歩き方の質をよくすれば、普段の道のりでも基礎代謝が上がり健康な体が作られます

「最近なんとなく太りやすくなった」とか「健康診断の数値が心配になって……」と、慌ててサプリを摂ったり、ジムに行ったりする方が昨今、増えているように感じます。

 健康ブームは大変喜ばしいことですが、頑張りすぎて体を痛めたり、自己流でやったために効果が出なかったり……というお悩みもよく耳にします。ウォーキング指導をしている筆者のレッスンにも、

「歩いたら痩せると思って歩き続けたけれど、まったく痩せない」

「運動すると腰が痛くなるようになった」

「整骨院の先生から歩き方が悪いと言われたが、正しい歩き方がわからなくてここにきた」

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 など、歩くことが大切なのはわかっているものの、「歩き方」がわからないとお困りの方が多くいらっしゃいます。

 実は15年前、筆者も同じような悩みを持っていました。思春期の頃から背が高いことがコンプレックスで、以降、すっかり猫背に。しかも内股が可愛いと思ってわざとそうしていた時代があり、とにかく下半身が太りやすく、さらに便秘にも悩んでいました(それも遺伝だと思いこんでいました)。

猫背が引き起こす心身への悪循環

 猫背にしていると肋骨が硬くなり、動きが悪くなります。そうすると内臓が収まるスペースが狭くなるので、内臓は重力も手伝ってどんどん下がります。そして内臓の受け皿である骨盤も、日々の姿勢の悪さのせいで歪み、そこに長い臓器である腸が収まるわけです。これでは腸が元気に働くわけがありません。圧迫され続けた腸は癒着し、腸管は狭くなるので、結果、便秘になります。

 腸内環境の悪化は、思い切りメンタルを下げてしまいます。幸せを感じる「セロトニン」は9割以上が腸内で作られるということをご存じでしょうか。そんな環境では、幸せ物質は分泌されません。どんどん年をとる自分に自信がなく、すっかり卑屈になっていました。

 それこそジムにも通いました。パーソナルトレーナーに個別に見てもらえばよかったのかもしれませんが、とりあえず自己流でいろいろなマシンにも挑戦しました。負荷をかければかけるほど効果が高いに違いないと、自分を追い込みました。

 変な負荷をかけ続けたせいで腰が痛みだし、不安なく楽しめるサイクリングとランニングマシンしかしなくなり、そのうちそれも飽きてサウナに入るために通うように。しかしそのサウナもみなさんのご想像どおり、ダイエットにはほとんど効果はありませんでした。

 歪んだ体のままトレーニングをすることは曲がった釘を金づちで打ち続ける行為で関節や筋肉に負担をかけます。

 ジムで必死にトレーニングする時間より、日常生活で歩く時間のほうが長いのですから、その時により多くの筋肉を使う正しい歩き方を身につけることは効率的で時短にもつながります。むしろ歩き方が悪ければせっかくのジムでの努力は無駄になってしまいます。だからジムに行く前にまずは質のいい歩き方を知ってほしいと思います。

歩数より歩き方の質を変える

 それらのことよりずっと効いたのは、ウォーキングでした。歩く時間や歩数は実はさほど重要ではなく、歩き方を変えると、どんどん体が変わり始めました。そして、大きな食事制限をすることもなく、なんと3カ月で12kgも体重が減ったのです。

 どこの筋肉を動かしているか、どことどこが連動しているか……。今まで使えていなかったお尻や背中の筋肉を意識して歩くと後ろ姿がスッキリし、筋肉量が増えることも実感しました。

 今使えていない筋肉を目覚めさせ、筋肉量を増やせばバランスもよくなり代謝も上がりお尻も上がります。それを習慣付けることで、どんなに飲んでも食べてもきちんと消費できる体に変わっていきました。

