夫に愛想は尽きたが離婚後の生活費はどうするか。離婚すべきか否か、何を基準に決めたらいいのか

「離婚したいけど、お金が心配で……」

 離婚についてのコンサルティングにやってくる女性のほとんどの方はそう言います。現代の家族の家計は、夫婦共働きのモデルが多く、そして夫の収入比率が高いのが特徴です。

 また、案外多いのは社長夫人の離婚相談です。今は安定的な収入はあるものの、それは夫の会社からの支給。離婚すれば、専業主婦の妻は失業。夫との別れがお金との切れ目にもなるダブルパンチなので、「どうしたらいいかわからない」という社長夫人のご相談者は、数あるカウンセラーの中から、元社長夫人だった筆者を選び、問い合わせをしてくるようです。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 ただ、夫婦にはそれぞれの収支スタイルがあるので、「一般的に、離婚時にはいくら必要か?」といった計算や考え方はナンセンスだと思います。また、個人的環境や背景も人それぞれ。家族のスタイルのモデルケースがない時代ですから、「自分はどうなのか」ということを認識しないといけません。その認識がないまま、「お金は大丈夫か」「頑張ればやっていけるか」などと、悩み続けるのもタブーです。

 では、どうしたらいいでしょうか。今回は、夫に収入を頼っている妻が離婚するかどうかを決められないとき、迷いを断ち切るための判断基準を具体的に紹介します。

離婚は「生活の現状」を踏まえてから考えるべき

 迷いを断ち切るには、まず、「現状」を明確にすることが大切です。例えば、同じ50歳の女性の場合でも、晩婚化・高齢出産が増えている現在では、育てている子供の年齢が大きく異なることがあります。筆者の友人でも、54歳で30歳の子供と10歳になる孫がいる人もいれば、まだ子供が小学校4年生の人もいます。この2人を比べた場合、明らかに「離婚時にいくら必要なのか?」の基準は大きく変わるでしょう。

 日々、ご相談を受けている中で感じることは、「ひとくくりにはできないなあ」ということ。「離婚後のお金が心配」という点は一緒ですが、現状は人それぞれ。まずは、自分の現状や考えについて明確にしてみてください。

 では、具体的な判断基準を示します。次の20項目について明確にしてください。それぞれ、費用についても考えて(見積もって)みます。しっかり向き合ってみましょう。

(1)子供はいる? いない?(教育費はいくら?)
(2) 離婚後、子供の将来はどうしてあげたい?(子供費)
(3) 離婚後、住む家はある? ない? どこに住みたい?(住居費)
(4) ペットの有無は?(飼育費、住居費の加算)
(5) 食材へのこだわりはどの程度?(食費)
(6) 日常生活へのこだわりは?(生活雑費)
(7) 外食は多い?(外食費)
(8) 健康状態は?(医療費)
(9) 健康維持や体形維持のために何かしている?(健康促進費)
(10) 美容にはどれくらいのエネルギーを使っている?(美容費)
(11) ファッションはどんなものが好き? どれくらいの頻度で購入する?(被服費)
(12)習い事はしている? これからしたい?(趣味・教養費)
(13)女子会やランチ会で忙しい?(プライベート交際費)
(14) 友達・親戚は多い?(パブリック交際費)
(15)向上心は高い? 資格とか取得したい?(MY教育費)
(16) お出かけ好き? 割と遠出する?(交通費)
(17)ストレス発散でお金を使うタイプ?(人生防衛費)
(18) 旅行は好き? 行きたい場所はある?(レジャー費)
(19)親兄弟に支援が必要?(援助費)
(20) そのほかに譲れない支出はある?(その他費用)

92歳まで生きる前提で「ライフデザイン」してみる

 この20項目を明確化することは、「ライフデザイン」を描くことにほかなりません。離婚した場合を想定し、できるだけ長期にわたっての人生のデザインを描いてみてください。何歳まで描けばいいのか? 女性の場合92歳までをオススメしています。女性がいちばん多く亡くなるのが92歳だからです。

