(写真左から)西田敏行、染谷将太、勝新太郎

 長谷川博己主演のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』は3月22日放送の第10回の平均視聴率は16.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調を維持している。これまでの織田信長像を刷新する染谷将太の怪演も好評だ。そこで、時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが歴代大河の配役を振り返ります。

 NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では、染谷将太演じる織田信長が「イメージが違う」という声が多いらしい。確かに毎朝、海に漁に出るという設定も今までなかったし、海上の揺れる小舟に立つ初登場の印象は、まるで浦島太郎。黒ずくめのアバンギャルドな甲冑(かっちゅう)が似合う大魔王・信長の印象とはかなり違うような……。

 これまでの大河ドラマに登場してきた信長のイメージは比較的、統一されてきた。古くは『太閤記』('65年)の高橋幸治『天と地と』('69年)の杉良太郎、近年でも『天地人』('09年)の吉川晃司『江~姫たちの戦国〜』('11年)の豊川悦司など長身面長で眼光鋭く、声がでかい面々がそろう。『功名が辻』('06年)の舘ひろしなど、かけていないのに黒いグラサンをかけているように見えたものだ。

 号令一発でみんなを従わせる威圧感バリバリのカリスマ性が信長には必須条件と思われていた。それだけに、どこか少年ぽさのある染谷には今までとの違いが見えたのだろう。

秀吉のイメージを変えた西田敏行、勝新太郎

 だが、振り返ってみれば大河ドラマには、それまでのイメージを打ち破る「型破りな戦国武将」が数多く登場している。

 たとえば豊臣秀吉。初期の大河ドラマでは『太閤記』緒形拳『国盗り物語』('73年)の火野正平が人気を博した。タイトルもズバリ『秀吉』('96年)に主演したのは、竹中直人。“竹中秀吉”は野山をふんどし一丁で走り回る、人間味もお尻も丸出し男。しかも竹中は18年後、岡田准一主演の『軍師官兵衛』('14年)でもひさびさに秀吉役で出演。ここでもまさかのふんどしに。丸出し路線を貫いたのだった。

 そんな野性味のあるサルイメージが定番の歴代秀吉の中で、印象をガラリと変えたのが、『おんな太閤記』('81年)の西田敏行

 なにしろ、西田といえばこの大河ドラマの少し前まで、日本テレビのドラマ『西遊記』('78年)で大食いにして女の子が大好き、「どうでもよかっぺ」などと言いながら、うっかりすると豚鼻になる猪八戒だったのだ。そんな“西田秀吉”は、晩年、桃色の打掛(うちかけ)で若いお色気をアピールする茶々(池上季実子)にデレデレ。この辺りもサルというより猪八戒に近い。

 もうひとりの強烈・秀吉は『独眼竜政宗』('87年)の勝新太郎。伊達政宗(渡辺謙)を見下ろす甲冑姿の“勝新秀吉”。ぎろりとにらまれただけで空気圧1000パーセント増。秀吉は、「蟻もはい出る隙間もないであろう」と自軍の布陣を見せつけ、刀を政宗に預けて立小便をするのだ。震え上がるほどの威圧感は、もはやサルイメージの原型をとどめない自由すぎる秀吉。

 なお、この『独眼竜』は、歴代大河ドラマ最高の平均視聴率39.8パーセントを記録している。

 このほか、『麒麟がくる』では現在、子役が演じて話題になっている徳川家康も、丸顔タヌキおやじとして親しまれるが、丹波哲郎が演じて“ミスターボス”になっちゃったり('89年『春日局』)、思いっきり面長の滝田栄がきまじめ人間として演じたり('83年『徳川家康』)、内野聖陽がギラギラと野望を抱く腹黒じいさんになって出てきたりと('16年『真田丸』)、型破りの例は数多い。

長谷川博己演じる光秀は、異業種からの参戦が多かった

 もちろん、型破りな明智光秀も出てきた。興味深いのは、なぜか異業種からの参戦が多いこと。

 代表例が『春日局』の五木ひろしだ。光秀得意の連歌では、まるで歌い上げるような発句を見せた“五木光秀”。まさにレコード大賞歌手の貫禄だった。

 一方、信長・緒形直人、帰蝶・菊池桃子、妹の市・鷲尾いさ子、織田信行・保阪尚希、木下藤吉郎(羽柴秀吉)・仲村トオル、秀吉の妻ねね・中山美穂、徳川家康・郷ひろみと当時のアイドル大集合の『信長 KING OF ZIPANGU』('92年)ではモテ男界からマイケル富岡が光秀に。

 ほかにも『軍師官兵衛』では落語界の春風亭小朝『真田丸』では文化人の岩下尚史も光秀役だった。岩下は、怖い顔をした信長(吉田鋼太郎)にキックされ、ずいぶん痛そうだった。

 そして迎える「本能寺の変」。“異業種光秀”は、みんな甲冑が似合ってないのもポイントだ。

 “染谷信長”だけでなく、今後も曲者がいろいろ登場する『麒麟がくる』。どんな型破り伝説を作るか。チェックしたい。


ペリー荻野
時代劇研究家・時代劇コラムニスト・ラジオパーソナリティ・放送作家。1962年、愛知県生まれ。大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。女流時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD『ちょんまげ天国』をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」を立ち上げるなど時代劇関連企画の陰にこの人あり。著書に『ちょんまげだけが人生さ』(NHK出版)『時代劇を見れば、日本史の8割は理解できます』(共著・徳間書店)ほか。