「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
安倍昭恵夫人

第40回 安倍昭恵夫人

《「どこかへ行こうと」昭恵夫人が安倍首相“コロナ警戒発言”翌日に大分旅行》

 2020年4月23日号の『週刊文春』がこう報じたとき、「またか」と苦笑した人も多いでしょう。

 安倍晋三首相夫人の昭恵さん(以下、アッキー)と言えば、歴代の首相夫人と比べると、悪い意味で話題性があると言えるのではないでしょうか。

 例えば、森友学園問題。なんだかうやむやになってしまいましたが、《森友自殺〈財務省〉職員遺書全文公開「すべて佐川局長の指示です」》と報じた2020年3月26日号の『週刊文春』は完売するなど、依然、国民の関心が高いことがうかがえます。

 個人的なふるまいで失笑を買うのは、今に始まったことではありません。

 2015年9月10日号の『女性セブン』によると、アッキーはバーで飲酒している最中、大ファンだったミュージシャン・布袋寅泰を呼び出したそうです。泥酔して布袋にしなだれかかったり、彼の首に腕を絡ませて肩に頭を乗せたり、彼の首筋にキスをしたりとすごい状況に。居合わせた他の客は、そんなアッキーを見て声を失い、当の本人はSPに抱えられるようにして店を後にしたということです。

 2019年の天皇陛下が国内外に即位を宣言する「即位礼正殿の儀」では、麻生太郎副総理夫人はロングドレス、他の奥さま方が和服である中、白いひざ丈のドレスをお召しでした。真イカの一夜干しを思わせるような、例のふんわり袖はベルスリーブと言うそうです。お隣のご婦人との間が妙に空いていたのは袖が場所を取るからか、それともヤバい人に関わりたくないわというご婦人の精神的な警戒感からでしょうか。ドレスの丈がもともと短いので万歳したり、椅子に座るとひざ小僧が丸見えでヒヤっとさせられました。

 当然、SNSを中心に「あのドレスは、マナー的にどうなのか」という声が上がります。ファッション評論家の石原裕子氏は『女性自身』の取材に対し、「ドレスコードは間違っていなかったけれど、スカート丈はせめてひざ下の長さのほうがよかった」とコメントしていました。

 国家的慶事のミスはこれで終わりません。夕方からの「饗宴の儀」では訪問着をお召しでしたが、石原氏は「安倍首相が燕尾服にホワイトタイの正装ですから、訪問着より格の高い色留袖の五つ紋がふさわしかった」と指摘しています。それと、なぜかハンドバッグが開いていました。一事が万事、誰か側にいる人が言ってやれよと言いたいところですが、助言してくれる相手がいない、もしくは助言は無視なのではないでしょうか。「政治家夫人」としてのアッキーのブレーンの貧しさ、孤立を物語るようなエピソードだったと思います。

 今年に入っても話題性は十分。2020年4月10日号の『週刊ポスト』は、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために出された花見自粛要請を気に留めず、アッキーがモデル・藤井リナ、NEWS・手越裕也など多数で花見をしていたことを報じています。4月8日掲載の『デイリー新潮』では、ラッパーのTOMOROが3月に数回、アッキーとお茶とランチをしたことを明かしていました。

アッキーは案外、空気を読んでいる時がある

 国民が自粛を強いられる中、奔放に振る舞うアッキーに「空気を読め」と言いたくなる人もいるでしょう。

 それでは、アッキーは本当に空気が読めないのでしょうか?

 2014年4月、読売新聞が運営する女性向け情報サイト『大手小町』に掲載されたインタビューで、アッキーは安倍首相が病気を患っていたときのことをこんなふうに発言しています。

《病気の時に夫を見ていて思ったんですけど、私が大きい声でげらげら笑っていたりすると、私だけが元気なので、落ち込んでしまうこともあるのではと。安倍の父(安倍晋太郎・元外相)もそうだったんですが、私は病室を明るくしようと思っていたのでケラケラ笑っていたんですけど、その笑い声が耳障りになってしまったこともあります。》

 私が親戚なら病室から連れ出して往復ビンタするところですが、この発言から判断するのなら、アッキーは「ものすごく空気が読めない」と言えるでしょう。このような振舞いが続けば安倍ちゃん一族からは孤立してしまうかもしれませんし、居場所をなくして外部との社交を求めるようになってもおかしくありません。しかし、しかし違う角度、「首相夫人として」の社交を見ると、案外、空気を読んでいるのではないかと思います。

