JO1

「将来、大きな利益を生むと踏んでの事だと思います。というのも、吉本興業自体が“総合エンターテイメント企業”を目指していて、お笑いの他にも文化人やスポーツ選手のマネジメント、テレビ番組や映画の制作も始めて、IR(カジノ)にまで携わろうとしています。これは大きなマーケットがあり、そこでショーやライブを披露できる男性アイドルグループを推し進めるのは戦略として理にかなっていると思います」

 5月4日から6日に放送された『めざましテレビ』(フジテレビ系)の特別企画『めざましおうちフェス』で、見事なパフォーマンスを披露した男性11名からなるグローバルボーイズグループ『JO1』。その音楽スタイルとビジュアルから、K-POPグループと間違う視聴者も多かったとは思うが、彼らはみな日本人だ。

 先に、日経BP総研上席研究員の品田英雄氏が解説したように、彼ら『JO1』には吉本興業が深く関わっている。近年、他分野においても手広くビジネスを仕掛けてきた吉本が、次に開拓する市場が男性アイドル産業というわけだ。

「彼らの名前を初めて聞く人も多いでしょうが、3月4日にデビューしたばかりの新人グループながら若者を中心に絶大な支持を集めています。デビューシングル『PROTOSTAR』はオリコンシングルランキングで1位を獲得し、現在は累計売上40万枚に迫るなどジャニーズアイドルに劣らない勢いですよ」(音楽情報誌編集者)

 実は、かつてBS放送などでアイドル専門チャンネルを開設し、女性アイドルの『いもうと』や『YGA』、最近では『吉本坂46』や、9人組グループ『つぼみ大革命』を結成させるなど、アイドル分野に挑戦してきた歴史がある。が、お世辞にも成功してきたとは言い難い。

K-POPビジネスのノウハウを授かる吉本

 なぜ今回、デビュー間もない彼らが、ジャニーズ“一強”の男性アイドル産業において勝負できているのか。

「JO1は韓国発のオーディション番組『PRODUCE 101』の日本版『PRODUCE 101 JAPAN』から誕生したグループで、101名の候補者から選ばれた精鋭たちなのです。昨年4月のセレクションから約1年をかけて、歌やダンスをはじめとした課題挑戦や合宿などにカメラが密着し、最終的に“国民プロデューサー”である視聴者の投票でメンバーが決定しました。すでにメンバーそれぞれに、“推しメン”を応援する熱心なファンがついているのです。

 また、番組は吉本と韓国のエンターテイメント事業を手掛ける『CJ ENM』の共同制作で、JO1はその合弁会社の所属となっています。彼らがK-POPグループの流れを汲むのはそのためで、吉本はK-POPビジネスのノウハウを授かることで、これまで実現できなかった本格派グループを誕生させることができたのです」(レコード会社関係者)

 結成後はトントン拍子だ。デビュー前にして、男性グループとしてはSMAP以来となる『ソフトバンクグループ』のCMキャラクターに抜擢され、4月にはラジオながら初冠番組もスタート。放送開始15分でツイッターのトレンド1位を獲得するなど、JO1ブームが着実に広がってきている。

「ジャニーズをはじめとするアイドルといえば、故・ジャニー喜多川さんが手掛けてきたようにトップがメンバーやコンセプトを決定し、パッケージングされたグループを提供する形式が多く見られます。一方のJO1は、ファンがイチから選んだグループなので親近感を持ちやすく、より“育てた”感が強く感じられるのでは?」(前出・レコード会社関係者)

 また、ジャニーズが主戦場としてきた、歌番組やバラエティー番組などの“テレビの力”が落ちてきたことも影響している。

「テレビ局はジャニーズの人気にあやかってヒット番組を生み出してきた経緯もあり、たとえ他事務所が男性アイドルグループを売り出そうとしても、各局が“ジャニーズと共演させない”など“忖度”する風潮が見られました。しかし、若者のテレビ離れが進む昨今では、ジャニーズが多く出演するテレビに頼らずとも、自分が応援したいアイドルをネットで選択できる時代になったのです」(広告代理店関係者)

 昨年7月にジャニーズのカリスマ・ジャニー喜多川さんが他界し、また公正取引委員会によるジャニーズへの“注意”も、ジャニーズ帝国の弱体化がささやかれる一因ともされる。

「また嵐や関ジャニをはじめとする“屋台骨”は、軒並み30代後半に差し掛かるオジサン。次代を担う“キンプリ”や“スノスト”がデビューしたとはいえ、まだ他を圧倒するほどではありません。男性アイドル産業は、今が新規参入のチャンスと言えるのではないでしょうか」(前出・広告代理店関係者)

 時は来たーー。吉本にしてみれば、待ちに待ったアイドルビジネス拡大のチャンスが到来したということか。ジャニーズへの“宣戦布告”だ。

「対ジャニーズ」ではない吉本の戦略

「たしかにジャニー(喜多川)さんが亡くなり、嵐の活動休止宣言もありました。また公正取引委員会の件もあり、相対的にジャニーズの影響力は弱まっていると言えるのかもしれません。だからと言って、吉本興業がその間を縫って新しいアイドルグループを作り、ジャニーズと正面からぶつかろうとしている、ということではないと思います。

 それよりも、地上波テレビがエンターテイメントの中心だった時代から変化し、今はネットを通じていくらでも情報を広げられますし、新しい音楽、新しいアイドルに若い女性が熱狂することがわかりました。また『BTS』のように国境を越えて世界に通じるグループが生まれたように、K-POPのノウハウを生かすことで国内、アジア圏、さらに世界へとつながる大きな可能性を感じてこのプロジェクトができたのではないか、と考えられますね」

 とは、前出の日経BP総研上席研究員の品田氏。あくまで吉本は“対ジャニーズ”ではなく、より先を、「JO1プロジェクト」は世界を見据えたビジネスなのだとも。

「かつては音楽であればJ-POPを真似ていた時代のある韓国ですが、世界に、特にアメリカにモデルを求めた結果、J-POPとK-POPは明らかな差が出てきました。そこが韓国のすごかったところで、映画『パラサイト』がアカデミー賞を獲ったように、“世界から見ると何が受けるのか”というのを真剣に考えて、みなが仕事や留学で学び、韓国エンターテイメント業界に持ち帰ったことが大きな転機になったと思います」(前出・品田氏)

 世界から見れば“ガラパゴス”化したとも言える国内エンターテイメント。競争化が起きつつある現在のアイドル業界こそ、本来あるべき正常の姿なのかもしれない。