黒羽麻璃央 撮影/山田智絵

 チケットが一瞬のうちに完売してしまう、スーパー人気ミュージカル『エリザベート』。東宝バージョン20周年となる今年も豪華な顔ぶれがそろったが、なかでも注目の的になっているのが、ルキーニを演じる3人のうちのひとり、黒羽麻璃央さん。

たまっていた毒を見抜かれたのかも

 ミュージカル『刀剣乱舞』など、2・5次元ミュージカルで活躍してきた彼にとって、大きな挑戦となる。これまで『エリザベート』で若手俳優の登竜門的な役といえば皇太子ルドルフだったが、暗殺者ルキーニ役での抜擢(ばってき)というのは意外!

「なぜだかわかりませんが、オーディションのときから演出の小池(修一郎)先生に“ルキーニで受けて”と言われました。もしかしたら僕の中に“ルキーニ要素”を見いだしてくださったのかも。世の中に対する不満や苛立(いらだ)ちとか……。

 僕自身は普段、そんなに怒ったりはしませんが、怒れないだけで“ムカつくな”と思うことはいっぱいあるし。たまっているのを見抜かれて“毒を吐かせてみよう”と思われたのかな(笑)。それを舞台の上で発散できればいいですよね

 本作は昨年、初めて観劇し、「それ以来ものすごくハマって、何度も繰り返しDVDを見まくっていました」という黒羽さん。そんな彼にとってルキーニは「“はたして底があるのか?”と思うくらい、掘れば掘るほど深い役」だという。

シーンごとに最初に出てストーリーテラー的な役割を担いますし、お客さんを作品世界に引き込まなければならない。責任重大です。それに、いろいろな解釈ややり方のできる役なんですよ! 彼の過去に一体何があって、エリザベートの命を奪うに至ったのか。自分の想像力を目いっぱい膨らませて、説得力のあるものを生み出したいと思います

 稽古に入る前から考えに考え、役作りのためのノートを用意したそう。

実在したルキーニの写真や、インターネットで調べた情報を貼ったりして作りました。今後、ダメ出しなどを書いていこうと思っています。

 (稽古前の)いまの時点でルキーニについて思うのは“かわいそうな男だな”ということ。権力者や偉そうな人を殺したくなるくらい、つらい思いをしたのか。周りに支えてくれたり、進むべき道に軌道修正してくれる人がいなかったのかと思うとね。

 歴代の中でも僕は最年少のルキーニですが、実は実際のルキーニといちばん年齢が近い。リアルな年齢の僕が演じたらどうなるのか、そこは自分でも楽しみですし、観客のみなさんにも楽しみにしていただきたいですね

恐怖心や焦りが、役を演じる原動力

 これまでに出演してきた2・5次元作品では、原作のキャラクターを表現するという絶対条件があるため、多くの制限がある。しかし黒羽さんはそのなかでも「ほんの少しのオリジナル」を模索していたという。

「原作ありきでやらせていただいているので、守るべきルールがほかの舞台よりもあると思いますし、決められた枠組みの中でできることを探していくのが2・5次元。

 でも、その枠組みをはずれて成立させる楽しさというのもあるんですよ。そこが意外と感動を呼ぶこともあって。熱くないキャラクターなのに、ふとした瞬間に熱さを見せたり。そこで“素敵だな”って感じてもらえることがあるんです。常に枠からはずれてはダメですが、お芝居として成立して“こうしたほうが面白いはず”というポイントについては演出家さんと相談して、できるところを探しましたね。

 どうしても生身の人間なので、キャラを超えて“ガーッといきたい”というところも生まれてくるんですけど、そこを我慢したり、我慢しなかったり(笑)」

黒羽麻璃央 撮影/山田智絵

 今回の作品には、そうした制限がないだけに「楽しみですが、すごく怖くもある」と本音をチラリ。

不安ですね。根本的に、僕はいろんなことにおいて自信がない。どちらかというとネガティブ人間なんです。でも、恐怖心や焦りというのが、役を演じるうえで僕のエネルギー、原動力になるんですよ。

 人に“大丈夫だよ”って言ってもらっても、あまり信用しません。でも逆に“ヤバいな、マズいな”と思うから、頑張る力が生まれるんだと思う。最初から“大丈夫だ”と思っちゃったら“頑張らなきゃ、何とかしなきゃ”って気持ちが生まれてこないので。不安と闘いながら必死でやって、何とかなったときには“よかったぁ”と心底、ホッとしますね。パワーを使うような役が好きなので、ルキーニはやりがいがあります」

 頑張りの成果を、観客以上に楽しみにしているのは本人かもしれない。

僕はいつも、稽古場などでいろんな俳優さんを見て“カッコいいな”とか“うわー、すげぇな”とか思っているんですけど、いつか僕自身もほかの人から“あいつ、すげぇな!”って思われたい。そのためにはどうしたらいいか、いまものすごく考えてます(笑)。“すげぇ”って漠然としていますけど、いるんですよ、共演していても“なぜかはわからないけど、なんかすげぇんだよな”と思える人って。

 この作品の稽古場にはそういう方々がたくさんいらっしゃるので、刺激を受けて成長したいと思っています。初めてルキーニとして帝国劇場に立つ日、僕はどうなるんだろう。カーテンコールで泣いちゃうかもしれないですね(笑)

くろば・まりお 1993年7月6日、宮城県生まれ、2010年に第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを獲得。'12年、ミュージカル『テニスの王子様』の菊丸英二役で俳優デビュー。'15年よりミュージカル『刀剣乱舞』シリーズの三日月宗近役で大ブレイクし、'18年の紅白歌合戦に出場を果たす。'19年にはミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にマーキューシオ役で出演。ほかに舞台『私のホストちゃん』映画『広告会社、男子寮のおかずくん』『いなくなれ、群青』など。現在、ドラマ『まだまだ恋はつづくよどこまでも』(Paravi)に出演中。

■ミュージカル『エリザベート』
「オーストリア皇后エリザベートの生涯を、彼女を愛した“死”=黄泉の帝王トートの存在を通して描いた、ウィーン発のミュージカル。日本では1996年に宝塚歌劇団が小池修一郎の潤色・演出で初演、2000年に東宝版が上演されて以来、非常に高い人気を誇っている。ルイジ・ルキーニ役は尾上松也、上山竜治、黒羽麻璃央のトリプルキャスト。東京公演:4月9日~5月4日@帝国劇場。その後、5月11日~6月2日@大阪・梅田芸術劇場メインホール、6月10日~28日@名古屋・御園座、7月6日~8月3日@福岡・博多座で上演される。詳しい情報は公式HP(https://www.tohostage.com/elisabeth/)へ

(取材・文/若林ゆり)