お笑いコンビ、スピードワゴンの小沢一敬。彼はテレビで幾度もプチブレイクを果たしてきた。相方の「あまーい!」というツッコミ(?)で注目された時期、独特の世界観が“セカオザ”として面白がられた時期、そして「今」である。金髪になった彼をあちこちの番組で見かけるようになった今、小沢一敬にスポットを当ててみたいと思う。

スピードワゴン 小沢一敬

 繰り返しプチブレイクしてきた小沢。では、そのたびに小沢に何か大きな変化があったのだろうか。また、その変化が注目されてきたのだろうか。いや、決してそうではない。彼はいつでも甘い言葉を口にし、どこでも独特の世界観を披露してきた。

 毎日は食べられない。けれど、ときどき妙に食べたくなる。そんないつもの味を、定期的にテレビは小沢に求めてきたのだ。甘味料たっぷりのあの味を。

「小沢って味わうものですから」(日本テレビ系『しゃべくり007』2015年6月22日)

 彼と長く共同生活を送ってきた、チュートリアルの徳井義実はそう語ったことがある。そんな小沢の言葉の中から、恋愛観、芸人観、友人観を味わってみたいと思う。

小沢の考える「モテ」

 まずは、恋愛観から。小沢の言葉の甘美さは、恋愛をテーマにしたときにより一層映える。モテる男とはどんな男か。そんな質問に、彼はこう答える。

「“モテる”やつっていうのは、例えば女のコが『好き』とか『あなたと一緒にいたい』っていう気持ちをくれたときに、“持てる”かどうかなの、気持ちを」(関西テレビ『関ジャニ∞のジャニ勉』2020年2月12日)

 だから、どれだけ大勢の人に告白されようが、相手の気持ちをちゃんと持てなければ、「モテるやつとは俺は思わない」。

 また、小沢は「アイラブユー」が言えないという。それはなぜか? 世界で最初に「アイラブユー」と言った人が相手を思う気持ちと、自分自身が目の前の人を思う気持ちは、一緒ではないからだ。

「今この目の前にいる女性に生まれた(地球で)初めての感情なんだから、まだ地球にない言葉を言わないとダメだといつも思ってます」(関西テレビ『マルコポロリ』2019年11月10日)

 だから、小沢は例えばこう告白する。

「すごい可愛くて、優しくて、けっこう俺、ラッチョノエル」

 どうやら独自の世界観を突き抜けると、独自の言語へとたどり着くようだ。しかし、自分だけしか理解できない言語など、はたして意味を持つのだろうか。「ラッチョノエル」と告白されたとして、さて、なんと言えば小沢の気持ちに応えたことになるのだろうか。

 恋愛を語る小沢の甘美な言葉は、私たちを哲学へと誘い込む。

小沢の考える「芸人」

 次に、芸人観について。甘いことを言う小沢と、「あまーい!」と叫ぶ相方の井戸田潤。そんな彼らの漫才を見ていると、小沢のキャラクターはこの漫才のために作られたものと錯覚してしまう。しかし、実際は逆だ。

「僕、合コンとかでこういう(甘い)ことばっかり言うんですよ。そしたら本当に女の子が“甘い……”って言ったんですよ」(フジテレビ系『ごきげんよう』2015年12月9日)

 これをきっかけに「あまーい!」が生まれた。まず小沢が存在し、次にあの漫才ができたのだ。

スピードワゴン('17年6月)

 他方で、小沢は周囲からいつも同じ「甘い言葉」を求められることに困惑する。しゃべっている途中で疲れてしまうこともある。笑いが生まれるかもしれないのに、なぜ最後までしゃべりきらないのか。彼はこう答えた。

「でもさ、それって頭のなかで想像してるじゃん。想像どおりになりたくないっていうのもある」(テレビ朝日系『ブラマヨとゆかいな仲間たち アツアツっ!』2015年1月17日)

 彼にとって芸人であることとは、自由であることだ。他人から自由であるだけではない。笑いを想像し、話を事前に組み立てるような、そんな過去の自分からも自由であること――。それが彼にとっての“芸人”だ。

小沢の考える「友人」

 最後に、友人観について。小沢は言う。地球上には約70億人もの人間がいる。そのすべてに会おうとしたら、1秒ずつしか会わなくても、220年かかる。

「でも、俺たちもう出会って何分ぐらいたった? 奇跡。乾杯」(テレビ東京系『ゴッドタン』2014年6月8日)

 そんな奇跡のような出会いすべてを、彼は大切にする。出会った人との間に、友人とそうでない人の線は引きたくない。だから友人の数は数えない。

「髪の毛が生えてる人は、自分の髪の毛の数、数えたことないでしょ? それと一緒で、数えるものではない」(フジテレビ系『もろもろのハナシ』2016年10月6日)

 そんな小沢にとって、チュートリアルの徳井は特別な存在だろう。「徳井くんが謹慎している間は自分も好きなものを断つ」といった理由で、和田アキ子からの麻雀の誘いを断ったという。

 徳井とは、放送作家なども加え、2015年ごろから数名でルームシェアを始めた。自宅は別にあるものの、共同生活を送る部屋をセカンドハウスとして借りているのだ。

 徳井にとって、小沢はどういう存在だったのか。交友関係の広さでも知られる小沢が主催するパーティーには、彼を慕う多くの芸能人が集まるという。そんな小沢を近くで見てきた徳井は言う。

「小沢という窓から僕は芸能界を見てる」(TBS系『A-Studio』2016年4月15日)

 テレビを通して接するだけの視聴者にとって、小沢は芸能界の窓ではない。しかし、独自の世界観を見せてくれる彼の言葉は、日常を少し軽くしてくれる窓ではあるのかもしれない。

 そして、ときに気づかせてくれる。自分もまた誰かにとって、独特の世界観をもった存在、誰かにとっての窓ではないかと。小沢は言う。

「みんな世界観は独自のものだから」(日本テレビ系『おしゃれイズム』2016年8月14日)


文・飲用てれび(@inyou_te