※写真はイメージ

「大脳には約200億の細胞が存在しますが、実際に使われているのは、わずか5%といわれています」(井上肇先生、以下同)

 大部分の脳がなぜ使われていないかは未解明だが、“両手を使わないこともわずかではあるが理由のひとつでは”と井上先生は指摘する。

「人間の脳には身体の各部位の運動をコントロールする司令塔がありますが、右利きの人は左脳に、左利きの人は右脳に配置されています。そのため、右利きの人の右脳は左脳ほど開発されていません。その司令塔の中には、住所の“番地”にあたるものが存在しますが“手”と“口”の番地の部分はほかの部位に比べて圧倒的な広さを占有しています。なぜなら手と口の運動は際立って複雑だからです」

左手の訓練は片まひになったときの対策にも

 この複雑な仕事を左手にさせれば、それが右脳の巨大司令塔の新規開発事業となり、計り知れない刺激が脳を活性化。認知機能低下(認知症)の抑制が期待できる。

「みなさんが自分らしい字が書けるようになるまでには小学生時代から15年以上かかっていると思いますが、新しい書字訓練も完成に15年かかり、その間、脳に刺激を送り続けます。脳が衰え始める40代からこれを始めれば、認知症突入危険年齢帯まで脳活性化に役立つはずです」

 左手の訓練は“もしも”の際のリハビリ・介護予防策としても大きなメリットに。

万が一、片まひになったときに対する対策です。脳血管障害は65歳以上では30人に1人の発生率ですが、その90%は脳梗塞・脳出血によるものですから、われわれが片まひになる可能性は決して小さくありません。片まひになった瞬間、食事・書字・洗面・衣服の着脱・歩行・会話など日常生活にかかわるすべてが突然できなくなってしまいます。しかし元気な今、この書字訓練を終えておけば、これから起きる病気に対する大きな保険になります。右手が元気なうちに右手を先生として左手を訓練しておくのです。字がうまく書けるようになれば、食事・ボタンかけなどの動作も自然にうまくなります」

 左手で字が書けるようになったら40字日記をすすめる。

「その日の天気・昼食・出来事を書くことで、持続化と上達の“見える化”が可能になり、モチベーション向上につながります。認知機能が衰えると曜日の概念がなくなったり、さっき何を食べたか忘れたり、社会事情に疎くなります。日記は最高のボケ対策です。私もまだまだ小学生並みの文字ですが、毎日日記を続けています。今日からさっそくペンを持ち、焦らず練習を始めてみてください」

■左手日記のPOINT
1.左手(非利き手)で書く
2.その日の天気を書く
3.昼食の内容を書く
4.その日のニュースを1つ書く
※1日40文字程度でOK。認知機能の低下防止と社会への関心を保つ効果を発揮

『左手で字を書けば脳がめざめる‐「質」の高い老いをめざして』左手を使うことのメリットと“両手使い”を訓練するための5つのメソッドを紹介/冬樹舎刊、1300円(税別) ※記事内の画像をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

井上肇(はじめ)先生/聖路加国際病院整形外科名誉医長。整形外科専門医。腰痛・ひざ痛などの治療のほか、リハビリテーションにも携わってきた