プレス機で貨幣の模様をつける「圧印」を経て、次々と排出される通常貨幣。

「消費税3%が導入された平成元年は、1円玉と5円玉を大量に製造する必要があったため全貨種で約48億枚が造られました。ですが、ここ数年ほどは平均して約10億枚の硬貨が造られています」

 そう教えてくれるのは、埼玉県さいたま市大宮区にある、造幣局さいたま支局広報室の辻本貴律さん。

“ギザ10”を見なくなったのはなぜ?

 クレジットカードや各電子マネー、さらにはスマホ決済とキャッシュレス化が進み、小銭を使う機会が減少しているのを実感する昨今。それでも、昨年は約10億枚以上、実に1400億円を超える硬貨が製造されている。

 でも、ここで素朴な疑問。そんなに毎年、お金を造り続けちゃって大丈夫なの?

「かつて頻繁に見かけた“ギザ10”ですが、最近はあまり見かけないと思いませんか? 自動販売機で認識されないものを含め、劣化した硬貨は銀行で回収され、造幣局に戻ってきます。そして溶解されてから、再び新しい硬貨として生まれ変わるのです」(辻本さん、以下同)

 なんと、硬貨は知らぬ間にリサイクルされていた!

 造幣局は、紙幣を製造する国立印刷局と双璧をなす、貨幣の製造を担う財務省所管の独立行政法人。大阪市に本局が、広島市とさいたま市に支局があり、硬貨の歴史を学んだり、製造工場の見学が可能なのだ。

「一般的に流通する通常貨幣は、大阪本局と広島支局が主に製造しているため、さいたま支局での製造機会は限られていますが、稼働しているときは1分間に約750枚の硬貨が造られていく瞬間を目の前で見ることができます

 打ち出の小槌よろしく、次々と製造されていく500円硬貨を目の当たりにすると、1分間で約38万円のお金が……ゴクリ。当然のごとくセキュリティーは万全です。

銅、ニッケルなど貨幣材料を電気炉で溶解し、連続鋳造装置で鋳塊を造ります。その鋳塊を高温の間に所定の厚さで圧延し、次に常温で圧延することで硬貨の厚みにまで仕上げれば加工前のもととなる圧延板ができあがります

 無機質な圧延板を見ると、「これがお金に?」とにわかに信じがたいが、広島支局でのみ見学できる圧延板の製造工程は、迫力があって圧巻。この後、圧延板を貨幣の形に打ち抜いた円形がさいたま支局にも運ばれて、プレス機で模様を施す「圧印」、「検査」を経た貨幣を袋詰めし、日本銀行に送っている。

渋沢栄一は、すでにお金になっていた!?

さいたま支局では「プルーフ貨幣」と呼ばれる特別な加工を施した硬貨の製造と、3局で唯一、「勲章」の製造過程も見学することができる。

 プルーフ貨幣とは、端的に言えば記念や収集のための、いわば工芸品のような貨幣。

通常貨幣とは違い、研磨機で表面を磨き上げピカピカにしたり、変色しないようにスプレーをかけたり、1枚1枚丁寧に造ります」とは、ガイドの向井良徳さん。

 まるで鏡のような光沢をもつ完成品は「硬貨のデザインってこんなにカッコよかったんだ……」と、思わず見惚れてしまうこと必至だ。

3.目視検査を終えて完成したプルーフ貨幣は、まるで鏡のよう。硬貨のデザインや美しさを再発見できる

 特別に製造されるプルーフ貨幣は、お値段も通常とは異なる特別価格。その年の1円玉~500円玉まで6種類、666円を組み込んだセットの販売価格は10倍以上の約7700円~。「実際に使えますよ」と教えてくれるも、もったいなくて使えません!

 勲章製造では、職人の匠の技を堪能できる。天皇陛下が御即位パレードの際に佩用された「大勲位菊花章頸飾」、春秋叙勲の際に授与される勲章も造幣局でひとつひとつ手づくりしているというからオドロキ。見学者の視線を浴びながらも、ミリ単位の作業を施していく職人の集中力に脱帽だ。

 工場見学を終えて、隣接する博物館を回っていると衝撃の事実が発覚した! '24年に一新される新一万円札の顔である「渋沢栄一」は、すでにお金になっていた!!

埼玉県の記念千円銀貨には渋沢栄一が

「現在、東京2020オリンピック競技大会の千円銀貨幣などを発行しているように、国家的行事の際に発行される記念貨幣を製造しています。地方自治法施行60周年の記念に、各都道府県別の記念貨幣を発行したのですが、実は渋沢栄一は故郷である埼玉県の千円銀貨としてすでに登場しています」(向井さん)

 ほかにも、博物館にはかつては日本最古の貨幣とされていた「和同開珎」や、江戸時代の「慶長大判」なども展示され、お金の歴史が学べる。また体験コーナーでは、千両箱を持ち上げたり、貨幣の健康診断機で手持ちの硬貨の状態を測ったり、親子で盛り上がること間違いなし。

 ためになる“おカネの話”、1度聞いてみてはいかが?

 アナタの貴金属に刻印される!?リングやネックレスなどに「ホールマーク」が刻印されていれば、含有量や純度に偽りなし!品位を証明する「ホールマーク」造幣局では、貨幣材料の分析技術を活かして指輪やネックレスなどの品位証明も行っている。「貴金属製品の製造や販売をしている事業所からの依頼を受け、その製品に含まれる貴金属の純度を調べる試験を行っています。この試験に合格した者に証明記号を打刻して、その品位を証明しています」(辻本さん)。つまりは証明記号の「ホールマーク」が刻印されている貴金属製品は、造幣局のお墨つき。でも夫(彼氏)からのプレゼントに刻印がないからといって「ニセモノ!?」なんて疑わないで。あくまで、任意ですから!

リングやネックレスなどに「ホールマーク」が刻印されていれば、含有量や純度に偽りなし!

 

独立行政法人 造幣局さいたま支局
埼玉県さいたま市大宮区北袋町1-190-22
開館時間/9:00~16:30(入館は16:00まで)
休館日/第3水曜日/年末年始(12月29日~1月3日)/臨時休館あり 入館料/無料

※新型コロナウイルスの影響により、工場見学および博物館は3月31日(火)まで休館します。4月以降のスケジュールは、造幣局ホームページでお知らせしていきます。

取材・文/我妻弘崇 撮影/渡邉智裕 写真提供/独立行政法人 造幣局