人気番組に降りかかった“ヤラセ疑惑”とは?(テレビ東京公式HPより)

 他人の家に土足で上がり込む的なドキュメンタリー性、そこで語られる想像を超えた波乱万丈な人生ドラマがウケているバラエティー番組『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系、以下『家』)。おぎやはぎ・矢作兼(やはぎけん)とビビる大木がMCを務める同番組の公式サイトには、《終電を逃した人に、タクシー代を払うので「家、ついて行ってイイですか?」とお願いし家について行く完全素人ガチバラエティー》と掲げられている。

 だが、この《完全素人ガチ》について、たびたび“ある疑惑”が囁かれている。

出演していた“アラフォー独身男性が、別のドキュメンタリー番組で密着されていた”とか“タレント志望の女子大生が、情報番組の街頭インタビューにも出ていた”とか“地方の駅前でたまたま声をかけたシングルマザーが、別のバラエティー番組にも出ていた”など、ネットでもかなりの数が指摘されていますね。終電を逃した人に声をかけたら、たまたま別の番組にも出演経験のある素人で、そんな偶然が何度もあった……、なんてことありますかね?」(テレビ局関係者)

 つまり、番組にふさわしい“面白エピソード”を持っている出演者を、あらかじめ仕込んで撮影しているのでは? というのだ。

取材ディレクターからの“出演依頼”

 こうした“仕込み”――ヤラセについて、『家』のプロデューサーはメディアのインタビューなどで「いっさい、ない」と何度も語っている。

 だが、本紙は実際に「事前に取材ディレクターから出演を依頼された」という人物に話を聞くことができた。東京都内在住の男性・Aさんだ。

 Aさんは当時、タレント活動をしており、芸能プロダクションにも所属。現在は所属事務所を離れ、アルバイト中心で生活している。彼のもとに『家』の制作会社に所属するディレクター男性からオファーが来たのは、'18年の初夏だったという。

知り合いづてに“Aさんを取材したい”という感じで話がきたんです。“エ!? 仕込みあるんだ”ってちょっと驚きましたが、“事務所に連絡を入れてください”と伝えると、事務所を通じて話が来ました」(Aさん、以下同)

 このAさん、一応タレントだったとは言え、残念ながら「売れていなかった」そう。

その年はテレビとイベント営業の仕事が1回ずつあったかなぁ……。自分で言うのもなんですが、完全に無名ですよ(苦笑)。でも、だからこそ僕が出演者として使いやすかったんだろうと思います

 無名のAさんに、なぜ白羽の矢が立ったのか。それには、やはり理由があるようだ。

僕、ドがつく貧乏でして(苦笑)。そのころ頻繁に電気やガスを止められたりしていて。そういった貧乏ネタだったりを人づてに聞いたディレクターさんが“生き方にドラマがある”と。ただ、この時点では“出演できる”という話ではなかったですね。“オンエアされるかは、まだわからない”ということでした

 実際、撮影に臨んだAさん。指定された撮影当日は、終電が出た後の深夜で人もまばらな都内ターミナル駅近くに取材ディレクターと待ち合わせ。そして“偶然”ディレクターに声をかけられて、一緒に自宅アパートへ行くことに。

ディレクターが撮り直しにやってきて──

撮影はかなり細かかった。いつもテレビで見るとおりでした。“部屋、意外と片づいてますね”から始まって、“家族は?”“彼女いるんですか?”とか、僕個人のことも聞かれました。ひととおり撮り終えるのに2~3時間くらいはかかったと思います。それでも“撮れ高は十分ですが、(オンエアは)確定ではないので”と言われました

 そして、何度もこう念を押されたという。

“取材を依頼されたということは、誰にも言わないようにしてください”と。ところが、何日かたってから同じディレクターさんから連絡があったんです

 なんと「もう1度撮影させてほしい」という、まさかのリテイク依頼だった!

“Aさんの話、面白いんですけど、盛りだくさん過ぎたので、もう少し話をトーンダウンしてほしい”と言うんです。モロに仕込みっぽく見えちゃったんでしょうね(苦笑)。仕方ないんで、また家に来てもらって撮り直しましたよ。“オンエア決まったら連絡します”と言って帰って行きました

 だが、いくら待ってもその連絡は来ず。結局、Aさん渾身のVTRは、現在までオンエアされていないという。

『家』は複数のテレビ番組制作会社に所属している取材ディレクターが40~50人ほどいるそうです。これだけ大所帯というのは、最近の番組ではほとんど聞いたことない。それだけ取材に力を入れているということです。取材する駅や取材の方法は各ディレクターに委ねられているそうで、人にもよりますが週2~3日、多い人では週4日も5日も街頭に立って声をかけ続けます。実際に、年間でいうと数千……いや数万人の素人に駅前やイベント会場で本当に声かけしているそうですからね」(構成作家)

 こうしたリアルな取材のハードルは決して低くないという。『家』の取材活動に密着したネットメディアによれば、《7割は空振りで、断られ続けて朝を迎える》という。なんとか自宅同行を許されても、思いどおり“撮れ高”がないこともざらで、同番組に貢献できて活躍しているというディレクターでも1年間のオンエア数は10~20本程度。撮影してきたものがオンエアされて初めてお金になる“歩合制”のディレクターもいるという。裏を返せば、苦労して撮影してきても、放送されなければ1円にもならない可能性がある、ということだ。

ディレクター同士は、仲間というよりも全員がライバル。だから中には“効率よくオンエアを獲りたい”と、よからぬことを考える人間も、やっぱり出てきてしまうんでしょうね……。ただ、ほとんどのスタッフは汗をかいて撮影していると思いますよ。実際に今回の件も、放送はされていないわけですから、オンエアのギリギリで現場スタッフの暴走に気づいた制作上層部がストップをかけたのかもしれません」(前出・構成作家)

 今、ヤラセを含む過剰な演出には視聴者から厳しい視線が注がれている。どんな高視聴率番組でも許されない風潮に。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)は実在しない“奇祭”を捏造したとして企画休止に。ヤラセをした『クレイジージャーニー』と、過剰演出をした『消えた天才』(ともにTBS系)は番組打ち切りに追い込まれた。Aさんの収録VTRは公共の電波に乗っていないとはいえ、これら一連の取材手法について『家』の制作サイドはどう答えるのか?

本番組では、街で偶然出会った方々のお宅を紹介するという点に一番こだわって制作しています。お問い合わせのような取材手法を容認していることはありません」(テレビ東京広報部)

 昨今のテレビ離れは、繰り返される疑惑にうんざりした視聴者たちの声なき声かもしれない。