A子さんが残した配信の動画より。元の動画はすでに削除されているがネット上で拡散され続けている

《自殺配信する理由は、死んだ証を残したいからです》

動画撮影したまま電車に飛び込む

 自殺前日、神奈川県大和市に住む高校2年のA子さん(17)は自身のSNSにそう書き残した。

 2月18日、A子さんは神奈川県横浜市の相鉄線瀬谷駅で、同駅を通過する特急電車に飛び込み命を絶った。

「自殺へ至る過程をA子さんは自分のスマートフォンで撮影し、SNSで生配信していました。駅のホームのベンチには、A子さんのスマホが動画撮影モードのまま残され、飛び込む瞬間もとらえられていました」(全国紙記者)

 動画は瞬く間に拡散され、さらに第三者の手により共有サイトにも広がった。

 厚生労働省と警察庁は3月17日、2019年の自殺者が2万169人で、昨年より671人減ったと発表した。10年連続の減少の一方で10代の自殺死亡者が増加。前年より60人多い659人が命を落とした。過去20年で最悪の数字だ。その中に最期の様子を動画で残し、何かを訴えようとする若者たちもいた。

 '18年には奈良県で女子高生(16)、同年、北海道でも20代のカップルが同様に動画配信をしながら自殺した。

 自殺配信に詳しいジャーナリストの渋井哲也さんは、

「過去には“伝説になりたい”と残して生配信中に自殺した少女、視聴者とやりとりをしながら自殺した北海道の男性もいました。配信することで“誰か(自殺を)止めてくれるかも”という期待もあるのではないかとみられます」

 渋井さんによると、この北海道の男性は勤務先とネットの両方でいじめを受けており最期の配信では自分のつらい気持ちを訴えていたという。

「やりとりを残している方は“誰かとコミュニケーションをとりたい”という気持ちが強かったとみられます。死を最後まで迷っている状況だったのかもしれません。また、見ている人に自分の気持ちを伝え、拡散させてほしいという気持ちがあるようにも思います」(渋井さん)

 自殺する様子を動画で撮影し配信する、またSNS投稿に気持ちを残すこと、それは死と生、両方の感情が残されていると考えられるという。

「生きた証を残したかった。遺書がわりになっているのが『配信』かもしれません」と渋井さんは指摘。心理カウンセラーで『心理相談室サウダージ』の前田昭典室長も遺書がわりの配信と見立てたうえでこう語る。

「中には世の中に復讐的な気持ちでやっている人もいるのではないでしょうか。“自分を追い込んだのは世間、親、学校だ”などと訴えているケースも考えられます」

 冒頭のA子さんも学校でいじめを受けていたことや父親からの性的虐待をにおわせる投稿も残していた。

10代が抱える生きづら

 何が自殺の引き金になっているのかは人それぞれだが、

「予定があっても、恋人がいても、家族との仲がよくても、自殺のストッパーにはならない。それとは別次元のつらさを抱えているからです」

 と渋井さんは10代が抱える生きづらさを指摘。前田室長も分析する。

「思春期はホルモンバランスの関係もあり、ただでさえ不安定な時期。そこに虐待やいじめなどのトラウマが重なってしまって、“死ねばそれらの苦しみから解放される”と思い込んでしまうと自殺のストッパーはかからない」

A子さんの自殺直前の投稿。アカウントは削除されているが彼女にあてたメッセージは今も続く

 自殺者が残したSNSの投稿や動画は、運営会社が削除してもまた別のところでアップされ、ネット上に残り続ける。拡散に手を貸すのは、見ず知らずの第三者だ。

「自殺者を第三者が撮影したり、配信された動画や画像を拡散する行為も止まらないでしょう。目の前で事件が起きたら撮影したい、と思うのは人の心理」(渋井さん)

 次のような危惧も明かす。

「動画を見た人、自殺を撮影した第三者が精神的なダメージを受けることは考えられます。拡散しないまでも、自分のスマホにその現場を保存することで負い目を感じる。拡散された動画を見てしまうことで、同じ境遇の人が死に引っ張られる危険もあります」

 自殺予防について研究をしている和光大学の末木新准教授(臨床心理士)も、

「死にたい人、死にたいが特定の方法を準備しているわけではない人が自殺の方法を具体的に知ることでその方法を取ってしまう可能性が高くなる。それが『ウェルテル効果』です。『ウェルテル効果』は、国や地域、時代が変わろうが普遍的に起こるものです

 例えば自殺報道やドラマ、映画、芸能人の後追い自殺などがそれにあたる。対策として末木准教授は、

「そうしたことが起きない環境をつくることはとても大事なこと。いちばんは“見ないこと”。そして“拡散しないこと”。SNSで拡散する行為は拡散した本人も何らかの影響を受けるし、拡散された相手も影響を受けます」

 と、自殺配信と関係を持たないことを訴える。

最後まで誰かとつながっていたい

 死に急ぐ若者たちに死を思いとどまらせることも、大人たちの、社会の務めだ。

 末木准教授が'15年に実施したアンケートの結果に、ヒントが隠されている。

「対象は20代限定でしたが、ツイッターで『死にたい』『自殺したい』と発言している人は、それを言わない人らに比べると、自殺のリスクが高いことがわかりました。『死にたい』と適当に言っているわけではないのです」

A子さんは自殺前日に、その胸の内とともに配信する理由をSNSに投稿していた(現在は削除)

 SNSの投稿で事前に察知できる自殺願望。

「SNSに『死にたい』という書き込みをしている人、自殺の動画などを見て“私も自殺したい”という気持ちになっている人は、死ぬ選択ではなく、専門のカウンセリングを受けてほしい。自殺以外の方法や回復への希望が見えてきます」(前出・前田室長)

 と強く訴える。さらに、

虐待経験やトラウマのある人でも、回復のルートはあります。1回の相談だけで問題がすべて解決するわけではありませんし、自分にトラウマを残した人への恨みもすぐに消えるわけではありませんが適切な回復ルートに入れば、回復は必ずあります。

 例えばNPO法人ライフリンクのウェブサイト内には問題別に支援先を紹介している『いのちと暮らしの相談ナビ』といったページもあります」

 と言葉に力を込める。

「10代の子どもたちにとっては、家と学校が世界のすべて」(前田室長)で、そのしがらみから逃れる手立てとして死という選択肢が浮上する。親や先生という縦のつながり、友達という横のつながりが窮屈になったら、

「斜めの関係をつくってほしい。例えば塾やフリースクール、地域の子ども食堂もあります。ネット上だけでなく顔の見えるリアルな関係と居場所になる場所を、学校と家じゃない場所に見つけてもらいたい。親じゃない大人の存在も必要だと思います」(前田室長)

 冒頭のA子さんは、SNSに《人生何とかならないかな?自殺しなくてもなんとかならないかな》という心の揺れも投稿していた。「最後まで誰かとつながっていたいという気持ちの表れ」(前出・渋井さん)という自殺配信の蔓延を防ぐためには、「自殺のベースになっている孤立化」(渋井さん)を防ぐことが肝心だ。


NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク「いのちと暮らしの相談ナビ」http://lifelink-db.org/

心理相談室サウダージ http://www.saudade.biz