通勤する人々の様子 (写真はイメージです)

 緊急事態宣言の解除に向けた出口が少しずつ見えてきて、私たちの関心はアフター・コロナをどう生きるかにシフトしてきている。

 営業自粛をしてきた業種の企業に勤める人の中には、自分の職が今後保障されるのか不安を感じている方もいる。また、在宅勤務で1、2カ月出社していない人の中には、在宅中に仕事の成果が出ず、上司にどのように評価されたのかと不安を感じている方もいる。

 家にばかりいて、色々と考える時間があるから、かえってキャリアへの不安が募ってくる。アフター・コロナに向けて、どのように自分自身のキャリアを再構築していけばよいのかを考えてみよう。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

日本経済はどうなっていくのか

 まず、日本経済の環境がどのように変化していくかを見通しておく必要がある。筆者なりに大胆に予測すれば、アフター・コロナの私たちの仕事を取り巻く環境は以下のように変わっていくであろう。

 第一に、トランプ大統領が聞いたら怒り出しそうであるが、中国のコロナからの立ち直りの早さ、アメリカのコロナ感染状況を見ると、コロナ後の世界では中国の方が圧倒的に元気になっていくことはほぼ確実だろう。その結果、これまで2030年ごろと予想されていた米中のGDP逆転は、2020年代中盤にも起こってくる。

 第二に、その時、日本経済はどうなっているかだ。緊急事態宣言解除後も自粛ムードが続いていくことを想定すれば、2020年の日本経済は、エコノミストが言っているような年率換算で4~5%程度のマイナス成長にとどまらず、年率10%近くのマイナス成長となっても不思議ではない。

 内閣府が5月18日に発表した2020年1-3月期の実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率で3.4%減のマイナス成長だった。4-6月期はさらなる低下も必至だ。どの企業、どの業種にとっても、経営環境は非常に厳しくなる。

 第三に、業種別にどうなるかということであるが、4、5月の緊急事態宣言下での動向に見られるように、観光業、運輸業、飲食業、小売業などは壊滅的な打撃を受ける。5月15日に、東証一部上場企業のレナウンが民事再生法の適用を申し立てたが、廃業・倒産に追い込まれるところが続出する。時間がたつにつれて、他の業種にも影響が拡大し、減収減益となる会社がほとんどということになろう。

 第四に、こうした経済動向の結果として、職を失う者が多く発生する。非正規労働者やフリーランス・個人事業主に大きな影響が出るばかりでなく、正規労働者でも職を失う者が急激に増加し、失業率は5%以上にはね上がってくるおそれがある。安定した職場と思われていた大企業でも早期退職の募集が増加し、40代や50代で職を失うサラリーマンが発生するだろう。

 こうした厳しい環境下で、私たちの仕事スタイルはどのように変わっていくのか。私たちは、仕事スタイルをどのように変えていかなければならないのか。

 緊急事態宣言下で、大企業を中心に広く在宅勤務が行われたことで、ビデオ会議と電話会議による打ち合わせが急速に普及した。ビデオ会議や電話会議で打ち合わせをすると、顔を合わせた会議の時より、話の内容に集中するようになるので、内容のあること、付加価値の高いことを話さないと、それを聞いていた上司や同僚から評価されない。

 その結果、日本企業に多い上司同僚に対する“ごますり屋”、空気を読んで多数意見に同調するだけの“風見鶏”、情報を右から左へ取り次ぐだけの“伝達屋”の存在意義は薄れていく。

 会議でやるべきことが決まると、その後は個人が与えられた仕事を自宅でこなしていく。終わったらアウトプットを上司や同僚に送る。上司や同僚は、アウトプットとして送られてきたものを、注意深く読む。こうなると、アウトプットの質が問われるようになる。

