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 中国では死者2000人、感染者7万5000人を上回り、日本でも新たな死者が。増え続けるウイルスの脅威に、SNSなどで怪情報があふれている。それらのウソ、ホントは──。

流布する「情報」の真偽を専門家がチェック

トイレットペーパーはマスク代わりになる

 感染が広がるアジアでマスクが不足する中、シンガポールや香港ではトイレットペーパーの買い占め騒動が起きた。

《トイレットペーパーとマスクは原材料が同じ》

 とする情報が流れ、マスクの代用品にしようと客が殺到したとみられている。

 感染症が専門の東京・品川区にある『KARADA内科クリニック』の佐藤昭裕院長は「トイレットペーパーとマスクで素材の違いはあります」としたうえで次のように話す。

「ウイルスはマスクの目よりも小さいので通ってしまいます。その点では健康な人がつけても効果はありませんが、感染者がつければ、くしゃみや咳による唾液の飛沫を防ぐ効果はある。必ずしもマスクじゃなくてもいいわけで、トイレットペーパーでも、タオルでも、口元をしっかり押さえられればいいんです」

 素材は違うものの、工夫すれば代わりになりうる。

漂白剤を飲めば治る

「漂白剤は次亜塩素酸ナトリウムといって医学的には強い消毒剤です。命にかかわりますから決して飲んではいけません」と前出の佐藤院長。

 ノロウイルスが流行したころ、漂白剤で机やトイレなどをふいて殺菌したことがデマの背景ではないかという。

「そもそも、飲むものではありません。ウイルスは粘膜から肺に侵入しますが、仮に漂白剤を飲んだとして食道には入るけれども、肺には入りませんから」(同院長)

 信じていたら大変なことになるデマだった。

本当の致死率は15%

 別種のコロナウイルスが原因で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)と比べると、感染力は強くても致死率は低かったはず……。

 前出の佐藤院長は、

「まったくのウソ。WHO(世界保健機関)の発表によると、致死率は2%程度です。これから検査を受ける人が増えて分母が大きくなり、もっと下がるでしょう。一般的なインフルエンザの致死率0・03%に近づく数値になるのではないか」と見込む。

 得体の知れぬ怖さが数字を押し上げたのかもしれない。

中国の生物兵器が感染源

 当初からネットで囁(ささや)かれてきた陰謀論。中国情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は、「兵器を流出させるような甘いことはしない国」と否定する。

 ネット情報に詳しいジャーナリストの渋井哲也さんは、「東日本大震災で千葉の工場火災をめぐるデマが流れたり、熊本地震ではライオンが逃げたとする画像が出回った。危機的状況のときは情報を欲するあまり、それが善意・悪意からを問わずデマが拡散しやすいので注意してほしいです」

 と呼びかける。

突然倒れて吐血することもある

「これまでに吐血の報告はありません。咳が出て、ひどいと37・5度以上の熱が1週間以上続き、意識がなくなるといったところ」

 と前出の佐藤院長。

 アフリカで発生したエボラ出血熱の症状と混同した誤情報の可能性がある。怖がらせる目的で流したのであれば、不謹慎きわまりない。

「エボラ出血熱はひどいと喀血(かっけつ)します。喀血とは、肺から血が出ること。吐血は胃から血が出ることなので異なります」(佐藤院長)

温度スキャナーで感染者はわかる

「サーモグラフィーでは熱がある部分は赤く映るので、熱を持っている人はわかります。しかし、感染した人がわかるわけではないですよ」

 と前出の佐藤院長。

 運動直後やカイロを貼っているケースなど、感染者と区別するのは難しいだろう。

 風邪やインフルエンザの可能性もあるので、さらなる検査が必要だ。

中国発表の感染・死者数は本当か

 前出の富坂教授は「故意に過少発表しているとは考えにくい」と指摘する。

「問題は診察が追いついていないこと。受診前に感染して亡くなった人もいるのではないか。中国では近くに病院がなかったり、仕事を休めず重症化したり、闇販売の期限切れの薬で治そうとする人もいるので実際はもっと多いだろう」。格差社会の問題か。

子どもの尿を飲めば予防できる

 中国で広まったようだが、前出の佐藤院長は「ありえない」と断言する。

「尿は体内で不用になったものを排出しているだけ。免疫力を上げることはありません。以前、朝一番に出た尿を飲めば健康になるというような健康法が流布されましたが、医学的根拠はありません」

 民間療法などにも注意が必要だ。

アルコール、塩素を身体に吹きかけて殺菌できる

 アルコールには殺菌効果がある。しかし……。

「手によくもみ込んで初めて効果があるもの。吹きかけるだけではほとんど効果は期待できません。また、塩素(次亜塩素酸)を人体に吹きかけることは健康上の問題があります」(前出の佐藤院長)

