閉鎖された渋谷・スクランブル交差点の喫煙所

「家の近所の喫煙所が閉鎖されて、自粛中の商店街の閉まったシャッターの前で吸っている人をよく見かけます。人通りが減ったから、吸ってOKという考えなんでしょうか。私もスモーカーですが、歩きたばこや路上のポイ捨ての多さが気になりますね」(東京都・30代・会社員)

 新型コロナウイルスは感染の広まりのみならず、さまざまな事業者の営業自粛で社会生活全般に大きな影響を与えている。スモーカーの事情も例外ではない。

改正健康増進法と東京都条例の影響が

 4月1日に改正健康増進法が全面施行され、屋内施設が原則全面禁煙となり、今まで喫煙が可能だった居酒屋やパチンコ店などの施設も対象になった(所定の要件に適合すれば、各種喫煙室の設置が可能)。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「3密」になりやすい喫煙所の多くが閉鎖となり、スモーカーの居場所がなくなっているのは事実。その影響は都心から離れた住宅街でも……。

「中年のサラリーマン男性が、駅前の路上で座ってたばこを吸っているのを見て驚きました。市が路上喫煙の防止に関する条例を出しているので、やめてほしいです」(埼玉県・40代・主婦)
 
 健康増進法の全面施行に加え、東京都では4月からの「東京都受動喫煙防止条例」により2人以上が利用する施設は、原則屋内禁煙に。保育所、幼稚園、小中高等学校などでは敷地内に喫煙所を置くことも禁止、飲食店は4月1日時点で営業している既存店で、資本金5000万円以下・客席100m2以下、かつオーナーのみで営業するようないわゆる「従業員を使用していない店」しか喫煙可にすることはできなくなった。

公衆喫煙所の死角でひっそり吸う人も

 さらに喫煙所の閉鎖がスモーカーに追い打ちをかけている。場所によっては、閉鎖されている喫煙所に入って吸ったり、その周囲に吸い殻を捨てるなどのルール違反が見られるのだ。

 吸い殻のポイ捨てはコロナ禍以前から問題となっていた。ヒーローのコスチュームを身にまとい、東京・渋谷を中心にゴミ拾いのボランティア活動をするチーム「NEXUS FOREVER」代表のスラウザーさんは3月1日、ツイッターに道路の排水溝にたまった吸い殻の動画をあげ、7.6万リツイートされている(5月19日現在)。2月末以降は屋外での活動を自粛しているため、それ以前の様子を聞いてみた。

「多いときは1か所の排水溝で1000本以上も吸い殻が出てくることもあります。渋谷に限った話ではなくて、埼玉の大宮で活動したときも、排水溝から吸い殻が山のように出てきました。渋谷で吸い殻のポイ捨てがいちばん多いのは、スクランブル交差点の公衆喫煙所。あのゾーンに行ったら、喫煙所の中もその周りも、吸い殻だらけで足の踏み場がありません」
 
 緊急事態宣言発令後の5月19日に、渋谷駅前にある2か所(スクランブル交差点脇、モヤイ像前)の公衆喫煙所を記者が見に行ってみると、両方とも閉鎖されていたが、その周囲でのスモーカーが目立った。モヤイ像前の喫煙所では、裏側の死角でひっそり吸っている人が10人弱。吸い殻が喫煙所の周りにかなり落ちていた。

環境激変でスモーカーはどうしたらいい?

 一方、家に帰っても喫煙の場所はなくなりつつある。ひと昔前は家族の迷惑になるからとベランダで喫煙する人を「ホタル族」などと呼んでいたが、ベランダ喫煙を管理組合で禁止するマンションが増え、室内での喫煙を求められている。
 
 賃貸住宅の場合は、屋内での喫煙を禁止しているところも。

「契約で室内禁煙の決まりになっているので、ベランダで紙巻きたばこを吸っています。ベランダに面する隣人から注意されたことはまだありませんが、内心ビクビクしています」(東京都・30代・会社員)

 屋外でも屋内でも行き場を失ったスモーカーたちの取るべき行動とは? 喫煙歴35年、紙巻きたばこから加熱式たばこ、葉巻などさまざまなたばこを試しているライターの清水りょういちさんに話を聞いた。

このご時世、煙やニオイの強い紙巻きたばこを吸っていると、行き場を失うのはしかたないこと。いつでもどこでも紙巻たばこを吸う時代は終わったんだと思います。非喫煙者の迷惑になるのはいうまでもなく、自身の健康の問題や火災の心配もあります。とはいえ、禁煙しようと思ってもすぐにできるものではありません。ルールを守りつつ、妥協点を見つけるしかないと思います」(清水さん、以下同)

シーンに合わせてデバイスを使い分け

 紙巻たばこを吸う場所を探すよりも、加熱式たばこ、嗅ぎたばこ、電子たばこなど直接火をつけない次世代たばこに切り替え、使い分けることがスモーカーの生きる道だと清水さんは語る。

これからは、シーンに合わせてデバイスを使い分けることが必要です。例えば私は、外出先では加熱式たばこ、長時間の移動中は嗅ぎたばこ、家でくつろぎたいときは葉巻など、TPOに合わせて変えています。電子たばこは日本ではニコチンを入れられない決まりなので、ここではたばことは区別しておきます」

嗅ぎたばこ。粉砕したたばこ葉が入った小さな袋を頬と歯茎の間に挟んでニコチンを口腔内で吸引する。ミントやバニラなど、多くのフレーバーが発売されている

 耳なれない「嗅ぎたばこ」とは、小袋にたばこ葉を詰め込んだものを、口に入れ口内粘膜からニコチンを吸収するたばこ製品だ。

 そして現在、次世代たばこの主流となっているのが加熱式たばこ。たばこ葉を燃やさずに加熱して吸入する方式だ。

「ポイントは高温加熱型にするか低温加熱型にするかの選択だと思います。高温型のほうがガツンと吸いごたえがありますが、ポップコーン臭という加熱式たばこ独特のニオイが気になることもあります。低温型はマイルドですが、ニオイはほとんど気にならず、家の中で非喫煙者の妻の横で吸っても、ほぼ無臭レベルだと言われます。吸っている途中でオフにすることができるので使い勝手もよく、私は低温型派です」

低温型の加熱式たばこ『プルーム・テック・プラス』

 紙巻きたばこに比べて加熱式たばこは有害物質がカットされており、スモーカーの健康への影響も少ないという。また、低温型の加熱式たばこは、カートリッジ方式なので街のポイ捨ても少なくなくなるのではないかと清水さんは語る。

 また改正健康増進法の全面施行に伴い、加熱式たばこ専用喫煙室を設けている飲食店もある。

「この機会にいろいろと次世代たばこを試してみるといいと思います。自分に合ったスタイルを見つけるのも楽しみのひとつですよ」
 
 喫煙によるくつろぎ、リラックスを心の支えにしている人は多いだろう。求められるのはスモーカー、ノンスモーカーお互いにとって心地いい行動様式だ。スモーカーはコロナ禍を機会にデバイスで喫煙スタイルを変えるのも手かもしれない。