 私たちの体には200以上の骨があり、それを動かす骨格筋や内臓筋などを合わせると、600以上の筋肉があります。これらすべての筋肉が少しずつ自分自分の役目を全うするように目覚めれば、体全体でエネルギーを作りだすことになり、代謝は上がります。

 そう、大事なのは、基礎代謝を上げることなのです。

 基礎代謝とは、心臓などの臓器を動かしたり呼吸するときなど生命維持のために使うエネルギーのことで、寝ていても消費するもの。せっせと運動するより、この基礎代謝を上げたほうが、無理なく、太りにくくなるのです。

 基礎代謝を上げるコツですが、すぐに始められることとして「呼吸」と「歩く」、この2つについてポイントをお伝えします。

【呼吸法のポイント】

1)新鮮な空気をたくさん体に入れるためにはまずは息を吐き切ることが大切です。肩の力を抜いて「ハア〜」と声に出して全部吐き出します

2)次に鼻から5秒程度吸います。胸に風船が入っていてそれを大きく膨らませるように吸います

3)今度は口笛を吹くように口を尖らせて「ふう〜」とゆっくりじっくり10秒以上かけてもうこれ以上吐けないというくらい吐き切ります。体全体の筋肉を緩ませ風船の空気が徐々に抜けていくようなイメージで行ってください


※猫背で固めた肋骨は肺の膨らみを制御してしまうので、息を吸う時は両手を広げて少し後ろに広げます。

 この肋骨を広げる時に肋間筋といって、肋骨と肋骨の間にある筋肉を伸ばしたり縮めたりすることも筋力アップにつながります。また横隔膜をしっかりと動かすことによって内臓への刺激を促し、自分で腸もみをする効果も期待できます。また猫背改善のためにも肋骨の柔軟な動きは大切です。

 今度は、正しい歩き方のポイントです。

【正しく歩くポイント】

1)自分の前に幅20センチの平均台の上を歩くイメージで足を運びます。だいたいご自分の靴1足分の幅からはみ出さないように足を出していくといいでしょう。正面に姿見など鏡を置いて鏡に向かって歩くと足がちゃんと運べているか確認できます

2)後ろから前に出す足は親指の付け根で蹴り出すようにします。そうすることでお尻や太ももの後ろ側の筋肉もちゃんと使える歩き方になっていきます

3)肩甲骨を動かすように腕は後ろに振りましょう

普段の歩き方を改善し、健康な体を作る

 肩甲骨と肩甲骨の間にはダイエットスイッチと呼ばれる場所があり、両方の肩甲骨がちゃんと動くことで体全体の脂肪を燃焼させやすくなります。

 歩き出す前に呼吸をして、肋骨を丸めないような姿勢を作り、その背中の角度を保って歩いてみてください。体温が上がる感覚や、指先まで血液が巡っているイメージを持ちながら歩くと、さらに効果が上がり、基礎代謝がよくなっていくことでしょう。

 ジムに行かないと健康な体は手に入らないというのは思い込みです。普段の道のりを、正しい呼吸法と、正しい姿勢できれいに歩けば、健康で引き締まった体を手に入れることは十分にできるのです。

 はじめは意識することが大切ですが、毎日続けていると無意識にできるようになります。歩くだけで筋トレをしてしまう体になればジムに行かなくても日常の動きの中で健康な体は作れるのです。


山崎 美歩呼(やまさき みほこ) 一般社団法人 日本姿勢改善ウォーキング協会
筋肉と骨格、体の動きなど理学療法の観点からウォーキングを研究。ウォーキングに骨盤と腸の関係を加味した独自のプログラム「骨盤腸整ウォーキング」を開始。ウォーキングレッスンとインストラクター養成を行う。博多阪急、下関大丸、大阪ポーラ他でイベントを開催。レッスンでは年間延べ7000人にレクチャー。FMコミテンにてラジオパーソナリティーを担当(月1~2回)。また、倫理法人会での講話が好評で、毎月全国各地で講話を務めている。