昔のお見合いに比べて、今のお見合いはとてもカジュアルになりました。とはいえ、お見合いは生涯の伴侶に出会うかもしれない大切な出会いの場です。ところがどういうわけか、ここのところ私の会員たちが、とんでもないお見合い相手にばかり出くわしています。 
 ライターをしながら、仲人としても現場に関わる筆者が、目の当たりにした婚活事情を、さまざまなテーマ別に考えていく連載。今回は、「お見合い現場に現れた珍客たち」について記します。

お見合いに適した服を!(写真はイメージです)

近所のスーパーへの買い物ですか?

 日本庭園の見える料亭の一室で、女性は着物、男性はスーツ姿。仲人さんを挟み、ご両家のご両親と当人同士がお会いするお見合いは、もう遠い昔の話。今のお見合いはとてもカジュアルになり、ホテルのティーラウンジで待ち合わせをして、1時間程度のお茶をするという形式になりました。

 しかしながら、お見合いは生涯の伴侶に出会うかもしれないまじめな出会いの場です。そこには“礼を持って礼を尽くす”ということわざがあるように、真摯(しんし)な気持ちでお相手に向き合っていただきたいと思うのです。

 先日、お見合いを終えた聡子さん(36歳、仮名)から、連絡が入ってきました。

「今日のお相手は、衝撃的でした!」

 お見合いをしたのは、海外の要人なども宿泊することで有名な都内の一流ホテル。ティーラウンジの入り口付近でお相手が来るのを待っていると、遠くからグレーのスエット姿の男性がやってきました。

 明らかにホテルの中で浮きまくっているその男性は、聡子さんに向かって歩いてきます。

 “も、もしかして、お見合い相手の安藤さん?(41歳、仮名) あの方だったら、嫌だわ……”

 ところが、予感は的中! 男性は、聡子さんを見つけると言いました。

「矢野さん(仮名)ですよね。安藤です」

 足元は、はきこまれた薄汚れたスニーカー。困惑している聡子さんをよそに、スタスタとラウンジに向かうので、ある意味、覚悟を決めて後ろをついて行きました。

 彼は入り口でウエーターさんに、「2名です」と告げ、席に案内されると、聡子さんを「どうぞ」と席に促すこともなく、ご自身が奥の上座席にドカンと座り、運ばれてきた水を一気飲みました。

「ホテルだと、さすがに水もうまいな〜」

 そこからメニュー見て注文を決めると、今度は大声でウエーターさんを呼びました。

「すいませーん!」

 コーヒーを注文し、運ばれてくると、砂糖とミルクをたっぷりと入れてスプーンでかき回し、スプーンでコーヒーをすくって、ズズズズズーッと音を立てながら3口飲みました。

 そこまでの行動に、聡子さんはア然呆然(ぼうぜん)。

「周りの目も気になって、一刻も早くお見合いを終えて、この場を立ち去りたいという気持ちになりました。1時間のお見合いがとても長く感じられました」

 男性に何を質問されても、上の空。お見合いが終わることばかりを考えていました。

 もちろん、聡子さんからの結果は“お断り”でした。

 お見合いには、スーツを着てネクタイを締めていくというのがマナーです。ましてや一流ホテルにスエットで行くのはマナー違反。近所のコンビニやスーパーに買い物に行くのとは、訳が違うのです。

 この姿で毎回お見合いに現れていたら、この男性に“交際希望”を出す女性は、永遠に現れないでしょう。

「これもご縁ですから」と、何のご縁?

 次の珍客は、お見合いする女性についてきたご友人です。

 義男さん(38歳、仮名)が、お見合い場所のホテルへ行くと、1階のラウンジ入り口付近に、今日のお相手と思われる女性、明美さん(35歳、仮名)が、もう一人の女性を伴って立っていました。

 “彼女の仲人さんが、お引き合わせに来たのかな”と義男さんは、思ったようです。

 二人のところに近づいていくと、明美さんは義男さんに気づいたのか、恥ずかしそうにうつむきました。

「依田(仮名)です。立岡さん(仮名)ですか?」

 義男さんは、挨拶をしました。すると、明美さんではなく、隣にいた女性が口を開きました。

「彼女が先週、足を捻挫してしまいまして。階段の上り下りがつらい状態なので、今日は友人の私が、車でここまで連れて来ました」

 隣にいた女性は仲人ではなく、ご友人でした。

「帰りも車で彼女を家まで送るので、お見合いをしている最中は、この近くのどこかで待っています」

 こう言うと、ご友人は立ち去ったので、義男さんは明美さんを促してティーラウンジへ入りました。ウエーターさんに案内された席に座り、お見合いがスタートしたのですが、明美さんは、恥ずかしそうにうつむいたり、顔を上げても視線を横にそらしたりで、全く目を合わせようとしませんでした。

