税務申告漏れが発覚し、'19年10月から活動を自粛していたチュートリアル・徳井義実。そんな彼が3月15日にウェブ上とはいえ、久しぶりにカメラの前に立った。相方の福田充徳とともに、チュートリアルとして舞台で漫才を披露したのだ。

チュートリアル 徳井義実

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、各種イベントの中止・延期が続いている。吉本興業が各地の劇場で連日行っていた舞台も中止になり、3月6日以来、無観客でのライブが毎日、YouTubeで配信されている。

 そんな中、3月15日のお昼、東京・ルミネtheよしもとの舞台にチュートリアルが登場した。

 久々に見た徳井は、黒いジャケット、黒いシャツ、グレーのネクタイを身につけて現れた。なんだかやせたようにも見えた。相方の福田の顔は、いつもより紅潮していた。そして、徳井以上にやせているようにも見えた。

 漫才冒頭、徳井は今回の申告漏れの件を謝罪する。

「去年の税金の問題で世間の方をお騒がせしまして、ご迷惑をおかけしまして、本当にすみませんでした。これからは社会人として、やるべきことをしっかりやって、仕事も頑張っていこうと思っております。よろしくお願いします」

 福田が一緒に頭を下げる。ただ、ここは漫才を披露する舞台の上だ。2人は謝罪する人と見届ける人ではなく、ボケ役とツッコミ役だ。2人は謝罪に続けて、こう言葉を紡いだ。

徳井「続きましてですね、福田さんの万引きの問題の謝罪を」

福田「やってるかアホ!」

徳井の“キャラクター”は健在

 この日の彼らのネタは、福田をモデルに徳井が写真を撮ろうとするというもの。彼らの漫才は、ところどころに今回の騒動をめぐる話題を組み入れながら進行していく。

 春だから心機一転、新しい趣味を始めたいと福田が言えば、「福田さんには春が来ても、僕にはまだ……」と徳井が自虐する。福田が「頭おかしいんか」とツッコめば、徳井は「頭おかしいに決まってるやろ。まともなやつが去年あんなことならへんやろ」と答える。

 2人の漫才は尻上がりに高揚していく。徳井が、彼特有の偏執的な表情を見せ始め、紅潮した福田の顔が一層、赤みを増していく。

 徳井が福田にヌードになるよう迫ると、福田はそれを拒む。すると「俺も脱ぐし、見てくれ」と徳井が強弁を始める。福田が「頭おかしいんか」とツッコめば、徳井が再び「頭おかしいに決まってるやろ。まともなやつが去年あんなことならへんやろ」とツッコミ返す。

 徳井のこれまでのキャラクターを崩さず、謝るべきところは謝り、なおかつ人を笑わせるネタとして成立させる。彼らはそんな難しい連立方程式を解き、漫才という表現形式に落とし込んでいった。

徳井が振り返る「チュートリアル」

 チュートリアルはどちらも京都生まれの京都育ち。幼稚園からずっと同じ時間を過ごしていた幼なじみだ。そんな2人がコンビを組んだのはお互いが23歳のとき。NSC(吉本興業の芸人養成所)を卒業するも芸人の道を歩まなかった徳井を、NSCに通っていない福田から誘ったことがきっかけだった。

 当初から頭角を現していた彼らは、コンビ結成から8年後、2006年の『M-1グランプリ』で優勝する。その後は、全国ネットのテレビのレギュラー番組を数多く持ち、特に徳井はひとりでの活動が増えていった。

 順風満帆に見える芸能生活。だが、徳井はあるとき、こう振り返っている。自分が自信を持って世間に提供できるのは、漫才などのネタしかない。しかし、『M-1』で優勝を果たし、提供できるものはすべて提供したという感覚がある。それ以外のテレビの仕事は、芸ではないという感覚がある。

「うちの正規の商品じゃないものでやらせてもらってるから、年齢とともに、ホンマに仕事いただけるんであればというか、オファーしてもらえるんであれば、やらせてもらいますっていう感じになってきた」(フジテレビ系『ボクらの時代』2016年3月20日)

 そんな徳井が今回、自身の力を存分に発揮したのは、やはり舞台の上だった。漫才という表現であり、何よりチュートリアルという関係だった。

漫才と交差する現実の2人

 漫才の終盤、徳井は語りだす。

「昔のこと思い出せや。23歳でコンビ組んだよな。全然、仕事もなくて金もなくて、腹減ったなぁ言うて。将来のこと不安で。俺ら売れんのかなって。ずっと言うてたやん。くすぶってるころ。

 なんとか頑張って、一応『M-1』とって東京出てきて、仕事は増えたよ。増えたけど今度、忙しなりすぎて、お互いなんかギスギスして、ピリピリして、ケンカもして、こんなやつ解散やでって、俺も思ったし、お前もたぶん思ったことあるやろ」 

「そやけどな、やっぱり、20年以上こうやって漫才できてんのは、俺はな、俺は、相方がお前やったから。そう思ってるよ。感謝してるよ」

「いろいろあって、お前に迷惑かけて、ホンマにごめんなって思ってる。でも、やっぱりこうやって、漫才一緒にやって、これから2人頑張っていこうって、思ってるんや」

チュートリアル

 よろしくな。こちらこそ。改めてそうお互いに確認しあった2人。しかし、ここは漫才を披露する舞台の上だ。2人は友達ではなく、ボケ役とツッコミ役だ。徳井の長弁舌は終わり、ネタは次のように閉められた。

徳井「じゃあ、下半身見てくれよ」

福田「やっぱ頭おかしいやないか。やめさせてもらうわ」

 徳井の今回の過失は大きなもので、一部には厳しい声もある。問題を率先して“笑い”に変える態度を、反省のなさと受け取る向きもあるだろう。2人の友情を匂わせる構成を、お涙ちょうだい的なものとして責める声もあるかもしれない。

 ただ、2人のリアルな友人としての時間、若手時代からの相方としての時間、漫才上のボケとツッコミのやりとりの時間、そして、ここ半年の騒動の時間――、それらの時間を2人のやりとりだけで舞台の上に重ねていき、漫才として演じきる表現力には、思わずうなった。

 漫才師・チュートリアル。その「正規の商品」を改めて堪能した時間だった。


文・飲用てれび(@inyou_te