安倍首相と昭恵夫人

 安倍晋三首相が4月17日の記者会見で、“政府における布マスクの全戸配布”(通称:アベノマスク)が批判を浴びている現状について朝日新聞記者から問われたことに対し「御社のネット(通販)でも布マスクを(2枚)3300円で販売しておられたと承知している。そのような需要も十分にある中で2枚の配布をさせていただいた」と“反撃”し「皮肉った」と同日、毎日新聞が伝えた。

募っていく安倍首相への不信感

 ネットを中心に波紋が広がっているが、そもそも、このやりとりの問題点は安倍首相が記者の質問にまともに答えず、話をはぐらかして論点をずらしたところにこそある。記者会見だけではない。国会質疑でも、質問に正面から答えず話をズラすのは安倍首相の常套(じょうとう)手段だ。

 そんな安倍首相のずるさや卑劣さが明確になったのが、この日の受け答えだった。政府の施策への問いを棚に上げ、関係のないネット通販の話を持ち出し言及したのは詭弁(きべん)でしかない。

 この時期に約466億円もの多額の税金を投じて、小さくて貧相な布マスクを1世帯にわずか2枚配布することの「ショボさ」と「虚しさ」、「ガッカリ感」。さらに、ほかにもっとやるべきことがあるだろう、という「疑問」「憤り」そして「失望」。さまざまなツールを通して、これらを訴えている国民が数多くいる。だからこそ、以前から納得のいく説明が求められているのに、常に話を逸(そ)らす。

 “モリ・カケ・桜問題”(森友・加計学園をめぐるさまざまな疑惑や、首相主催『桜を見る会』のあり方における対応のずさんさを指す)をはじめ、安倍首相が繰り返すこうした不誠実きわまりない行為は、「この人物は信用も信頼もできない」と強く思わせる。ところが、自分の言動の異常性を、安倍首相はまったく自覚していない。

 ちなみに、朝日新聞社のネット通販『朝日新聞SHOP』のマスクは、大阪・泉大津市の老舗繊維メーカーが地元自治体や商工会議所などと協力して製造販売したもので、地場産業の技術を生かした手作り製品だという(※4月20日現在は受注停止中)。そうであるならば、この通販はマスク不足解消を狙った町おこし応援企画へのサポートと言えるかもしれない。安倍首相にとやかく言われる筋合いの話ではない。

 朝日新聞社の話でいえば、むしろ問題に思えたのは、同社が3月22日付の12面(スポーツ面)の下段に掲載した「立体マスク30枚セット3600円」という『株式会社夢グループ』の広告だ。「緊急入荷」と銘打ち「仕入れ価格が著しく高騰しており、ご提供価格が割高になってしまいました」などと説明されているが、確かに高額である。相場より高値での転売が社会問題化し、懐疑的に報道されていたタイミングだっただけに、こうした広告を無批判に掲載することには疑問を感じる。

 それから1か月後、4月19日付の朝日新聞は6面に通販会社『快適生活(株)ライフサポート』の全面広告を掲載。衣料品や食料品などの9商品とともに「3層構造プリーツマスク50枚セット4500円」と「3D『立体マスク』30枚6000円」の2種類のマスクが売り出された。いずれも相場より、やや高額であった。

 マスク不足が一向に解消されない状況が続けば、多少高額であっても購入を希望する人も当然、増えてくるだろう。自宅に備蓄していたマスクが底をつき始め、不安を抱く人が増えている状況では、通販広告は需要があるのかもしれない。相場と比べて法外に高額なのか、許容範囲の値段なのかにもよるが、あまりに消費者の足元を見るかのような販売手法にはやはり違和感がある。新聞広告の掲載基準に照らして、どのように判断して掲載したのか、新聞社としての説明はあってしかるべきだろう。

それでも記者はひるまずに追及を

 しかし、だからといって朝日新聞の記者が“アベノマスク”について批判的に報じてはいけないことにはならないし、安倍首相の姿勢を正さずにいる必要も、まったくない。何より、安倍首相が記者の質問をはぐらかし、説明責任を逃れていいことには断じてならない。

 記者の後ろにいる国民(主権者)に対し、安倍首相(権力者)はわかりやすく明確に、そして真摯(しんし)に説明する義務がある。記者はひるまず遠慮せず、臆することなく、厳しい質問を投げかけて権力をチェックする職責を果たすべきだ。国民(主権者)に判断材料を提供することになるからだ。そのことは改めて明記しておきたい。

(取材・文=池添徳明)


【PROFILE】
池添徳明(いけぞえ・のりあき) ◎埼玉新聞記者、神奈川新聞記者を経て現在フリージャーナリスト。関東学院大学非常勤講師。教育・人権・司法・メディアなどの問題を取材。著書に『日の丸がある風景』(日本評論社)、『教育の自由はどこへ』(現代人文社)、『裁判官の品格』(現代人文社)など。