コロナ下の自粛生活で、乳幼児ママたちがおかれた現状とは?

 “コロナDV” に“コロナ離婚”――。新型コロナウイルス感染防止のための外出自粛要請の影響が、さまざまなところに及んでいる。

 多方面で不安が噴出しはじめる中、なかなか取り上げられていないのが乳幼児を抱える親たちの状況だ。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 感染予防のため、産科での立会出産は当面自粛とする病院が多く、両親学級や乳幼児健診も中止の措置を取る自治体が多い。また、子育て世代の憩いの場としての機能を果たしてきた各地の「子育てひろば」も、閉鎖の状態が続いている。

 ただでさえ煮詰まることの多い乳幼児の子育て期。外出自粛が続く中、親たちはどのような思いで過ごしているのか。追いつめられないようにするために、何をすべきか。

巣ごもりでストレスが爆発

「はじめまして、今日は皆さんと短い時間ですが子育てのことなどお話しできたらと思います」

 4月半ば、ママ向け情報サイト「ともえ」が配信をはじめた無料オンライン講座では、「アラフォーママのおしゃべり会」が開かれていた。

 この会を企画したのは、仙台市在住のライフケアコンサルタント竹下小百合さん(42)。第1子出産当時に東日本大震災を経験、中国地方の親戚宅に避難した際に味わった孤独感を今も覚えており、外で人と会えないことでストレスを抱える親たちを救いたいと、今回の企画に参加した。

 集まったのは各地で子育てをする7人の乳幼児ママたち。福岡市在住で10カ月の子を育てる母親は「ワンオペで毎日悩みがつきません。皆さんと話すのを楽しみにしていました」と話し、赤ちゃんを抱きながら画面超しに笑顔を見せた。

 同じく10カ月の子を育てる大阪府の母親は「パートの職場に4月から復帰予定だったけど、コロナの影響で職場が休みになりました。ずっとこもりっきりです。私も皆さんと話すのが楽しみでした」と語りはじめた。

 普段から社交的なこの母親は子育てひろばなどを頻繁に利用していたと言う。おかげでママ友も多くでき、毎日のように同じ子育て世代の人と一緒に過ごしてきた。

 だが、今回の外出自粛要請以来、だれとも会えずにいると言う。「旦那も帰りが遅いから、子どもと二人っきりです。大人と会話する時間がないのがつらい」と気持ちを話すと参加者全員が大きく頷いた。

「乳離れはどうしてる?」「うちの子は体重がすごく重いみたいで、まだお座りしかできないんだけど」などなど、その後もおしゃべりは続く。普段なら、こうしたたわいのない話は子育てひろばなどでできている。それがすべて閉鎖となり、人との接触もなるべく避けることが求められる今、乳幼児の親たちは孤独な日々を過ごしている。

静かな日々が「むしろいい」と感じる人も

 一方、コロナの巣ごもりのおかげで、平穏な気持ちになれたという女性もいた。「落ち着いて子どもと向き合うことができて、むしろ新しい充実感が生まれている」。都内在住で11カ月の子を育てるこの女性は、慌ただしい毎日に少し疲れを感じていた。

「高齢出産なこともあり、“ママ友を作らなくちゃ”と躍起になっていた面がある。ベビースイミングにベビーマッサージなど、周りのママたちが通い始めたという話を聞くと、自分も“早く始めなくちゃ”と焦っていました。でも、誰とも会わずに自宅で子どもと向き合う日々を過ごすうちに、何かを習ったり、どこかに連れて行かなきゃと焦ることよりも、この子とのんびりと過ごす生活のほうが豊かに暮らせている気がしてきた。価値観をリセットできた」

 普段顔を合わせているママ友たちとは、このような会話にはならなかったことだろう。なかなか言えない本音を吐き出せたのは、地域もバラバラ、会うのは画面越しだけ、というオンラインでの会合ならではかもしれない。

 竹下さんは、「こうして些細なことや、気持ちを口に出して話すことはママたちにとってとても大切なことだと思う。それから、子育ては当たり前のことで、“つらい”と言ったらいけない気になる人もいるけれど、“つらい”と言っても大丈夫ですから、あまり考えすぎずに毎日を過ごしてください」と励ます。

 今回のおしゃべり会のように、Zoomなど双方向で話せるツールを使ったオンラインでの交流は全国的に広がりつつある。地域で開かれている子育てサークルや子育てひろばの中にも自主的にオンライン開催をはじめたところもある。

 こうした動きについて、子育て家庭の支援に詳しい筑波大学の安藤智子教授は、同じ経験をする者同士で話すことは外で人と会うことが制限される中で子育てをする親たちにとって、イライラやストレスのため込み予防につながると評価する。

「当事者同士でサポートしあうピアサポートというものがあります。『乳幼児の子を育てている』というように、同じ特徴を持っている者同士が気持ちをシェアすることで、お互いに前向きに物事を捉えられるようになることがあります」

 大事になるのは共感が生まれることだ。

「答えを出すというよりも、話したことに対して『そうそう』と言ってもらえることが大事です。肯定的なフィードバックをもらえることで安心感が生まれます」

「安心できる場」をどう探すか

 だが、オンラインならではの対策も必要だ。攻撃的な人がいた場合は、対処を考えなければならない。リアルに会って開催されてきた子育てサークルや子育てひろば以上にファシリテーターが果たす役割は大きい。また、安心して参加するためには、誰が主催している会なのかの情報を確認することも必要だ。

「普段通っている子育てひろばなどがあれば、そこが主催する集まりがないかを見てみるのが良いと思います。自治体のHPに情報が掲載されていることもあります。そうしたところから入ってみるのが良いでしょう」

 また、交流の場は中止しつつも、子育ての電話相談窓口は引き続き開いている自治体がほとんどだ。たとえば横浜市は、普段から区ごとに開設している子育て相談窓口「子育てパートナー」を通常通り継続している。

 市の担当者は「集いやひろばは中止ですが、セーフティーネットとしての機能は通常通り開いています。不安や心配なことがあれば相談を」と呼びかけている。

 出口がなかなか見えないコロナ禍。コロナ虐待が起こらぬよう、支援の広がりに期待する。


宮本 さおり(みやもと さおり)ライター 地方紙記者を経てフリーライターに。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。