 この結果、人事評価制度も成果主義に変わっていく。年齢に関係なく、いい意見・いいアイデアを出したものが高い評価を得るようになる。日本的な年功序列、終身雇用制度は急速に薄れていく。となれば、採用も新卒一括採用から中途ジョブ採用が好まれるようになり、社員にはプロフェッショナルとして力量が問われるようになる。

アフター・コロナのキャリア・サバイバル戦略

 こうして社員のプロフェッショナル化が進む環境の中で、私たちはどのようにして自己変革を図っていけばよいのか。

 その第一歩は、気持ちの持ち方を変えることである。会社という組織に所属していながらも、自分の腕一本でやっていく気概を持つ。もし、あなたがこれまでゴマすり屋、風見鶏、情報伝達屋を演じていたなら、それを辞めることを肝に銘じる。今日からは、プロフェッショナルとして生きるんだと……。

 第二は、そのための能力向上である。自分で情報を獲得し、分析し、それに基づいて、自分なりの解決策を出すという能力を身に着けていく。自分の強み弱みを冷静に分析し、足りないところを補っていく。

 第三に、プロフェッショナルとしてやっていくからには、自分の得意分野も持つことも重要である。ゼネラリストではなく、○○分野のエンジニア、○○分野のSE、経理のプロ、企画のプロというように、狭い分野でいいので、他人にはまねのできない能力を身に着ける。

 第四は、自分自身を自分という会社であると見立てて、必要なスキルを身につけるための投資をする。書籍を買って勉強する、オンライン講座で勉強する、MBAを取るなど、いろいろな方法が考えられる。最近は副業ブームで、ネット通販等で収入を得ようとするサラリーマンが多いと聞いているが、そうした時間があるぐらいなら、自分の将来に投資したほうがはるかに投資対効果も高い。

 アフター・コロナの時代は、感染症、自然災害、経済変動など、ますます不確実性が増大していく時代となる。だから、自分のキャリアのリスク管理戦略を考えておくことが必要だ。

 その答えを、いろいろな分野に手を出して、いろんなことをできるようにしておくことだと考える人もいると思う。しかし、それは間違いである。いろんなことが中途半端にできる人を欲しいという会社はない。転職市場では、本当のプロフェッショナルが求められている。

 従来の日本企業で行われてきたような営業→SEや、SE→経理といったゼネラリスト型人事は、何のプロでもない、売るべきスキルを持たない社員を作りだすことになり、労働者のリスクを増大させてきた。

 ヘッドハンターから、「あなたは何ができますか?」と聞かれると、多くの日本の大企業の部長が「○○会社の部長ならできます」と答えたという笑い話を聞いたことがあるが、これこそがゼネラリスト型人事の弊害である。

専門バカとしてプロの道を究める

 新卒一括採用され、会社への忠誠を誓わされ、脈絡のない人事異動を続け、入社15年経つと課長に昇進、25年経つと部長に昇進してきたという人には、社外でも売ることができる専門的スキルが身につかないのである。こうしたゼネラリストの持っている能力は、社内人脈とその調整能力だけで、特定分野の仕事のスキルは浅いものでしかない。

 その一方で、地味かも知れないが、経理一本で25年やってきた経理マンは立派なプロフェッショナルだ。業種が変わっても、同じ経理なら仕事ができる。自動車エンジン設計のエンジニアを30年やってきた人も、同じエンジン設計の分野での転職が可能である。

 つまり、アフター・コロナの世の中では、プロフェッショナル化を目指し、専門バカと言われるぐらいに自分の道を突き詰めていくことが正しい道となる。


植田 統(うえだ おさむ) 弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授
1981年に東京大学法学部卒。東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。アメリカ・ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)入社、経営戦略コンサルティングを担当。その後、野村アセットマネジメントやレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を経て、弁護士になる直前まで、アリックスパートナーズに勤務し、再生案件、1部上場企業の粉飾決算事件等を担当。2010年弁護士登録を経て、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。現在は、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義し、数社の社外取締役、監査役を務めている。