大腿骨を骨折した人の3割が寝たきりに! イラスト/赤松かおり

「骨折」というと、安静にしていれば治る…と、軽く考えがち。しかし高齢になってからの骨折は予想をはるかに超えるリスクが。

「股の付け根、大腿骨近位部を骨折した方の3割が寝たきりになることがわかっていますし、死亡リスクも6~8倍上がります。がんや脳卒中と同等のリスクがあることから、“骨卒中"と表現されるほど、非常に重篤な疾患です」

 と語るのは、鳥取大学教授・萩野浩先生。そもそも若者と高齢者とでは、骨折にいたる原因からして異なる。

閉経後の女性は要注意

「誰もが加齢に伴い骨量が減少しますが、特に女性は、閉経時の女性ホルモンの急激な低下が骨に悪影響を与えます。骨は、骨を壊す“破骨細胞"と、作る“骨芽細胞"が連携して新陳代謝を繰り返しています。

 しかし、女性ホルモンが急激に減少すると、骨を壊す働きが活発化し、作るのが追いつけない事態に。こうしたことから、女性には骨粗しょう症が多く、高齢者の骨折の主な原因となっています」

 骨粗しょう症になると、咳をしただけでも骨折してしまうほど、骨は脆弱化する。

「さらに、1か所骨折すると、他の部位も次々骨折する“骨折の連鎖"も起こりやすい」

 そんな事態を招かないために大切なのが、早い段階からの骨粗しょう症予防。

「食事や運動に気を配って、意識して骨を強化してほしいですね。骨に必要な栄養はカルシウム、ビタミンD、タンパク質の3つ。閉経期以降の女性は特に意識してとるようにしましょう」。

50歳以上の女性の2人に1人の骨が折れている

 骨粗しょう症という病名は広く認知されているのに対し、意外と知られていないのが、骨粗しょう症による骨折の発生率。

「骨密度も運動能力も平均的な、50歳で閉経を迎えた女性が、生涯のうちに大腿骨近位部の骨折を起こす割合は約20%。さらに背骨の骨折は30%あり、両方合わせると50%近く、つまり2人に1人近くは骨折を経験することになります」

 その頻度は驚くほど高く、自分には関係ないと言っていられないのが現実!

「手首の骨折は、とっさに手が出る50~60代の比較的若い世代に起こりやすいので外で転ぶなどして起こっていますが、より高齢者に多い大腿骨近位部骨折は、75%が屋内で起こっています。

 具体的には、居間や寝室といった生活空間が転倒しやすい危険な場所に変わってしまっているのです。

 めくれ上がった絨毯のへりや電化製品のコードなどに引っかかって転ぶ方が多いので、掃除の際に引っかかりやすいものはないか、夜暗い場所はないか、家の中をよく点検し、階段には手すりをつけるなど、転びにくい環境を整えておくことが大切です」

 また、季節的に転倒が増えるのは冬場。

「厚着や暖房器具のコードなど引っかかるものが多いこと。部屋ごとの温度差から血圧が変動してふらつきやすいといった理由から、10~2月が骨折の多い季節と言われています。しかし、日に日に暖かくなり活動的になる今の時期も、ふとした拍子に転びやすいので十分注意が必要です」

 骨がもろくなって起こる骨折の中でも、特に注意すべき、骨卒中の代表的な部位と言えるのが、股の付け根・大腿骨近位部。ここを骨折した場合、95%以上が手術が必要となり、歩行能力が大きく低下。約3割の方が寝たきりになるという調査結果が出ています。

骨折が重篤化しやすい場所

■No.1 大腿骨

年齢別骨粗しょう症の割合 出典:骨粗しょう症の予防と治療ガイドラインより

骨がもろくなって起こる骨折の中でも、特に注意すべき、骨卒中の代表的な部位と言えるのが、股の付け根・大腿骨近位部。ここを骨折した場合、95%以上が手術が必要となり、歩行能力が大きく低下。約3割の方が寝たきりになるという調査結果が出ています。

■No.2 腰・背骨

年齢別骨粗しょう症の割合 出典:骨粗しょう症の予防と治療ガイドラインより

 頻度の高さではトップとなるのが腰椎や背骨の骨折。転倒による衝撃だけでなく、荷物を持ち上げるなどのちょっとした動作で折れてしまったり、圧迫骨折など気づかないうちに骨折していることも。ほかの部位でも次々と骨折の連鎖が起こやすく、命にも関わることに。

あなたの骨密度は大丈夫?
当てはまる項目が多い人は、早めに医療機関でチェックを!
□やせ型である、食べても太らない
□疲れやすく座っている時間が増えた
□ペットボトルなどのフタが開けにくくなった
□親が骨粗しょう症だ
□タバコを吸う
□お酒をよく飲む
□糖尿病や腎臓病を患っている
□50歳を過ぎてから骨折をした

骨は“叩いて”強くするのが効率的

 骨卒中の怖さがわかったところで、ぜひ取り組みたいのが骨の強化。

「牛乳やサプリでカルシウムをとっているから、筋トレをやっているから大丈夫と思いがちですが、それだけでは強い骨は作れません」

 と話す、若々しい身体を取り戻す「リバースエイジング」の専門家として知られる骨の専門医・中村光伸先生。

「骨を強くするには、材料となるカルシウムなどの補給とともに“骨を強くせよ"という作業指示を出す必要があります。そのひとつが骨への刺激です」

 そこで中村先生が考案したのが、1日1分、骨をコツコツたたくだけの『骨たたき』。

「骨の強さは骨を作る“骨芽細胞"と壊す“破骨細胞"の働きのバランスによって変化しますが、刺激を与えると新陳代謝が活発になります」

 これまでにも骨を刺激する方法はいくつか提唱されてきたものの、より簡単に効率よく骨を振動させるやり方を、実験を重ねて模索。

「“ひざコツコツ"はテレビを見ながらでも電車の中でもできますし、筋力やバランス力が低下している高齢者も無理なく行えます」

 クリニックに通う患者さんの多くも、骨たたきの効果を実感しており、手押し車を使って通っていた90代の女性に治療と並行して骨たたきを実践してもらったところ、1か月後には補助なしでも歩けるようになった!

