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「春節(旧正月)が明けたこれからの時期はウイルスの潜伏期間が終わるので、発症する人が増えるかもしれません」(医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広氏)

 中国・湖北省武漢から全世界に広がり続ける新型コロナウイルスによる肺炎。2月1日現在、感染者は全世界で約1万2000人、死者は259人。国内では17人の感染が確認されている。

通勤ラッシュは超危険

「日本全国で大流行すれば何十万、何百万人が感染、高齢者ら数万人が亡くなる可能性もある。特に妊婦は免疫が落ちるので感染リスクが高い。重体化すると、胎児の発育障害や先天異常、胎児死亡、ということも十分考えられます」(前出・上氏)

 特に通勤・通学の満員電車は感染しやすい、と上氏。それはラッシュで出勤する働くお母さん、ワーキング・ママたちもその脅威にさらされているということだ。

「身動きのとれない状態で前の人の咳(せき)が直接かかってしまう、なんてことも。親から家族に広がることはある」

 毎日、満員電車に揺られ仕事に行き、帰ったら家事もこなし、体調が悪くてもなかなか休めないお母さんたちが逆に危険をばらまいてしまうかもしれない。

「具合の悪い人は仕事を休むことも大切です」(同)

 参議院議員(公明党)で医師の秋野公造氏は2009年、羽田空港の検疫所支所長だった当時、世界的に流行した新型インフルエンザ感染者の検査や調査を行っていた。

「職員やその家族にうつらないようにと毎日祈っていましたが、私自身も感染しました」

 感染理由は不明だがウイルスに近いところにいたことも一因だと秋野氏は推測する。

 療養中の自宅には4歳の長女と2歳の長男、そして生後間もない次女がいた。

「子どもたちにうつらないよう祈る思いでした。妻は元気でしたが保菌しており、発症しないまま、私の看護や子どもたちの世話をしていました」

 秋野氏はインフルエンザ治療薬が効き、数日で回復。

「ようやく次女を抱いたときは本当にうれしかった」

 幸い家族への二次感染はなかった。しかし、今回のウイルスも人から人へと感染し、感染力が強いといわれている。前出・ワーママの例と同じく感染している家族の看護や介護をした家族も二次感染するリスクは高いのだ。

 世界保健機関(WHO)は1人の感染者から1・4人~2・5人にうつすのではないかと推測。感染者は発症前の無症状段階からウイルスをまき続けるため、知らぬ間に誰かを感染させることもあるそう。

感染リスクが高いシチュエーションは?

 週末の繁華街や終電近い電車内に広がる、酔っ払いの嘔吐(おうと)物や痰(たん)、唾(つば)。こっちまで気分が悪くなるような光景を目にするのはよくあることだ。衛生的にも大問題だが、もしそれが無症状の感染者が吐いたものだったら──。

 新型コロナには、感染者の咳やくしゃみなどで飛んだ唾液や鼻水に含まれたウイルスを吸い込む「飛沫感染」

 吐き出された飛沫がついたものを触り、それが手や鼻、目などについて体内に入る「接触感染」がある

「週末は飲み会で外を出歩いている人も多いですし、なによりウイルスの混ざった可能性のある嘔吐物は危険です」

 と指摘するのは前出・上氏。また、公衆トイレでも、

「トイレの床に吐いた唾や唾液がまだ乾いていなかったらリスクがある」(前出・同)

 週末に開催されるコンサートやライブイベントも気をつけたいところだという。感染症が専門の「KARADA内科クリニック」の佐藤昭裕院長は、

「かなり人が密集するのでリスクは高いと思います。高齢者の方、持病のある人はやめたほうがいい」

 これからの桜の季節、お花見にも危険が潜む。

「お花見など宴会ではマスクをしていられない。咳やくしゃみをしなくても、会話中に1メートルくらいはしぶきが飛ぶので、それで感染する可能性はあります。回し飲みや1度口に入れた箸で大皿の食べ物をとるのも危ない。とり分ける箸と食べる箸を分けることは必要な対策ですね」

 どこからウイルスが侵入するかわからない状況。飲みすぎてる場合じゃない。

 ネット上のフリマサイトやオークションでは、この事態に便乗した転売目的のマスクやアルコール消毒液が大量に出回っている。違法ではないの?

