞いでそれだけを念じていた。演歌が流れるだけで、条件反射で気持ちが悪くなった。僕は演歌が大嫌いになった》('03年4月15日号)

「細川たかしとのど自慢の一般人、演歌聴き比べチェック」とかいう項目があったら、連勝も止まるんじゃないか。二択を当てちゃうかもしれないけど。

〈皿乃まる美・コラムニスト〉