「加齢によって身体のさまざまな機能が衰えていくことを食い止めるのは難しいですが、骨は確実に若返る可能性があります。いつまでも豊かで楽しい人生を送るために、40代以降の方はぜひ習慣にしてほしいですね。

 また自分の骨の状態をしっかり把握しておくことも大切。私のクリニックでは、骨密度から栄養状態まで包括的にチェックできる『骨ドック』というメニューもありますので、気になる方はぜひ1度受けてみては」

骨たたきで身体を若返らせる
スーパーホルモン オステオカルシンが増加する!

 骨の中にある骨芽細胞には、免疫力を高めたり、臓器の機能をコントロールする重要なホルモンを分泌する働きがあることが、最近の研究で明らかになってきました。中でも注目は、骨ホルモンとも呼ばれる「オステオカルシン」。

 さまざまな臓器を活性化させ、糖尿病や認知症、動脈硬化、生活習慣病などの予防や改善に効果が期待されています。骨たたきは、オステオルシンの分泌を促すこともわかっています。

毎日1分「骨たたき」を行った結果、2か月後にオステオカルシンが約20%増加! ※骨たたき前を100%として増減を測定

骨たたきのすごい効果
■骨密度が上がる
■太りにくくなる
■糖尿病を予防する
■身体の酸化を防ぐ
■免疫力が高まる
■認知症を予防する
コツコツ骨をたたくだけで、スーパーホルモン「オステオカルシン」の分泌を促進し若さと健康を保つさまざまな効果が。豊かで快適な人生を送るための最強の対策といえそう。

毎日1分で若返る!骨たたき【実践編】

■骨たたきのポイント
1.骨はタテに刺激する
 骨に効率よく刺激を与えるには、大きな骨をたたくこと。大きな骨は細長い形状をしているため、タテ方向からたたくほうが圧力が大きくなり、振動・刺激も大きくなる。

2.筋肉が薄い場所から刺激する
 骨が分厚い筋肉に覆われている場所は、たたいても刺激が伝わりづらく非効率的。筋肉が薄い場所をたたくほうが、骨への刺激が大きくなる。

基本 座ったままで「ひざコツコツ」

 ひざ上は筋肉や脂肪が比較的少ない場所なので、しっかり骨へ刺激を与えることができます。イスに座り、右のこぶしで右ひざの上を、左のこぶしで左ひざの上を、交互にコツコツ10回たたきましょう。1日に合計100回を目指して。

基本 座ったままで「ひざコツコツ」 イラスト/赤松かおり

ポイント1:こぶしの小指側から、垂直に落とすようにたたくと、刺激が強くなり効果的。
ポイント2:ひざのお皿部分を直接たたくと、手を痛めることもあるので、ひざ上をたたきましょう。
ポイント3:こぶしは、胸の位置くらいから落とすようにしてみましょう。

 骨が分厚い筋肉に覆われている太ももあたりをたたいたり、背中が丸まった姿勢だと、こぶしが高い位置から落とせないので、効果が小さくなります。

基本 立ったままで「足踏みコツコツ」

 かかとから足全体へ、効率よく振動が伝わる動きです。まっすぐに立ち、軽く力を入れて左右交互に足踏みする。地面に足をつくときはかかとから落とすようにして、10回を目標に。1日100回を目指して。

基本 立ったままで「足踏みコツコツ」 イラスト/赤松かおり

ポイント1:足は地面から20〜30cmくらい上げて足踏みするようにしましょう。
ポイント2:足はかかとから地面にしっかり落として、骨に刺激を与えましょう。
ポイント3:背筋を伸ばして足踏みすると、上半身の負荷もかかり刺激が強くなります。

 姿勢が悪いと足もあがらず、上半身の負荷も小さくなるので骨への刺激が小さくなります。

座ったままで「手のひらコツコツ」

 手のひらから前腕の骨へと振動を伝える動きです。イスに座り、胸の前で手をたたく。その際、手のひらの下側の硬い部分どうしを当てるのがポイント。10回を目安に。

オプション ひじをあげてたたくことで前腕にタテ刺激が伝わる 座ったままで「手のひらコツコツ」 イラスト/赤松かおり

ポイント1:ひじをあげて手をたたくことで、前腕の骨にタテの刺激が効果的に加わります。

ポイント2:手のひらの間隔が離れるほど、骨への刺激が大きくなります。

座ったままで「腕コツコツ」

 ひざや足踏みのような単調な繰り返し動作だけでは飽きてしまいそうな人は、少し変化のあるこの動きを加えてみて。イスに座り、片方の腕を軽くひじを曲げて上げ、反対の手のこぶしでコツコツたたく。10回たたいたら、手を替えて反対側も同様に。

オプション 気軽に加えたいランダム系コツコツ 座ったままで「腕コツコツ」 イラスト/赤松かおり

ポイント1:たたく場所は、ひじ以外ならどこでもOK。腕をまんべんなくたたいてもOK。

ポイント2:たたくときはこぶしの手のひら側でも小指側でもOK。あまり強くたたかないように、気持ちがよい程度を心がけて。


※骨たたきをしているときにひざや足、腰などに痛みがある場合は中断してください。

取材・文/當間優子