 塩素をバケツに入れ、コップや食器などを洗う用途ならば効果があるそうだ。

うがい薬を使えば予防になる

 水道水でうがいをするよりは効果がありそうだけれども。

「うがい、マスク、手洗いが感染防止の3点セットと言われますが、私は手洗い、マスク、睡眠の順に効果があって、その下がうがいだと思っています」と前出・佐藤院長。

 一部のデータでは、うがい薬よりも水道水に効果ありとする報告も出ているという。

ニンニクを食べると予防になる

「いわゆる“ニンニク注射”は、エキスのビタミンB1を抽出したアリナミンを注射するもの。疲労が蓄積される乳酸に効果があって、疲労回復につながる。しかし、直接的な予防効果まではどうか」

 と前出の佐藤院長。

 疲労回復による免疫力アップが期待できるぐらいという。

花粉症と併発することがある

 市場からマスクが消えて困っている筆頭格は花粉症患者だろう。花粉症と感染がかぶることもありうるという。

「花粉症はダルさ、目のかゆみ、くしゃみが特徴です。これに熱が出てきたり、咳が出たら、新型コロナの可能性が出てきます。花粉症の人は粘膜が弱いというか、敏感な体質ですから注意してください」(前出の佐藤院長)

中国で体温測定を拒むと拘束される

「もう法規制していますし、それは確実にやられますよ」

 と前出の富坂教授は言う。

 上海に住む外国人がマスクをせず外出し、体温測定を拒否して身柄拘束されたとのニュースが流れたのは2月17日のこと。そこまで強引に自由を奪うことにためらいはないのだろうか。

「やると決めたら、やる国なので外国人だろうと容赦はありません」(富坂教授)

 厳戒ムードが続く。

ごま油を身体に塗ると予防できる

 業界団体の日本植物油協会に質問すると、「感染防止の効能は聞いたことがないですね」(担当者)とのこと。

「ごま油はセサミノールという抗酸化物質を含み、身体にいいとされています。インドでは身体に塗ることもありますが、対ウイルスの効果はこれまで1件も報告がありません」(同)

 飛躍しすぎのようだ。

食塩水で鼻の中を洗うと予防になる

 想像するだけで鼻の奥がむずがゆくなる。

 前出の佐藤院長は、

「子どもが風邪をひいた場合、効果があるといわれています。特に鼻風邪には効くようです」としたうえで成人や高齢者には注意をうながす。

「高齢者の場合は生理食塩水が気管に入って、肺炎を起こすケースがよくある。誤嚥性肺炎といいます。子どもは○、大人は△、高齢者は×というところですかね」(同)

バナナを食べると感染する

「新型コロナウイルスはまだわかっていないことが多いため、バナナを食べて100%感染しないとは言い切れません。しかし、通常の風邪やインフルエンザを参考にすると、バナナ感染は考えにくい」

 と前出の佐藤院長。

 なぜバナナが出てきたのか理解できないといい、「むしろ栄養バランスがよく腹持ちする食べ物」(同)と評価する。

 日本バナナ輸入組合は、

「バナナには酵素の消化、整腸、抗酸化、脂肪燃焼、代謝促進の働きがあり、免疫力維持の一助になります。根拠のないデマなので、安心して食べてください」(広報担当)

 と逆アピール。

 今までどおり食べて問題なさそうだ。

東京五輪は中止になる

 IOCは予定どおり東京で開催する考え。しかし、ロンドン市長候補は「かわりにロンドンでもできる」と発言するなど先が読めない。

 スポーツジャーナリストの玉木正之さんは、感染の終息宣言を見据えて「私は3か月の延期を提唱する」と話す。

「10月末ならばマラソンも東京でできる。強行して一部の国や選手が参加できなかったり、無観客試合になれば、平和の追求という五輪の精神に反することになります」

ペットは感染を媒介する

 厚労省はホームページのQ&Aで、「ペットからは感染しません」と明記している。

 ただし、ほかにも動物を媒介する感染症はあるとし、「普段から動物に接触した後は手洗いなどを行うようにしてください」と付け加えているので注意は必要。

肺炎のワクチンで予防できる

「肺炎のワクチンでは予防できないと思っています」と前出の佐藤院長。いまだ解明されていない部分が多く、結論づけるのは難しいという。

「世界中で研究・開発中ですが今年中にワクチンをつくるのは無理。過去の例ではおおよそ1年半かかってます」(同)

 待つしかない。