 それでもまだ迷いが残り決断できない場合は、ファイナンシャルプランナーに相談をすることをオススメします。そこで「ライフプランニング」(LP)をしてもらうといいでしょう。LPから、一生涯のキャッシュフローを見通すことにもつながります。

 例えば、いま親子3人、ぜいたくでこだわりのある食生活をしているAさんが離婚した場合、その食費はどうなるでしょう。夫がいなくなって親子2人になっても、食費が3分の2に減ったりしないと思います。もしかしたら、支出が増えるかもしれません。Aさんはシングルマザーになり、疲れて夕飯を作る回数が減り、デパ地下でお総菜を購入したり、外食が増えたりする場合もあるでしょう。

 また、現実的な話として、離婚後は「飲み会」(プライベート交際費)が増えます。気を使わなければいけない夫がいなくなると、途端に妻は羽目を外す機会が増えるようです。「離婚の報告」をするために人に会う機会も増えてしまい、支出は離婚前に考えていた以上に増えるものです。

 人によっては趣味に費やす時間が増えたり、そのアフターでお茶会をしたり、また人生をやり直すために資格を取得したり、離婚前には想定しなかった支出が次々に発生します。人間は弱い生き物ですから「嫌いな夫と別れられたら、それだけで幸せ」とはいかず、「心身の癒やし費用」が自然と増えます。ちなみに私はそれを「人生防衛費」と呼んでいますが、家族がいたほうが「人生防衛費」は低くて済む傾向にあると思います。

 私は業務上、夫婦問題カウンセラーとファイナンシャルプランナーの二刀流で活動をしていますから、離婚するか否か決断できない人に対して、まずは心の問題に向き合います。そこで答えが出ない人には前出のLPをオススメしているのです。そうすると、一生涯のお金の流れが客観的に見えてきて、「資産寿命」もわかってきます。離婚後、自分の資産がどれくらいの年数で空っぽになるかが判明するのです。

 LP診断まで受けると、離婚で悩んできた女性のほぼ100%の方が迷いの渦から抜け出していきます。そのうち、70%くらいの方は気持ちが変わります。「やっぱり、離婚はやめよう」と。離婚後の生活がかなり厳しいということを突きつけられるからです。

ライフプランニングは「離婚のリトマス試験紙」

 離婚自体を白紙に戻して、考え直す人もいます。あるいは「慰謝料も養育費もいらない」「算定表どおりあればいい」「もう顔も見たくないから話し合いたくない」という考えだった人が、「子供の教育費は別途協力してもらいたい」とか「話しても無駄だと思っていたけど、きちんと話し合いをしたい」などと、考えのベクトルが変わることも少なくありません。

 離婚を決断した場合も、「公正証書を交わしたい」「優秀な弁護士を紹介してほしい」というように、LP診断まで受けた女性は「しっかりとしたけじめ」を望まれる傾向が強いです。LPを何パターンかつくり、キャッシュフローが改善されるまで離婚を先送りし、資産形成をする人もいます。筆者は、LPは「離婚のリトマス試験紙」だと思うのです。

 アメリカでは、ファイナンシャルプランナーに相談する文化が定着しており、離婚・結婚・不動産購入・リフォーム・転職・旅行などの節目で相談するのが当たり前の州もあるようです。人生100年時代、離婚後の人生は長いですよ。焦らず、しっかり計画的に「Happy divorce」(幸せな離婚)をしてください。


寺門 美和子(てらかど みわこ)FP、夫婦問題カウンセラー
大手流通業界系のファッションビジネス経験後、夫の仕事(整体)を手伝い主にマネジメントを担当するが、離婚。「人生のやり直し」を決意、自らの経験を生かした夫婦問題カウンセラー資格取得を目指す中でFPの仕事と出合い、ダブルで資格を取得。顧客には「からだと心とおカネの幸せは三つ巴」とつねに語る。独立系のFP集団「確定拠出年金相談ねっと」認定FP、岡野あつこ師事®上級プロ夫婦問題カウンセラー/電話相談「ボイスマルシェ」専門カウンセラーなどで活躍中。