「趣味はなんですか?」

「料理を作ることです」

「休みの日は何をしていますか?」

「家で、本を読んだりテレビを見たり」

 何を質問しても、帰ってくるのはひと言、ふた言。一問一答形式の会話に、義男さんは、すっかり疲れてしまいました。

「僕に何か聞きたいことはありませんか?」

「‥‥」

 こんな調子で、50分が過ぎました。

 話も尽きてしまい、義男さんは、「では、そろそろ行きますか?」と言うと、明美さんは携帯を取り出し待っている友人に、『お見合い、終わりました』と連絡を入れたようです。

 義男さんか、会計をすませて明美さんと出ていくと、ラウンジの出口には、先ほどの友人女性が待っていました。そして、バッグの中から小冊子を取り出すと、義男さんに手渡しながら言ったのです。

「今日ここでお会いできたのも、何かのご縁だと思います。私たちは定期的に集まって、友達づくりをしたり、平和な社会になるにはどうしたらいいかを話し合ったりしています。今度お時間があるときに、いらっしゃいませんか?」

 それは、とある宗教の小冊子でした。義男さんは、手渡された小冊子をご友人に返して、キッパリと言いました。

「僕は特別な宗教に興味がありません」

 この報告を受けて、私はびっくりしてしまいました。結婚相談所では、宗教やネットワークビジネスの勧誘は、してはいけないことになっています。

 翌日、明美さんの相談室に、お見合い結果が“お断り”であること、さらに、一緒について来たご友人に宗教勧誘をされたことを報告しました。相談室もびっくりして、こちらに平謝りでした。

「ここ赤くなっているけど、どうしたの?」

 さらに、こんな珍客も。

「今日の方、お断りでお願いします」

 お見合いを終えた良美さん(33歳、仮名)から、LINEが入ってきました。お見合いが14時からで、お断りのメールが来たのが15時。1時間お見合いをしていたとしても即行のお断りだったので、これは何かあったに違いないと、LINEを読んですぐに電話を入れてみました。

 電話に出た良美さんは、憤慨したように言いました。

「妙に女性慣れしている印象で、とても失礼な方でした。お見合いが始まったときから、すでにタメ口で、着席するなり、『有吉(仮名)さん、下の名前はなんていうの?』って聞いてきたんですよ。私が、答えに躊躇(ちゅうちょ)していると、『あ、お見合いの席で、下の名前を聞いちゃいけないんだったね。それにしても堅苦しいルールだよなあ』と、おっしゃって」

 相談所のお見合いでは、お見合いの前にお相手に伝えるのは名字のみ(もしくは下の名前のみ)。なぜかと言えば、SNSの発達している今の時代は、フルネームがわかるとネット検索をして、本人の情報や会社などがわかってしまうことがあるから。フルネームを明かすのは、お見合い後に交際に入ってからなのです。

 さらに、お見合いが進んでいくと、とんでもない行動に出てきたと言うのです。

「『ここ、赤くなっているけど、どうしたの?』と、私の腕をさーっと触ってきたんですよ。もうびっくりしました」

 以前、「きれいな髪だね。僕はこういうサラサラした髪が好きなんですよ」と言って、お見合いの別れ際に、男性から髪をなでられた会員女性もいましたが、まだ親しくもないうちに女性の身体に触るのはご法度。触っている当人たちは女慣れしているのをアピールしたいのでしょうが、逆に、これはマイナスな行為です。

 人には、“パーソナルスペース”という、心理的縄張りがあります。このパーソナルスペースは、相手にどのくらい心を許しているかで、その距離が変わってきます。まだ心を許していない異性が肌や髪の毛に触れてきたら、違和感を覚えて不愉快になるだけです。

 一方で、1時間楽しく会話できた相手から、“ぜひまたお会いしましょう”と別れ際に握手を求められたら、それは好感度アップにつながります。これは、“楽しく会話ができた”ということがポイントになっています。また、握手というのは腕や髪をなでるというのとは違う、挨拶につながるスキンシップの形だからです。

 それまで全く面識のなかった他人同士が、“結婚相手を探す”という目的で出会うのがお見合いです。服装から始まり、会話、行動に至るまでまで、相手を思いやって、真摯に向き合ってほしいなと思います。


鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイト『最短結婚ナビ』http://www.saitankekkon.jp/