照英

 小5男子は過去最低、中2男子も過去5年で最も低い点数を記録。

 昨年12月に公表された、全国の小学5年生と中学2年生、約201万人を対象にスポーツ庁が実施した2019年度『全国体力・運動能力、運動習慣等調査』(全国体力テスト)によれば、子どもの体力が急落しているという。

 調査は、’19年4月~7月に行われ、男女双方に「握力」「50m走」「ソフトボール(ハンドボール)投げ」など8~9項目を測定。平成20年度の調査開始以降、なだらかに数値は上がってきていたのだが、令和元年度は小・中学生の体力合計点が男女ともに低下。驚くことに、小・中学生どちらも女子より男子が大きく低下し、とりわけ小学生男子は過去最低の数値を記録──という結果が明らかになったのだ。

 スポーツ庁は低下の背景として、「授業以外の運動時間の減少」「平日1日当たりのテレビ、スマートフォン、ゲーム機などによる映像の視聴時間の増加」「児童生徒の肥満増」などを挙げており、運動習慣の確立に加え、運動時間を延ばす施策を推進するとしているが……。

スポーツ庁実施の全国体力・運動能力、運動習慣等調査より

「なんで速く走らないといけないの?」

 こうした状況について『スポーツマンNo.1決定戦』などでもおなじみの照英は、

「僕らが子どものころに比べると、公園でできることが制限されています。しかも、遊具には対象年齢が定められているものもあって、親と子どもが一緒に身体を動かして遊ぶことができない。こういった環境下で、子どもたちに運動に関心を持てと伝えるのはおかしな話。身体を動かすための環境づくりから変えていかなければいけないのでは?」

 自身も3人の子どもを育てるパパであり、小学生を対象とした『熱血かけっこ塾』を開催するなど、スポーツに一家言を持つ彼は、近年の全国体力テストの推移を見て、「子どもたちと接していて体力的に下がっているという実感はない」と前置きしたうえで、「僕が子どもたちにかけっこや逆上がりを教えているときに気になったことは、向上心のなさ。“なんで速く走らないといけないの?”という雰囲気を感じました」と苦笑する。

 全国体力テストでは、「長座体前屈」など項目によっては向上している実技もあるものの、「握力」「ソフトボール(ハンドボール)投げ」などは低下が著しい。特に、先述したように小学5年生男子の急落は言葉を失うものがある。

「何のために体力テストをしているのか、きちんと子どもたちに伝えているのかなって。ある日突然、“今度全国体力テストを行います”と伝えても、子どもたちがやる気になるとは思えない。ただのデータの採取になっているなら本当にもったいない! 子どもたちの成長の道しるべとしての体力テストという視点を持たないと」(照英さん)

ちょっとでも強く言うと親からクレームが

 たしかに、何のためにやらされているのかわからなければ、(持久走など特に)手を抜く子どもが増えてもおかしくはない。

「僕自身、体力テストで人生が変わった。結果を見た先生が、“陸上をやってみないか”と言ってくれたことがきっかけでした。その後、再び体力テストを行うと、ハンドボール投げの成績がとてもよかったので、投擲(とうてき)種目に転向したんですよ(笑)。テストの結果を受けて、そのつど、生徒の向上心や向き不向きをリードしてくれる先生がいたから、僕はスポーツが大好きになっていった」

※写真はイメージ

 国が“運動習慣の確立”というアドバルーンをあげたところで、子どもたちに向上心を抱かせるのは、現場の先生たちによるところが大きい。しかし、中学・高等学校保健体育教諭一種免許を持ち、同窓生の多くが体育教師になっているという照英さんは、

「ちょっとでも強く言おうものなら、親御さんやPTAから現場の先生にクレームがくることも珍しくないそうです。当たり障りのない教え方をすると、どうしても体育の現場から熱がなくなってしまう。僕には、先の全国体力テストの結果は、そういった体育の現場の停滞感も表れているような気がしてならない」

 と指摘する。子どもたちがスポーツの楽しさや魅力に気がつくためには、どんなことが必要か?

「スポーツの教育現場に携わる先生を育てる、それも見守る親を育てることが大事。まず、子どもたちをほめてあげること。“1位になったからすごい!”とほめるのではなく、1位になるために頑張ったプロセスをほめてほしい。同様に、勝負に負けたとしても一生懸命、頑張ったのなら、そのプロセスをほめてあげる。そうすると子どもたちは、またトライする気持ちが生まれます」

 スポーツをしましょう! と声高に叫んでも、現場や環境を軽視するような施策なら息も絶えだえになりそうだ。

「子どもたちの体力低下は、子どもたちの体力を取り巻く環境の低下でもあると思う。ダイヤの原石がいるかもしれないのに……筋肉が泣いていますよ!」

50代のおじさんが10代の若者より高身長

 実は体力低下に加え、もうひとつ気になるデータがある。子どもたちの身長が伸び止まりしているというのだ。

「厚労省の『国民健康・栄養調査』の推移を見ると、’17年に18~19歳男性の平均身長は170センチを割っています。対して、50代男性の平均身長は170センチを超えている。微差ではありますが、10代の若者の平均身長を、初めて50代のおじさんが追い抜いてしまった」

 そう衝撃的な結果を教えるのは、独身研究家で『結婚滅亡』などの著書のある荒川和久さん。かつて結婚の条件と言われた三高(高身長・高学歴・高収入)について調べていた際に、身長が伸びていないことに気がついたと話す。

「’90年代から日本人男性の身長は伸び止まりしていて、昨今は低身長化の傾向にあります。日本人の平均身長は、明治時代からの栄養・衛生状態の改善により、100年間で約15cm伸びました。特に、高度経済成長期に生まれた人は、身長がグンと伸びた世代。その世代がおじさんになったことで、いよいよ今の10代を上回る形になった」(荒川さん)

 たしかに、電車で見かける昨今の中高生って昔に比べると小さく見えるような……。

厚労省「平成29年国民健康・栄養調査」より荒川和久作成

伸びる人は伸び、伸びない人は伸びない“二極化”

 低身長化の原因は、栄養不足・運動不足などが考えられるが、国立成育医療研究センターの見解では、出生時2500グラム以下で生まれた子を意味する『低出生体重児』の増加もあるのではないか、とも。

「興味深いのは、170センチを境に、高身長の10代と低身長の10代が二極化しつつある点です。170センチを超えるとそのまま180センチ前後の高身長の人が多い。一方で170センチに届かない場合は、165センチを下回る人が少なくない」

 伸びる人は伸び、伸びない人は伸びない……。身体を動かしているか否かといったこととも無関係ではなさそうだから、スポーツ庁と厚労省は一丸となって取り組んでほしいもの。

 ちなみに、

「かつてのように、結婚の条件として身長があげられるケースはほとんどなくなりました。今は、四低(低姿勢・低依存・低リスク・低燃費)を重視すると言われています」

 とのことなので、低身長を過度にデメリット視する必要はない。

 とはいえ、子どもの体力低下に加え、10代の低身長化は気になるところ。子どもや親に「身体を動かしてください」と丸投げするのではなく、どうしたら身体を動かすようになるのか──。これからの日本を担う子どもたちの問題、決して“他人事”にはしておけない。