 ネット問題に詳しいネクサス経営法律事務所の山室裕幸弁護士に説明してもらった。

「マスクは高額で転売したとしても違法ではありません。ただし、各サイトの利用規約の違反に当たる可能性はある」

 特にフリマアプリ内で購入し、さらに転売して利益を得ようという悪質な行為はアカウント停止などの措置がとられる場合もある。

 さらに山室弁護士は、

「サイトでマスクを買ったのに商品が届かないことがあるかもしれない。これは詐欺に当たる可能性があるので警察や弁護士に相談してほしい」

 と注意を呼びかけた。

フリマアプリで転売されるマスクも。6万円の価格がついている

 もうすぐ春休み。テーマパークで気をつけたいのはドアノブや手すりなどへの接触だ。

「アトラクションを待つ間、咳やくしゃみをした感染者が飛沫のついた手で手すりを触って、別の人がそれを触る。その後、目をかいたり、口を触ると感染する可能性はある」(前出・佐藤医師)

 また、海外旅行ではトイレも少なく日本のようにこまめな手洗いができないことも想定できる。自動の蛇口やエアタオルなどが設置されているところは少なく、接触感染もありうること。医療サービス会社「インターナショナルSOSジャパン」の葵佳宏医師は、渡航先での感染予防に、

「持ち運びサイズのアルコール成分の入った使い捨てシートやジェルを持参し、トイレの後や食事の前、気になったときに手をふくのが大切」

東京五輪の開催は大丈夫?

 終息のめどは見えない。もし夏場までウイルスが残ったら……。半年を切った、東京オリンピックはどうなるのか気になるところ。

「今後、死亡率がすごく高くなるなど、ウイルスが変異して危険性が高まった場合、中止も選択肢になると思います」(前出・佐藤医師)

 選手や観客が潜伏期間に来日する可能性もある。

「入院や症状があれば経過観察の措置をとる必要があるかもしれない。もちろん出場はできません。こればかりはやむをえない」(前出・秋野氏)

 鍛え抜かれたアスリートたちは新型ウイルスの猛攻に勝つことができるのだろうか。

「感染者が逃走した」「〇〇を食べれば感染しない」など、世界中で真偽不明な情報が飛び交う。東京大学の関谷直也准教授(社会情報学)は、

「“生物兵器”や陰謀なんて話もありますが、それは明らかに間違いだとわかります。“〇〇が効く”も、最初はネタとして投稿されたものだったりする。新型ウイルスの場合、未知の部分も多く、情報の正誤の判断は難しい」

 と説明する。その背景には、「不安と情報不足で、正しい情報と感じないからより多くの情報を求めないと欲求を満たせないので情報をとりにいく」という心理が働くという。

 非常時だからこそ、情報の吟味が求められている。

中国では自家製マスクをかぶった人の写真が注目されている。女性は空のペットボトルを頭に(Twitterより)。男性は柑橘類の果物の皮を代用してマスクにしていた(微博より)

新型コロナより危険な感染症が身近に!?

