金子大地 撮影/高梨俊浩

 昨年春に初主演したテレビドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』で、ゲイであることを隠して生きる18歳の高校生の切実な思いを繊細に演じ、強烈な印象を残した金子大地さん。

 その演技で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞 新人賞を受賞するなど、今後が期待される若手俳優だ。

 そんな彼が、俳優・吉田鋼太郎演出のシェークスピア作品『ヘンリー八世』で舞台に初挑戦する。本読み初日では「演劇人の方々のすごさを目の当たりにして、圧倒されました」と緊張していたという金子さんに、初舞台への思いや気になる素顔について聞いた。

吉田鋼太郎との思い出

「初舞台がシェークスピアということで、決まったときは少し不安に思いました。でも、ドラマ『おっさんずラブ』でご一緒させていただいた、尊敬する吉田鋼太郎さんが演出される舞台なので安心感がありますし、なにより出演できることがうれしかった。『劇場版 おっさんずラブ~LOVE or DEAD~』の撮影のとき、鋼太郎さんに食事に連れて行っていただいたんです。

 “大地、これから頑張ろうな!”と言ってくださって、一緒にお酒を飲みました。すごくやさしい方だなと思いました」

 俳優を始めた当初から、舞台には興味を持っていたそうで、

実は初めて見た舞台がシェークスピアの『ハムレット』だったんです。北海道から上京したばかりの18歳のころで、芝居のことは何も知らなかったから、内容はほとんど理解できなかったです(笑)。

 それからいろいろな舞台を見に行くようになって、いつか自分も挑戦してみたいと思っていました。ただ映像と舞台は真逆というか……。今回は、特にシェークスピアなので、より言葉の意味を強調させて台詞を言うことを丁寧にやらないと見てくださる方に伝わらない。

 映像ではよしとされるナチュラルな芝居が、舞台ではまったく通じないと思いました。芝居の技術の必要を感じて、本当に実力が試されるなと思っています」 

悩む作品は嫌いじゃない

 今回挑む『ヘンリー八世』の台本を読んで、現代劇に近い感じがしたという。

「王の周りにいる人たちの人間らしさ、欲望や汚い部分の描かれ方が、現代に通じるところがあって、すごく面白いと思いました。僕が演じるトマス・クランマーは王の腹心で、すごく王に気に入られていて、知性もあって、自分に正直で純粋な人間だと思います。なので僕自身も、自分に正直に純粋に演じたいです」

金子大地 撮影/高梨俊浩

 ヘンリー八世を演じる阿部寛との初共演については、

「とても楽しみです。僕が何をどうやっても、たぶん全部受け止めてくださる大きな方なので、思いきりぶつかっていきます。

 クランマーが王に気に入られているのは、王に対してちゃんと説得力を持って話せているからだと思うので、王との会話を阿部さんとのお芝居のときに、説得力を持って演じられるようにしたいです。

 間違いなく、僕の役者人生で大事な作品になると思います。今までで最大の壁ですが、それに挑戦できることに幸せを感じています」

 '14年に、所属事務所のオーディションを友達と一緒に受けたのがきっかけで芸能界入り。'15年に、ドラマで俳優デビューし、多くのドラマ、映画に出演。昨年は、前出のドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』で、難しい役どころを好演し、高い評価を得た。

「俳優になるとは思ってもいなかったですが、今は芝居がとても面白いです。本当は悩みたくないタイプなのですが、悩むことになる作品や役柄は嫌いではないです(笑)」

プライベートは友だちといるタイプ

 今後、どんな俳優になっていきたいかと尋ねると、

「表舞台に立っているときは、キャーって言われるような華やかな世界かもしれないですが、人としても役者としても、1個1個いろんなことに気づかないといけないと思っています。

 その気づきがお芝居にもつながったりすると思うので。ひとりでいることが多いので、この仕事をするようになって、いろいろな考えだったり気づきだったりをもう何周もしているんです。

 つい1年前は絶対だと思っていたことが違っていたと思うようなことを繰り返しています。それで少しずつ成長できていると思うので、すごく孤独な作業ですが、そういう時間は大事だし、常に持っていたいなと思います

金子大地 撮影/高梨俊浩

 仕事に関してはストイックな金子さんだが、プライベートはかなりの寂しがり屋のようで─。

「普段はひとりが苦手です。誰かといたいと思うタイプなので、ご飯も必ず仲のいい友達に連絡して行きます。友達と会っているときがいちばん楽しいです」

 初対面の人は苦手な人見知り。でも、インタビューではひとつひとつじっくり考えて答えてくれた。

「人見知りするのは実際、最初だけなんですけど(笑)。友達といるときは、ぜんぜん違うと思います」

 性格は頑固なところもあると自己分析し、“これだけは譲れないもの”がいくつかあるという。シャイで一見つかみどころがないが、とてつもない可能性を感じさせる23歳が挑戦する初舞台を、ぜひ見届けたい。


彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾『ヘンリー八世』
英国王ヘンリー八世(阿部寛)の宮殿では、国王の寵愛を受けながら出世のために策略をめぐらす枢機卿ウルジー(吉田鋼太郎)が勢力を強めている。ある晩、王はウルジー邸の晩餐会で王妃に仕える女官アン・ブリンに心奪われ、王妃キャサリンとの結婚を無効にしようと離婚裁判を起こすが……。埼玉公演:2月14日~3月1日@彩の国さいたま芸術劇場大ホール/北九州公演:3月14日~15日@北九州芸術劇場 大ホール/大阪公演:3月19日~22日@梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

かねこ・だいち 1996年9月26日、北海道出身。'15年、俳優デビュー。以降、ドラマ、映画などで活躍。'19年にはドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)で主演を務め、『チート~詐欺師の皆さん、ご注意ください~』(日テレ系)などに出演。W主演した映画『猿楽町で会いましょう』が今秋公開予定。

取材・文/井ノ口裕子 スタイリスト/甲斐修平
ヘアメイク/鶴見俊介 衣装協力/セットアップ(ともにBlank YM)