扇風機でウイルスは吹き飛ばせる?

「対面ではなく、横並びで食事をするというのは違和感がありますね。出先での食事を想定しているのかもしれませんが、家庭でこのスタイルを貫くのは寂しい。余計にストレスがたまりそうなので、できる範囲で実行すればいいのではないでしょうか」

 と東北大学病院・感染管理室の徳田浩一室長は言う。

梅雨~真夏の新しい生活様式は?

 緊急事態宣言の5月末までの延長に伴い、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は4日、長期戦を見据えて「新しい生活様式」の実践例を公表した。

 毎朝、検温し、帰宅後はすぐに手や顔を洗う。外出時や屋内にいるとき、会話をするときは症状がなくてもマスクをつける。

 食事は横並びで座って料理に集中し、おしゃべりは控えめにする。「お酌」も避けるとしている。

 ほかにもたくさんの例が示されており、冒頭で徳田室長が指摘したように完璧に実行するのは無理がある。

 しかし、ひとつの指標として行動を変えていく必要はあるだろう。

 さらに時節柄を踏まえると、専門家会議がなぜか指摘しなかった「梅雨~真夏の新しい生活様式」についても頭に入れておきたい。

 すでに冷房を使っている家庭もある中、まず気になるのは、冷房中の換気はどうすればいいかということ。

 前出の徳田室長は「換気は重要です」と強調する。

「家庭内で感染が広がったケースは少なくありませんから、体調の悪い家族がいるときはマメに窓を開けて空気を入れ替えるようにしてほしい。一家全員が元気でも、無症状感染かもしれないと考えて換気を忘れずに……」

 厚生労働省は感染予防策として、これまで日中には2~3時間に1回は換気することを推奨してきた。

 徳田室長によると、暑い日でも、1回の換気時間を短縮しても、換気回数は減らさないほうが効果的という。

 家族の予防のためには、冷房効率を上げて電気代を節約することは後回しにすべきだろう。

 新型コロナは高温多湿に弱いとされるが、常夏のシンガポールでも感染が拡大するなど未解明な部分が多い。

 夏でも熱いシャワーを浴びたほうがいいのだろうか。

夏になれば消える、は間違い

 関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)が答える。

「熱いシャワーぐらいでは身体に付着したウイルスは死にません。80度の熱湯ならば殺せますが、ヤケドしますので現実的ではない。むしろ、ぬるめのお湯でいいので、ウイルスを洗い流すようにしましょう」

 東京都はホームページで、衣服についたウイルスの熱湯消毒について「80度で10分間」を有効としている。

 一般的に、お風呂の浴槽はおおむね38~42度ぐらい。熱でウイルスを仕留めるにはほど遠い温度といえる。

 外出先ではどう変わっていくか。梅雨どきには公園の遊具やベンチなどが雨ざらしになる機会が増す。

 NPO法人『医療ガバナンス研究所』の上昌広理事長は、

「ベンチの手すりなどにウイルスが付着していたとしても雨で流される可能性は十分ある」

 と話す。

「中国の研究者たちは“感染するのは基本的に屋内だ”と指摘しています。つまり、屋外の感染リスクはそもそも低いといえる。リスクのあるものに触れたあとは手洗いが必要ですが、過度に怖がらないことです」

 梅雨が明ければ、真夏はすぐそこ。

 世界保健機関(WHO)は、

「インフルエンザのように、夏になれば消えると考えるのは間違い」

 と見解を示しており、前出の上理事長も、

「2009年の新型インフルエンザはGW明けから真夏にかけて流行しています」

 と警戒する。

 日差しも強くなり、“ステイホーム生活”による運動不足を解消するための散歩やジョギングもしんどくなってくる。

 米政府は、紫外線が新型コロナウイルスを減少させる効果があるとする研究データを発表しているが、日光浴でウイルスを殺せないか。

「紫外線で肌の表面についたウイルスが死ぬ可能性はありますが、体内に入り込んだウイルスを殺すのは無理です」

 と、前出の勝田教授。

 さらに、

「夏は半袖・短パンなど素肌を露出する機会が増えます。素肌やうぶ毛などの体毛にもウイルスは付着しうる。ただし、長袖を着ているときと感染リスクはそんなに変わりません」(同)

 健康な肌の表面にウイルスがついたとしても、そのまま体内に染み込むことはないという。

蚊に刺されて感染する?

蚊に刺されると感染する?

 あくまで素肌や体毛、衣服に付着したウイルスを触った手で、目や鼻、口などの粘膜を触ることで感染する。つまり、服装は関係ないというわけ。

 ならば、接近するウイルスを追い返せないか。

 例えば、電車の中。くしゃみの微細なしぶきとして空中に浮遊するウイルスを、携帯式の小型扇風機や、うちわであおいで吹き飛ばしたい。

「現実的にはまず無理でしょう」と指摘するのは前出・徳田室長だ。

「空中にウイルスが浮遊しているシチュエーションは限られます。くしゃみの細かい飛沫が舞う短時間が想定されますが、マスクをつけずにくしゃみをした人に小型扇風機を向ければトラブルにもなりかねない。ウイルスを吹き飛ばそうなどと考えず、くしゃみの届かない距離を保つようにしたいですね」(同)

 夏は蚊に刺されたり、ダニなどの小さな虫に食われる不快なシーンも増える。ウイルスを媒介しないだろうか。

 前出の勝田教授は、

「蚊が媒介するウイルスはデング熱、チクングニア熱、ジカ熱が3大チャンピオン。新型コロナを蚊や虫が媒介したとする報告はありません」

 と答える。

 マスクで汗ばむこともありそうだが、

「具合が悪くならない範囲で、必要に応じてつけたほうがいい」(前出の徳田室長)

 とのこと。

 コロナが終息しない限り、今年はそうとう手ごわい雨期と夏を迎える。