『100日後に死ぬワニ』の表紙より

 漫画家・イラストレーターのきくちゆうきがTwitterでスタートさせ話題となった4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』。

 友達とラーメンを食べたり、漫画を見て笑ったり、恋したり……。誰にでもある何気ない日常を送っている主人公のワニは、タイトルにあるように“100日後に死ぬ”設定であるが、ワニは自分が死ぬことは知らず、知っているのは読者と作者だけ。

 誰にでもいつかは訪れる“死”を、改めて考えさせてくれる作品として、Twitterでは大反響を呼び、最終回である「100日目」は、220万を超える「いいね」が集まった。

 しかし、その100日目を境に、事態は急変する。

作者のきくちさんは、3月20日に最終回を発表した直後、“書籍化”“映画化”“グッズ販売”といったメディアミックスを明らかにしました。同時に『いきものがかり』の新曲と『100日後に死ぬワニ』のコラボ動画もYouTubeで公開。その動画のクレジットに大手広告代理店である電通のプランナーの名前があったことから、“はじめから電通によって仕組まれたコンテンツだったのか”という噂が広まって、賞賛から一転、炎上状態になりました」(アニメ雑誌編集者)

 ヒットした漫画が、アニメ化し、映画化し、DVDが販売され、多種多様なグッズが販売される……こういったメディアミックスは、この十数年来当たり前のことになっているが、なぜこのような事態になってしまったのか。

「メディアミックス自体、何も珍しくないことですが、ワニが死んだ直後に続々と発表されたことがやはり大きいですよね。もう少し間を置くなり、段階的にするなりしていれば、それまで楽しんでいた読者たちの受け取り方も変わったかもしれません。

 ただ、きくちさん自身もTwitterで話していますが、あくまで彼1人でスタートさせたコンテンツであり、人気が出てくるにつれ、さまざまな方面から声がかかった。これまでずっとTwitterで無料で描いてきたんですから、広告代理店などの“大人”の存在があろうがなかろうが、好きなら温かく見守ってあげてほしいとは思いますね」(同・アニメ雑誌編集者)

 今回の『100日後に死ぬワニ』の炎上にともなって、映画やアニメなどさまざまなメディアミックスがなされている大ヒット漫画『銀魂』の作者である空知英秋のコメントも話題となった。彼は以前『銀魂』のコミックスの質問コーナーにて、映画『劇場版 銀魂』のヒットについて聞かれた際、次のように返答していた。

《生々しい話をしますと、映画というのはどれだけ観客が入ろうと どれだけ興収をあげようと 作家の懐には何も入ってきません 最初に原作使用料というものが支払われるのみです。全体の興収からいえばハナクソみたいな額ですね》

原作者にお金って入るの?

 “電通案件”であろうがなかろうが、原作者には大きな金額は入らないのだろうか。

「'12年公開の映画『テルマエ・ロマエ』は漫画家のヤマザキマリさんによる原作の実写化で興行収入59億円の大ヒットとなりました。しかし翌年にヤマザキさんがバラエティー番組で、受け取った原作使用料は100万円だったことを告白し、映画を製作したフジテレビに抗議が殺到する騒ぎとなりました」(映画製作会社関係者)

 '06年に公開され、興行収入が70億円を超えた『LIMIT OF LOVE海猿』でも、原作者の佐藤秀峰が受け取った金額が250万円程度だったことをツイッター上で告白している。

 同様の問題は漫画に限ったことではなく、小説も映画の原作となることが多いが……。

小説の実写映画化による原作使用料は、漫画よりもかなり低く設定されていると思いますね。土屋太鳳さんが主演したある小説の実写映画の原作使用料は、5万円だったそうです。原作者側は“映画化したら重版がかかって、本が売れるかもしれないから……”としょうがなく許諾することが多いですね」(文芸誌編集者)

 どうしてこんなにも原作使用料は安いのか。

「原作使用料が思いのほか低く設定されているのは、メディアミックスされることによって大きな宣伝効果をもたらし、原作が売れることが見込まれるからなんです。メディアミックスされるだけで御の字という原作者もいますし、制作会社からの言い値でOKすることが多いと思います。

 ただ、メディアミックスされても、原作の購買になかなかつながらないケースもあるので、原作料が低いことに関しては何とも言えませんね」(同・文芸誌編集者)

 原作使用料の相場について、国内外のアニメに詳しい映画ライターの杉本穂高さんに話を聞くと、

だいたい原作使用料の相場としては、200万円から400万円だといわれています。ただ、基本的に映画会社が直接お金を払っているのは出版社に対してです。

 映画会社から出版社に支払われ、出版社から原作者に支払われます。一般的には原作使用料が400万円だとしたら、その6割から8割くらいが原作者に支払われる相場だそうです。この割合は、出版社と作家個人での契約の内容によっても変わります」

 杉本さんは、原作使用料の大小だけでなく、「総合的に、どのくらいの金額が原作者に入るのかが問題」と話す。

「映画なりアニメになったときに、原作者がもらうお金は、最初に支払われる原作使用料だけじゃないんですね。いわゆる“二次使用料”というものですけど、たとえばDVDやブルーレイになったとき、その売り上げ数に応じて支払いがあります。

 また、契約内容によってはグッズ販売による収入の一部も入ってきたりする。最初の手付金としての原作使用料の額面だけで、高いからどうだ、安いからどうだと判断するのもあまりよくないのかなとも思います。あまりに安すぎる場合は非常識だとは思いますが……」

 原作使用料には、実は規定が定められているという。

社団法人日本文藝家協会が、『著作物使用料規定』というもので、一応上限として1000万円というのが協議して決まっています。規定には下限は書いてないんですが……(苦笑)。DVD等の販売のインセンティブは、“本体価格の1.75%×出荷枚数”というのが基本。ただ、個別の契約によって上下はあるでしょう」(杉本さん)

 原作使用料が高かろうが、安かろうが、ヒットするかしないかは別問題。

 多くの人々の心に響いた『100日後に死ぬワニ』だが、メディアミックスした媒体でも同じような結果を生むことができるのだろうか。