※写真はイメージ

「年金は、加入年数、働き方や家族構成などで受給額が異なるから、あの人は〇万円もらっているから私も……と予想してもダメ。“ひとりひとり違うもの”という意識を持つことが大切です」

 と、年金に不安を抱える人へメッセージを送る経済ジャーナリストの荻原博子さん。毎年送られてくる『ねんきん定期便』に、年金見込額が記載されるようになる50歳は、年金と向き合う絶好の機会だという。

年金見込額に合わせて生活をシフトすることが重要

「実際の受給額に近い額が明らかになるので、それに合わせて生活をシフトすることが大切です。基本は、(1)家計のダウンサイジング、(2)収入を増やすの2つを組み合わせること。年金生活時に、家計がマイナスにならないよう考えておいて損はありません」

 さらに、ローンなどは、優先してなくすように具体的な計画を立てることが必須。

「65歳過ぎてバリバリ働きたい人と働かずのんびりしたい人では、同じ年金受給額でもとらえ方は違うはず。年金に向き合うことは老後をどう生きるか考えることです」

公的年金制度のしくみ イラスト/のびこ

■『ねんきん定期便』でもらえる年金がわかる

 毎年届く『ねんきん定期便』では、これまでの加入期間、加入実績に応じた年金額が確認可能。50歳以上になると、将来もらえる年金の見込額が記載される。50歳未満で、将来もらえる年金額の試算をしたい場合は、ウェブサイト『ねんきんネット』(https://www.nenkin.go.jp/n_net/)が便利。転職で年金の種類が変わる可能性がある場合の試算にも対応している。

毎年届く『ねんきん定期便』でもらえる年金がわかる

年金の払い方・もらい方、ほんとはどっちが得?

 ちょっとの違いで、老後に大きな差が。損得をシビアに見極めて!

Q:自営業で保険料を払うなら「現金」or「口座振替」どっち?

A:口座振替&まとめ払いが得!

 月々の国民年金保険料を少しでも節約したいなら、口座振替&まとめ払いを選択すべき。口座振替なら、ひと月ごとの支払いでも早割制度で月々50円=年間600円が割引に。まとめ払いにすると、2年分の前納で1万5840円、1年分の前納で4160円も安くなる(令和2年度の場合)。令和2年度の口座振替によるまとめ払いの申し込みは終了したが(令和2年2月28日で締め切り)、現金でのまとめ前払いなら、4月30日まで可能。2年分の前納で1万4590円、1年分の前納で3520円、6か月分の前納(令和2年度後期分は11月2日まで)でも810円割引になるので急いで検討を。年金を増やすなら、付加年金の追加が得策。月々400円を上乗せして払うと、支払い金額にプラスして200円×納付月数分の年金がもらえる。

Q:年金を受給するなら「繰り上げ」or「繰り下げ」どっち?

A:70歳まで繰り下げると81歳を越えたときから得!

 年金受給は、原則として65歳からだが、60~70歳の間、ひと月単位で受給開始のタイミングを調整できる。繰り下げたい場合、65歳で決めなくても65歳時点で通常の年金請求をしなければ、66歳以降の好きなときに請求が可能。早くもらい始める(繰り上げ)と受給額がひと月あたり0.5%減り、遅くもらい始める(繰り下げ)と受給額がひと月あたり0.7%増え、その金額が一生続く。70歳まで繰り上げると受給額は42%アップし、65歳からもらう人と比べて81歳からプラス域に。

「寿命はわからないので、絶対に繰り下げがお得ともいえませんが、健康でまだまだ働けるのであれば、繰り下げて受給額を増やすことは安心につながりますよね」

70歳から受給すると60歳からもらう年金額の約2倍に! イラスト/のびこ

Q:60歳以降「しっかりと働く」or「ほどほどに働く」どっち?

A:ほどほどに働いて給料と年金をもらう

 働き方に気をつければ、仕事をしながら年金がもらえる。ただし、60~65歳未満で「特別支給の老齢厚生年金」をもらいながら厚生年金に入って働く場合は、「在職者老齢年金」制度により賃金+年金が月額28万円を超えると年金が減額されるので注意。一方で「65歳からは、減額のボーダーが47万円以上となるので、ほとんどの人は思い切り働いても減額対象になりません。減額を気にして64歳まで月給15万円程度におさえ、65歳からは20万以上、稼ぎたいと思っても、賃金は年齢とともに下がるのでむずかしい面も。“70歳定年時代”を見据えて、なるべく多くの賃金がもらえる環境を優先してキープするのもいいと思いますよ

定年70歳が現実的に… イラスト/のびこ

Q:退職するなら「64歳」or「65歳」どっち?

A:65歳になる1か月前の退職で年金と失業給付金を両方もらう!

