右が炭治郎、左が妹の禰豆子(『鬼滅の刃』1巻より)

『鬼滅の刃』が社会現象になっている。'19年の年間売り上げは、累計販売部数が4億6000万部を誇る『ワンピース』を超えるという偉業を成し遂げた。

「関連商品も大ヒット中で、コンビニで販売されたコラボグッズには行列ができたほどです。2・5次元舞台も上演され、客席の多くは女性で埋まりました。『鬼滅』は少年漫画ですが、非常に女性ファンが多いことも特徴のひとつ。また若年層だけでなく30代、40代の大人の女性ファンも多く、舞台もそのくらいの層が多く見られましたね」(漫画誌編集者)

結婚相手にしたいほどの魅力

 漫画家の吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)による『鬼滅』の舞台は大正時代。炭売りの少年・竈門炭治郎(かまどたんじろう)は家族を鬼に惨殺され、妹の禰豆子(ねずこ)は一命を取り留めたが鬼にさせられてしまう。妹を人間に戻すために“鬼狩り”の旅に出るというストーリー。

「60代の女性が『鬼滅』にハマっているという話を聞きました」

 そう話すのはマンガソムリエの兎来栄寿(とらいえいす)さん。強い敵を倒すために修行し、強くなるという従来の少年漫画の王道に加えた魅力がある。兎来さんは、「『ワンピース』や『ドラゴンボール』などにピンとこなかった人でも、『鬼滅』ならもしかしたらハマるかもしれません」と言う。

「主人公の炭治郎は家族思い・仲間思いで、歴代のジャンプ漫画でいちばん優しい主人公と言ってもいいくらい。女性視点でいえば、結婚するならこういう男性としたいと思わせる魅力があると思います。妹の禰豆子のように守られたいみたいな。あと料理が得意であったり家庭的な部分もあり、令和の時代に求められている男子像かなと思いますね。悟空とかルフィと結婚したら正直、苦労すると思いますからね(笑)」(兎来さん)

 少年漫画の敵は憎たらしいほどの“悪”であることが多い。しかし、『鬼滅』は、敵である鬼にも魅力がある。

「敵の鬼もみんなもともとは人間で、戦った後に、その鬼の人間時代の悲しい過去が描かれる。戦っているときはすごく憎たらしい鬼でも、大切な人が殺されていたり……。鬼の中にも人間としての葛藤があり、また悲しい過去があることで、グッと物語に深みが出ていると思います」(兎来さん)

ヒットはアニメが起爆剤

 実際に、こんなシーンがある。

 炭治郎の兄弟子や先輩を何人も殺した鬼がいた。彼は鬼になったことで、いつも手を引いてくれていた仲のよい兄を食い殺してしまった過去を持っていた。鬼になり記憶をなくし、“兄”という概念すら忘れてしまっている。そんな鬼を倒した後、炭治郎は、

「神様どうか、この人が今度生まれてくるときは、鬼になんてなりませんように」

 兄と同じように、手を握って、このように語りかけるのだ。

『鬼滅』のコミックスは、発売当初から右肩上がりに部数を伸ばしていたが、あるときを境に、さらにその伸びを加速させている。

「去年の4月にアニメが始まった段階では、350万部程度でした。その後、4月に500万部、7月に800万部、9月に1200万部と、何倍にも増えていった。『鬼滅』のヒットは、アニメが起爆剤になっていることは間違いないと思います」

 そう話すのは、国内外のアニメに詳しい映画ライターの杉本穂高さん。

「アニメは『刀剣乱舞』も担当した『ufotable』という制作会社が作っているのですが、作品の質がとても高いスタジオということで、アニメファンの間ではすごく信頼が厚い。1本1本の作品を本当に大事に作る会社です。『鬼滅』では、監督がOKを出したパートを、指示されたわけではないのに、担当のスタッフが、それをさらにブラッシュアップしてよりよくしたということがけっこうあったらしいです。また社風として原作モノを作るときは、その原作を好きなスタッフで作るという考え方で、熱意のある人が作っていることも特徴です」(杉本さん)

 '20年は映画の公開も控えている。この人気は、今年中はかげりそうにない!?