マスクと消毒液は今、入手が極めて困難な状況だ

 中国・武漢が発生源とされる新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が止まらない。日本全国で経路不明の感染者が増えている。これを受けて小中高校の一斉休校も始まった。私の家でも、共働きの中、どうやって子どもたちを在宅させるのか相談している。

 なによりも心理的な影響が大きい。たった数週間前までは、まだまだ日本中で楽観論が支配的だった。しかし、まったく感染が収まらず、さらにはウイルスの正体も解明されない状況が続き、人々はただただ不安を感じている。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 テレビのワイドショーは、連日、ほとんど同じ情報を流している。「飛沫感染と接触感染しかしないと思われている」「しかし、よくわからない」「PCR検査はやるといったが、やって陽性患者が増えても病床が足らない」「不要不急の外出は控えるべきだが、なによりも手洗いとうがいが大事だ」。

 こうした流れの中で、自分や家族、知人・友人を守るための行動が優先されている。その1つがマスクの装着だ。医学的には、感染症の予防には役に立たないとされている。しかし、感染の予防ではなく、感染してしまっている場合に無症状の患者も多く、拡散防止のためにもマスクは有効といえる。

 ドラッグストアの開店前にはマスクを求める人たちの長蛇の列ができている。長蛇の列に並ぶほうが感染リスクが高いと思うものの、やはり未知のウイルスへの恐怖がそうさせるのだろう。

 2017年、アメリカにハリケーンのイルマがフロリダを襲った際、ミネラルウォーターなどの需要が急増した。そして、実際に3000を超える小売店が値上げをし、通常価格の数倍になった。今回も、そのような状況は起きているのだろうか。

マスクや消毒液は例年の6~7倍の売り上げ

 筆者は5000万人規模の消費者購買情報を基にした、True Dataのデータベース「ドルフィンアイ」を使って、マスクや消毒液、ハンドソープといったコロナウイルス対策商品の売れ行きを調べた。主要な全国のドラッグストアのPOSデータを基に、マスク等の売れ行きを抽出した。

改めて驚かされたが、どのコロナウイルス対策商品も感染拡大を受けて、異常なほどに売れている。ここ2年間における、消毒液、マスク、ハンドソープのドラッグストア1店当たりの1週間ごとの売り上げ推移をグラフにまとめてみた。

(1)消毒液等(「殺菌消毒(指定医薬部外品)」)
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 消毒液は今年1月後半に昨年同期比約7倍も売れた。冬場はインフルエンザの流行もあって通常よりも売れるが、直近の売れ行きは異常なほどだ。ただし、私たちが実感しているとおり、ピークのあとは売り切れが続出して売り上げも急降下している。

(2)ハンドソープ
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 ハンドソープも同じく今年1月後半に通常の2倍強の売れ行きを示した。これも実感のとおり、ハンドソープは各ドラッグストアに在庫があり、急落は示していない。

(3)マスク
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 そして極めつきがこれ。マスクの売り上げだ。不謹慎かもしれないが、比率を確認してみたところ、最も売れたピークである1月最終週を前年と比べると約6倍に至った。私の家の付近のドラッグストアでは張り紙が「お1人様1つまで」が「1家族1つまで」に変わり、さらには「ご自宅にある方は買わないでください」に変わった。

 政府はマスクを緊急供給すると述べた。これが本当に緩和しそうか、POSデータからも確認し続けておきたいと思う。

 次に、便乗値上げはあったのかを確認したい。商売人は、欲しい人が多ければ商品の値上げをする。これは倫理的に責められるものではない。当然の行為だ。しかし、このような緊急時には値上げし利潤の追求を目指すのか、あるいは広く公共の福祉に貢献するのかは微妙だ。

 さらに、適正な値上げを行うことにより、需要もコントロールできるかもしれない。行列を減らし、並ぶ人たちの感染リスクを減らせるかもしれない。しかし、同時に、金持ちしか買えないのかと、評判を落とすかもしれない。それは中長期的にはむしろ売り上げと利益にデメリットをもたらすかもしれない。

 結論からいえば、ドラッグストアで過剰な価格高騰は見られなかった。せいぜい、10%ほどの価格上昇という常識的なものだった。

(1)消毒液等
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(2)ハンドソープ
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(3)マスク
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「転売ヤー」が価格を異常に釣り上げ

 アマゾンのような通販サイトでは、マスクの価格が10倍以上になるなどの現象が注目された。いわゆる「転売ヤー」とみられるやからのフリマアプリでの異常な価格での出品・転売も目立ち、経済産業省が自粛を要請するほどの大きな問題となっている。出店者たちがここぞとばかりに値上げしたのだ。アマゾンは、出店者に注意を与え、さらに削除などの強硬措置に出るとした。確かに私も異常な価格の出品を何度も見た経験がある。

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 しかし、リアル店舗のドラッグストアにおいては、上記で見られるとおり、過剰な価格高騰は見られない。昨年よりも少し高いように思えるが、品切れで高めの商品も売れた結果と思われる。総合的にも、単価の急騰は見られなかった。もちろん「希望」小売価格の存在が商品によってはあるとはいえ、ここまで平均価格が常識的に抑えられた点は、ある意味、興味深くはある。

 私は価格を2倍とか3倍にするべきだったとは言っていない。ただ、常識的な価格で通常時の数倍以上の需要を引き起こし、過剰な買い占めまで生じたことも、記録として残しておきたい。


坂口 孝則(さかぐち たかのり)調達・購買業務コンサルタント、講演家 大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。