 雇用延長で65歳まで働くなら、60歳~65歳未満でもらえる「特別支給の老齢厚生年金」を64歳11か月までもらい、65歳になる月に退職するのが最良の選択。65歳になる前にハローワークで「失業給付」の申請を行えば、最大240日分の基本手当がもらえる。65歳を過ぎると「失業給付」のかわりに「高年齢求職者給付金」がもらえるが、給付は1回のみ、上限額でも約34万円なので、「失業給付」をもらうほうが得。「失業給付」をもらうと「特別支給の老齢厚生年金」は支給停止になるので、65歳になる直前が両得のベストタイミングとなる。ただし、65歳が定年と定められた会社では、退職金などに影響が出ることがあるので事前に確認を。

知らないと損する年金UP術

 もらえる年金を増やすには、自分から動くのが肝心!

<65歳以上で年金が少ない>
老齢基礎年金が満額でも年間約6万円アップ!

 2019年10月から、消費税10%への引き上げ分を活用した「年金生活者支援給付金」制度がスタート。65歳以上の老齢基礎年金の受給者で、同一世帯の全員が市町村民税非課税かつ、前年の公的年金等の収入とその他の所得との合計が年間87万9300円以下の対象者には、「老齢年金生活者支援給付金」が支給される。支給額は、月額5030円を基準に、保険料納付ずみ期間と保険料免除期間に応じて算出。満額受給者でも月額5030円が上乗せされる。給付金を受け取るには、「年金生活者支援給付金請求書」の提出が必須。「年金は、書類を提出→受給が基本。自分にあてはまる可能性があるものは、必ず届け出を。待っているだけで自動的に受給できるものはないと心得て!」

もらえるお金はいくら?

<現在54歳~64歳の女性必見!>
65歳前支給でも減額なしの厚生年金がある!

 年金は、基本的に繰り上げ受給をした場合に減額されるが、老齢厚生年金には、60~65歳未満で減額なしでもらえる「特別支給の老齢厚生年金」がある。老齢厚生年金の支給開始が60歳から65歳となる移行期間中の特別制度で、男性は昭和46年4月2日生まれ以降、女性は昭和41年4月2日生まれ以降は支給されない。受給できるのは、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)を満たし、厚生年金保険等に1年以上加入したことがある60歳以上で、生年月日と性別により、支給開始年齢は異なる。例えば、女性で今年度60歳になる人は62歳から受給できる。繰り下げはできないので、受給開始年齢に達したら早めに年金請求書を提出し、もらい忘れを防ぐこと。

*請求していないことに気づいたら?
「特別支給の老齢厚生年金」の受給資格があるか、最寄りの年金事務所に問い合わせを。受給資格がある場合でも、請求の時効は5年なので1日でも早く申請すること。

<65歳で扶養家族がいる>
配偶者がいれば年間最大39万900円アップ!

 厚生年金保険の被保険者期間が20年以上の人が65歳を迎えたとき、配偶者や子どもなどの扶養家族がいれば、老齢厚生年金に「加給年金」が上乗せされる。配偶者がいる場合は、届け出をすることで受給額が年額約39万円増えることに。ただし、「加給年金」は繰り下げができず、夫婦の年齢差によっては、年金の繰り下げ受給で「加給年金」がもらえなくなることもあるので年金事務所に確認を。該当する場合は、「加給年金」とセットになる老齢厚生年金は繰り下げせず、老齢基礎年金のみ繰り下げるのがベター。また、配偶者が65歳を迎えると「加給年金」は配偶者の老齢基礎年金に自動的に振り替え加算(昭和41年4月2日以降生まれは加算なし)される。

扶養家族の条件と加給年金の金額

<国民年金の加入期間が少ない>
60歳からの加入で老齢基礎年金を満額ゲット!

 国民年金の保険料納付ずみ期間が480か月未満の場合、60歳から65歳まで国民年金に「任意加入」することができ、年金受給額を増額できる。65歳まで5年間任意加入した場合、年金受給額が年間約10万円アップに。老齢基礎年金の満額受給も期待できる。ただし、「老齢基礎年金の受給資格(資格期間10年)を満たしていない場合は別として、任意加入で支払う保険料と受給見込額を比較して、加入が必要かよく検討すること。保険料は決して安くないので」。60歳未満で老齢基礎年金の受給額を増やしたいなら、「付加年金」制度の利用もアリ。国民年金保険料に毎月400円を上乗せして払うと、200円×納付ずみ月数分の年金が生涯もらえる。

年金増加額表

※金額は、令和2年4月時点のものです。


お話を伺ったのは
経済ジャーナリスト・荻原博子さん◎“家庭経済のパイオニア”としてメディアで活躍。著書に『年金だけでも暮らせます』など。

(取材・文/河端直子)