 というのは、私から見ると、アッキーは「自分が主役かどうか」については、空気を読んでいる、かつ外していないと思うからです。

 アッキーが布袋を呼び出した件で考えてみましょう。総理大臣夫人から呼び出されたら、布袋は非常に断りにくいのではないでしょうか。さらに身体を触られたとしても、NOも言えないでしょう。SPがアッキーの行動をいさめたら、彼らはアッキーから夫である安倍ちゃんにあることないこと吹き込まれて、クビになる可能性だってゼロではない。レストランの中で、自分より権力を持っている人はいないからこその、ご乱行だと思うのです。

内閣総理大臣夫妻主催晩餐会での安倍晋三首相と昭恵夫人(2019年10月)

 反対に、即位の礼、つまり天皇皇后ご夫妻が主役の(アッキーが主役でない)儀式では、“手抜き”をしたのではないでしょうか。例のアッキー・ドレスは、2019年8月に行われた「アフリカ開発会議」のレセプションのためにオーダーして作ったものだそうです。気に入ったからこそ、御大礼のときにも着たいと思ったのかもしれませんが、自分が主役ではないからすでにあるもので済ませた、入念な準備をしなかった、だから、ドレスコードの点でミスがあったと見ることもできるのではないでしょうか。

 お花見騒動も、安倍総理は「東京都が自粛を求めている公園での花見のような宴会を行っていたのではない」と答弁し、大分旅行については「3密ではない」「神社に参拝しただけ」とアッキーをかばう、苦しい言い訳をしています。しかし、これらのお花見や外出をインスタグラムなどのSNSにはアップしていない。つまり「やってはいけないこと」だとわかっているのでしょう。

 ある部分ではものすごく空気を読まず、ある部分ではちゃんと空気を読む。こういうアッキーをなぜ安倍ちゃんこと安倍首相が守るのか。

 心のきれいな人は、ああいう天真爛漫な妻を愛しているからだと言うでしょう。しかし、私に言わせると、これが「ものすごく空気を読まない人の破壊力」だと思うのです。

安倍首相が妻をかばうしかない理由

 想像してみてください。職場の若手が「空気を読まない人」だったとします。こういう人の先輩や上司は、いろいろ言ってわからせようとするでしょう。たいていの場合は指導が功を奏すのですが、「ものすごい空気を読まない人」の場合、何も変わらない可能性があります。そうすると、先輩や上司の指導能力や監督責任が問われますから、かえって「ものすごい空気を読まない人」をフォローしようと気を使うようになっていくでしょう。その結果、「ものすごい空気を読まない人」は仕事ができないのに、権力化・聖域化していくのです。

 また、こういう人がときどき「空気を読んだ」行動を取ると、周囲は早く一人前になってほしい気持ちから必要以上に「やればできるじゃないか」と誉めたたえます。なので、「ものすごい空気を読まない人」のそばにいると、真面目にコツコツやる人が損をしてしまうのです。これは家庭においても同じことで、「妻も監督できないのか」とか「なぜそんな常識のないオンナと結婚したんだ」という批判を避けるためには、安倍首相はアッキーをかばうしかないのだと思うのです。

 アッキーと言えば、「願えばかなう、引き寄せる」などのスピリチュアル好きで有名です。個人の信条ですから、他人が口を挟むことはできませんが、総理夫人という立場とスピリチュアルは食い合わせが悪いのではないでしょうか。「願えばかなう」と信じる総理夫人のために、周囲が忖度して骨を折ることは目に見えているからです。アッキーが自然科学や経済などの一般常識を持たないまま、スピリチュアルに傾倒するほど、権力が乱用されて独裁化する可能性は高まるでしょう。

 アッキーがヤバいことは言うまでもありませんが、もっと悪質でヤバいのは、アッキーのご友人ではないでしょうか。

 バレたらアッキーが叩かれることはわかっているのに、なぜ内緒の花見で写真を撮ったり、交友関係を週刊誌に告白するのでしょうか? そうするのは、「自分は総理夫人と親しい」と周囲に知らしめるための“証拠”集めのためではないでしょうか? アッキーの友達というより、総理夫人という「ブランド目当て」のように感じられます。

 権力という名の甘い汁を吸うために、アッキーとのつながりをテレビやネットで公言する人は、アッキーを加速させる「ヤバイ人」だと私は思います。私たちはそういう人の名前と顔を、よく覚えておくべきかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」