震度6強や震度7の揺れは想像以上。直下型に海溝型と異なる揺れ方も体感できる(体験は満3歳以上) 撮影/渡邉智裕

 昨年、千葉県に甚大な被害をもたらした大型台風。そして日本列島を揺るがしてきた数々の大地震。もはや他人事ではなく、ある日突然、誰もが被災者になりうるのだ。明日に起きるかもしれない大災害に備えるべく、週刊女性記者が「本所防災館」で身体を張って各種災害を擬似体験してきた!

避難したい時には避難できない状況に

「こ、これは無理、無理。……ヤバい、ヤバい」

 レインコート&長靴で全身を覆ってはいるものの、激しい雨と風に打ちつけられてずぶぬれになる記者たち。そして、念仏のように出てくる諦観の言葉。それもそのはず、体験したのは“非常に激しい雨”に相当する、降水量1時間50ミリの大雨と、風速30mの“猛烈な風”!

 目の前の手すりにつかまっていないと、大人ですら立っていられない。マスク越しに口をあけて息をするのもままならない。防水装備もむなしく、わずかな隙間から雨が侵入してきて、首元や手首、足元が冷たくなっていく。

「昨年、千葉県を襲った台風15号の最大瞬間風速は57・5mで、1時間で約110ミリ降った場所もあるほどです。

 今、体験した50ミリの大雨と風速30mの風が吹き荒れている状況で、(5段階中の)警戒レベル4の“避難勧告”が発令される場合があります。はたして、この状況で外に出て避難できますか?」

前から上から襲ってくる、雨量50mm/h、風速30m/sの暴風雨になす術もなく(小学生の体験は雨量30mm/h、風速10m/sに設定) 撮影/渡邉智裕

 暴風雨よろしく雷に打たれたような、インストラクター・中島孝さんの衝撃の話。いかに千葉が恐ろしい状況下にあったか、そして身を守るための、正しい準備と知識を身につけておくことの大切さを痛感。

 避難勧告が出てからでは「避難は遅く、難しい……」と理解できました。

たった30cm、それでも開かない車のドア

 ここ墨田区にある『東京消防庁本所防災館』は、体験を通じて防災の知識と備えを学べるとあって、都外や海外からも多くの人が訪れる。池袋、立川にも東京消防庁直轄の防災館があるが、本所防災館は都内で唯一、冒頭の「暴風雨体験」や「都市型水害体験」ができる。

「東京都の下水処理能力は1時間に50ミリ以下の雨量を想定しています。それを超えると、地下で受け止めることができず地上にあふれ出し、都市型水害と呼ばれる都市特有の災害を引き起こします」(中島さん)

 例えば、新宿区を1時間100ミリの集中豪雨が襲った場合、その雨量は学校にあるプールの約5000杯分に相当する。うち半分が地上にあふれ、アンダーパス(地下道)などにたまり、冠水。車の走行、地下鉄の運行に多大な影響を与えてしまう。

水圧を擬似体験できるドアの重さは、まるで力士との稽古。たった30cmの水位なのに開かない! 撮影/渡邉智裕

 その「都市型水害体験」では、冠水時の地下の非常ドア、自動車が浸水して水圧がかかっているドアの開放にチャレンジ。それぞれ10cm、20cm、30cmという具合に、異なる水の高さを想定した擬似体験ができるのだが、水圧がすさまじくて開かない!

 特に、30cmの水圧の負荷は、「力士と稽古しているのかな?」と錯覚するほどにドアがビクともしない。

 重さにすると36kgほどの負荷だというが、荷物を抱え上げる感覚とはまるで別物。

 同様に乗車時ともなれば、狭い座席で動きもとれずどうにもならない。押しながら「窓ガラスを割る緊急用ハンマーを常備しよう」と悟ること必至だ。

 また、冠水時は足元が見えないため「傘を杖がわりにして障害物を確かめながら歩く」など、“もしも”のときに役立つ実用知識もたくさん授けてくれる。

「各自治体が発行しているハザードマップを参考に、避難場所や危険区域を事前確認しておくと水害への備えになります」(中島さん)

 起きてから探しては遅い。いま1度、自分が住む地域の自治体のHPをチェックしておいたほうがいいだろう。

“おもしろそう”から芽生える防災意識

 そして「地震体験」では、油圧駆動による起振装置によって阪神・淡路大震災(震度6強)、東日本大震災(震度7)級の揺れが再現される。

「ドーン!」という地鳴りが聞こえるや、身動きすることもできずにひたすらテーブルの下で縮こまるしかない。空間全体が縦横にシェイクされる激しい揺れは、恐怖のひと言。

 あらためて「家具は倒れるもの」と認識し、揺られながら「家具転倒防止用品を用意しよう」と再び悟ってしまう。

ゲーム感覚でトライできる消火活動。普段、触れることのない消火器の使い方を学べる 撮影/渡邉智裕

 備えるのは災害ばかりではない。“自分が助かる”だけではなく、“人を助ける”ことを学ぶ「応急手当体験」コーナーで、うろ覚えの知識を再確認する。

 心臓マッサージをしてみると意外に体力を使うことがわかり、「1人ではなく複数人で交代しながらマッサージしたほうがいい」というアドバイスにも大納得。

 さらにAEDの取り扱い方法もレクチャーしてくれるので、いざというときの大きな自信につながる。

 誰もが人命救助ができれば、災害、事故発生時において、私たちの生存確率がグッと高くなるわけだから、ぜひ身につけよう!

「防災館は、誰でも気軽に楽しみながら防災について学べます。“おもしろそう”が入り口になって、防災意識が芽生えてくれたら」と防災館のあり方を話す、今村均館長。

「アトラクション要素があることで家族やカップルの方も多く訪れます。みなさん、帰るときには“自分の家は大丈夫か”“災害時にどうすればいいか”など、防災に対する理解や認識が確実に高まっているので、われわれとしてもうれしいかぎり」(今村館長)

 体験して学び、知識をつけて経験にすることで万が一のとき、いや、明日起きるかもしれない大災害にもパニックにならずに、自分がこれから何をすべきか冷静に対処できるはず。“備えあれば憂いなし”、その言葉の真意を噛みしめる防災館でした。


東京消防庁 本所防災館
東京都墨田区横川4-6-6
開館時間 9:00~17:00(入館受付は16:30まで)
休館日 水曜日・第3木曜日(国民の祝日に当たる場合は翌日になります)
年末年始(12月29日~1月3日)
入館料 無料

取材・文/我妻弘崇