「“殺人ウイルス”なんてことはないと思いますよ」

 と新型コロナウイルスについて話すのは前出・上氏。防衛医科大学校防衛医学研究センターの加來(かく)浩器教授も、

「人類にとって初めて見つかった感染症なので注意すべきだが、状況は冷静に判断しなければいけない」

 と呼びかける。

 今回のウイルスよりも怖い感染症は身近にあるという。

「風疹やはしかです。免疫がなければ感染し、100%発症します。これまで予防接種の必要を訴えてきてもあまり関心を持たれないのですが反面、今回は関心の高さがすごい。どこかアンバランスさを感じます」(前出・加來教授)

 予防には手洗いやアルコール消毒、そしてマスクが効果的とされるが、前出・葵医師はマスクに関しては「過信しすぎは危険」と注意を促す。

「つけたから感染しない、というわけではない。マスクは感染を広げないためにつけます。ただ、正しいつけ方をしなければ意味をなさない」

 マスクのサイズが合っていない、肌との間があいている、何度もはずしてポケットに入れるなどは隙間から飛沫感染したり、マスクに付着したウイルスが別の場所につき接触感染につながるおそれも。

 しかし前出・加來教授は今年ある変化に気づいたという。

「例年よりインフルエンザの罹患(りかん)者が少ない。新型肺炎の予防と同時にインフルエンザも防いでいるんです」

 しばらく続くとみられる新型ウイルスへの恐怖は、予防という積み重ねでしか対抗できないのかもしれない。

第1便のチャーター機で武漢から帰国した日本人男性らの会見。周囲を取り囲む報道陣たちもマスク姿だった(1月29日)
春節でにぎわうはずの街もゴーストタウンのように静まり返っていた(エンさん提供)

《現地レポート》武漢在住ライターが悲鳴
「マスクは残りわずか、足りません」

「新型肺炎が終息したら、まずは親戚や家族で集まりたいです。新春のお祝いはすべて取りやめたし、親戚とも集まりませんでした。春節がちゃんとできていないので、きちんとやりたいですね。みんなで一緒にレストランに行って食事がしたいかな

 と話すのは武漢市に住む中国人ITライターのエンさん(26)。両親と3人暮らし、市内には親戚もたくさん住んでいるという。

 1年でいちばんにぎやかなはずの春節を襲った新型肺炎。感染を防ぐため団体で集まったり、パーティーのような集会の開催は禁止されている。街からは人の姿が消え閑散としている。

 一方で、駅や空港には人が集まり、病院は満員。待ち時間が長すぎて口論になっているケースもあるそうだ。

「病院は人でいっぱいです。ただ、冬はもともと呼吸器疾患の発症が高い時季なので、普通の風邪やインフルエンザの患者も多いそうです。普通の風邪で発熱しているのに、診察される前まで“新型肺炎だ!”と思い込んでいて、病院内で不安がっている患者も多いと聞きます。病人が多く集まる病院は、感染の危険が高いと思います

 市民は人がいなくなった街でマスクを買い求めるための長い列をつくる。

マスクは今は全然買えません。うちでは以前、風邪の際に買ったものを使用しています。残っているのは9枚くらいで、全然足りません。できるだけ外へ出ないようにしています」

 人がいない理由は新型肺炎だけではない。

「武漢は大都市なので地方から来ている人も多く、春節の直前から多くの人が故郷に帰っています。ですからウイルスのせいで武漢から逃げているのではありません」

 同市の人口約1100万人のうち約半分は市外出身。帰省者も多く、数少ない残留者はもとから武漢に住んでいた人々だ。

「封鎖情報が出る前に、自主的に離れた人は多かったと思います。空港や駅、各道路まで政府が全部管理していますから現在は、一切出ることはできません」

 完全封鎖されている武漢だが、孤立無援というわけではない。交通統制以外、生活物資や医療物資の不足はないそう。

「商店とスーパーは閉店時間が多少早まりましたが、いつもどおり営業しています。大手の配送業者やショッピングサイトも稼働しています。屋台はすべて休業していますが、大手ケータリングサービスもいつもどおり営業しています」

 と、いたって普段どおりの様子を明かす。しかし、

「今回の騒動がどれだけ続くのかとても不安です。すでに仕事にも生活にも大いに影響が出ています。それにずっと家にいなくてはならないので、緊張感と退屈がつらいです」

※記事のタイトルを一部修正して更新しました(2020年2月4日16時15分)

街には全身を防護服で覆った人の姿も見られた(エンさん提供)